“忘れ去るということを、いかに忘れさせないか”という難問〜映画『100,000年後の安全』を観て

中田宏のオピニオン

今回は中田宏さんのブログ『中田宏のオピニオン』からご寄稿いただきました。

“忘れ去るということを、いかに忘れさせないか”という難問〜映画『100,000年後の安全』を観て
映画『100,000年後の安全』(2009年、監督:マイケル・マドセン) *1 を観てきました。東日本大震災による東電福島第1原発の事故への対応が続く中で、私はかねてからのある疑問を考え続けてきました。その私の疑問に答を求めるような映画だと知り、久しぶりに映画館に足を運びました。

*1: 映画『100,000年後の安全』公式サイト
http://www.uplink.co.jp/100000/

私の疑問は、原発に対して人間は責任を取ることができるのかということです。水力発電も自然界を破壊する要素があることは百も承知していますが、人が管理監督できる度合いが高く、最終的には停止・撤去することによって不完全ではあっても環境への負荷を取り除くことができます。一方、原発(あるいは原子力利用)は、いま生きる我々だけでなく、大げさに言えば人類として責任を取れるものなのかと考えてしまうのです。

放射性廃棄物が“無害になるであろうと考えられる”時間を直接的にタイトルに表現したのが『『100,000年後の安全』です。舞台は、フィンランドに現在建設中のオンカロと称する最終処分場。地表からジグザグに4キロ以上掘った地下500メートルの地中にカメラは入っていきます。

映画の前半は、いかにすれば放射性廃棄物を安全に管理できるかという科学的な議論を軸に進みます。観ていて気付いたのは、科学者たちは数字を語りながらも、全体としてはアバウトな言い回しで証言をしているということです。例えば、“10万年後なら安全になるだろう”、”18億年前からの固い地層なら10万年は持つだろう”という感じです。

オンカロは、人の管理が前提ではなく、管理しなくていい状態にするということがコンセンサスになっています。すなわち10万年先まで人が管理し続けることは無理だという観念に立ちます。確かに、現代から10万年を遡ってみれば人類の歴史そのものになるわけで、旧人・ネアンデルタール人が生きていた頃です。これまでがそうだったように、これからも人間による戦争や自然による災害、さらには地球現象による氷河期などもあり得るわけです。

そこで、後半は、オンカロをいかに10万年後の人々が掘り起こさないようにするかという文化人類学的な展開になります。ネアンデルタール人と我々との間では会話が成立しないように、10万年後の人類とは隔絶された関係にあると考えなければならないからです。

今もって、古代遺跡の文字を解き明かすのには膨大な時間がかかり、それでもなお意味不明のものが多くあるように、10万年後まで「危険、近づくな」ということをいかに伝えるかということです。文字や絵で表現した方がいいのか。そうした何らかのメッセージが残っていると興味を覚えかねないので、逆に単なる自然風景にしておいた方が手をつけないか。どちらが10万年後の人々を安全にできるかという問答です。

結局、オンカロを“忘れ去るということを、いかに忘れさせないか”という難問に答を見つけられないまま映画は終わります。それは、私の疑問に対する答でもあります。もとより、高度に発展してきた人間社会に存在する我々は、生きるだけで自然界に負荷をかけているに違いありません。問題ないだろうと思っている日々の暮らしそのものが、既に責任の取れないことを積み上げてしまっているのかもしれません。それでもなお、“責任のとれないことをしてはいないか”と考える謙虚さが人間社会には常に求められていると思えてなりません。




「『100,000年後の安全』 予告編 」 『youtube』
http://www.youtube.com/watch?v=BYl7_dkRNSU&feature=player_embedded

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