欠陥マンション問題に見る下請け業者の厳しい現実
建築業界で相次ぐ不祥事
連日の報道で御存知の通り、横浜のマンションで杭の打ち込み不足によるマンションの傾斜が問題となっています。この問題をきっかけに、他の建築物でも次から次へとデータ改ざんが明らかになり、大きな社会問題へ発展しています。
以前にも東洋ゴムの耐震偽装問題やさらに遡ると姉歯事件、最近になって大和ハウスで防火戸に不正があるなど、建築業界では不正や改ざんなどの憂慮すべき問題が次々に明らかとなってきています。果たして、なぜこのようなことが起こるのでしょうか。
技術者の高齢化も要因の一つ?
まず一つの要因として、建築技術者の高齢化問題があると考えます。杭打ちのデータなどは作業開始時にセットする必要がありますが、建築技術者の高齢化でうっかり忘れてしまい、途中からデータ機器を作動させてしまうことも起こりえるミスの一つです。
また、高齢者ということは経験が豊富な技術者が多く、その経験に頼ってしまうこともあります。「このような場合であれば、このくらいで問題ないだろう」という経験測で判断してしまい、実際の測定データを使わず近隣の測定データを流用するなど、あってはならない事態も想定されます。
下請けに課せられる厳しい工期日程
今回のマンションの傾斜問題について、そうした経験による判断があったのかどうかはわかりませんが、短い工期設定をされて判断を急がされてしまった下請け業者には、大きな重圧があったのではないかとも考えられます。この工期についても、技術者の高齢化と同様に問題の温床となる可能性があります。
マンションやアパートなどの大きな現場では、最初に竣工予定日を決め、そこから着工日を逆算していくことがあります。ここに、大きな問題があります。この逆算自体に問題はありませんが、同時に開発許可や確認申請などの手続きを同時に行うため、スムーズに許可が下りない場合、着工予定日になっても工事が始まらないケースが多く見られます。しかし、竣工日は契約時に施主へ伝えてあるため、変更するわけにはいきません。結局、ずれ込んだ着工日から工事をスタートするため、無理な工期になってしまうという悪循環が起きてしまうわけです。
「工期に余裕を見て考えておけばいい」と思うかもしれませんが、顧客を逃がさないためにはその希望納期に応えていく必要があり、また、その納期から逆算するため、厳しい工期でも無理をして受注する必要が出てきてしまうわけです。
下請けと元請けとの連携体制の整備が求められる
さらに、下請け業者の立場は元請けの設定した工期に間に合わすことができなければ、次の仕事がなくなるのではないかという重圧との戦いです。本来なら余裕を見込んで1カ月欲しい工事期間でも、ギリギリ1カ月といった具合で工事期間が設定されてしまい、その中で工事を間に合わせる必要に迫られます。天候の問題や職人の人手不足などはお構いなしで、間に合わせていくためにどんなことでもしなくてはいけない状況です。
こうした問題は本来、あってはならないことです。また、若い技術者を育てること、適正な工期をしっかりと判断することは、当たり前に求められていることです。仕事をしながら技術者を育てていくのは、下請け業者にとっては厳しいことではありますが、元請け業者が重圧をかけていくのではなく、元請け業者との連携がしっかりできる体制が整えられることを願うばかりです。
(松林 秀典/一級建築士)
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