衝撃ミステリー『罪の余白』内野聖陽・吉本実憂インタビュー「感情がぶつかるのが芝居だと思う」
死んだ娘の親友は悪魔でした―。ある日、愛娘が自殺し、自分を責める日々を送る父親。その前に現れた美少女は、恐ろしい秘密・計画を持っていた。
同名の人気小説を内野聖陽さん、吉本実憂さんにより映画化した『罪の余白』。「親子そろってつまんねー」美少女から冷徹に発せられる身の毛もよだつセリフは、予告編動画公開時から映画ファン、ミステリーファンの間で話題に。
これまで強くて男らしい役柄を多く演じて来た内野聖陽さんが女子高生に翻弄される傷ついた父親を、透明感抜群のヴィジュアルで学園ドラマ等に出演してきた吉本実憂さんが“モンスター美少女”という、新境地に挑戦した本作。今回はお2人に、映画について、お互いの印象についてなど色々とお話を伺ってきました。
―『罪の余白』非常に興味深く、恐ろしく、観させていただきました。内野さんも吉本さんもこれまでに無い役柄だと思うのですが、演じてみていかがだったでしょうか?
内野:僕があまりやったことの無いタイプの役だったので、これはチャレンジしがいがありましたね。
どこにでもいそうな普通の男性、誰もが共感出来る弱いお父さんを演じるのが大切だと思いました。映画の中で、学校の先生にクレームの電話をするシーンがありますが、ウイスキーを飲んでるんですね。その描写を台本で読んだ時に「ああ、この人ってそうなんだよな。お酒を飲まないと文句を言えないんだな」と納得して。殊更、弱い男を演じようと頑張ったわけでは無いのですが、そういった随所にあらわれる繊細さ、感じやすさを大切にしました。
吉本:初めて脚本を読んだ時は、まだ「木場咲」を演じるとは決まっていなくて。脚本を読んだ後に監督と色々お話して、咲を演じる事が決まった時はこの役柄を受け止められるのかなと不安でした。お芝居って大好きでいつも楽しんでいたんですけど、この役についてはどう楽しめば良いかがよく分からなかったですね。監督に「相手を傷つける事を楽しみなさい」と言われてから、どう演じれば良いのかが分かってきました。
―スクールカーストの頂点にいる学校の人気者の美少女でありながら、胸には恐ろしい計画を秘めているというとても難しい役柄でしたものね。
吉本:人に「勝手に死ねば」等、ひどい言葉を吐くという所は全く共感出来ないし分からないので、本当に新しい挑戦でした。どんな事を言えば、大人が女子高生を殴るまでに逆行するのだろうかと考えて。「親子そろってつまんねー」というセリフの「親子そろって」という部分は、監督と相談して自分で付け足しました。
内野:撮影前に「相手の心を傷つけるトレーニング」というのをやるんですよ。自分の傷つく事をたくさん言われて、本気で殴ってやろうかと思ったほど(笑)。それだけ、木場咲という人物にとって、人を傷つけるという事が大切なわけですね。
―「相手の心を傷つけるトレーニング」、そんなものがあるのですね。観客はそんな咲に翻弄されていく安藤の視点に近いのかなと思います。
内野:咲の“身の毛もよだつほどの恐ろしい少女”感を、どうすれば観客の皆さんに伝わるかなと思った時に、安藤としては、これはある意味、自己の妄想にとりつかれている部分もあるなと。“自分の中に湧き上がる妄想”が自分の中で大きくなる。恐いけど恐がっちゃダメだ、自分は父親なんだから頑張らなくてはと奮い立たせるのだけど、実際は足が震えてしまう、みたいなね。
―吉本さんをはじめ、16、17歳の若い女優さんに囲まれての現場だったと思いますが、刺激を受ける事はありましたか?
内野:キャリアが無いからこその体当たり感、「分からないけど、とにかくやってみよう」という、16、17歳の女優さん達の姿を見ていて、演技って本来こうだよなと思いましたね。リハーサルを見ていて、いいなと思う瞬間が多々ありました。年齢的にもキャリア的にも自分よりずっと若い彼女達の演技を見ていて、恐怖感って演技にはやっぱり大事だよねと思いましたね。
―吉本さんは内野さんと共演されていかがでしたか?
内野:本人が隣にいると言いづらい? 遠慮せずにどんどん言っちゃって言っちゃって(笑)。
吉本:ありがとうございます(笑)。内野さんと共演させていただいて、とても勉強になりました。ベランダで内野さんに肩をガンッと押されるシーンがあるのですが、あれでカチっとスイッチが入ったというか。「この迫力がお芝居だな」と思って。私は台本を読んで、頭で考えすぎてしまうクセがあるのですが、お芝居って感情と感情のぶつかり合いだなって。リハーサルでも、いつも同じ演技になるわけでは無いので、毎回ドキドキしていました。
内野:今のお話を聞いていて、確かにそうだよなと思いますね。台本に書かれているのはあくまで設計図であって、一番求められているのは吉本実憂ちゃんの、内野聖陽の生身のぶつかり合い。そこには闘志だったり、その人の人生だったりが投影されるよね。僕が実憂ちゃんの肩を押して「ふざけんな!」って本気で感じてる、そんな2人の人間のバトルを観ていただきたいですね。
―感情のぶつかり合い、まさにそんなお芝居が観られる作品だと思います。この映画を観て、もう大人になっている私たちからすると、そんなに学校や友達関係が辛かったらその場所を離れれば良いのに、学校に行かなくて良いのに、と思ってしまうのですが、当事者達はそうはいかなという悲しさを感じました。
内野:子供、特に女の子って逃げ場を無くしてしまうほどに狭い世界で一生懸命生きているんだなと。もう少し余裕があったら、他の居場所があるんだよって大人達は教えてあげられないのかなって考えさせられました。
この映画を撮っている時に、「スルーする力」について書いている記事が目について。今の時代って「ハッキリ自分の意見を言う」という事が大切にされすぎている気がして。もっとスルーして良いし、逃げて良いし、ボケても良いのにって。僕はいじめに対する答えや、しっかりした考えを持っているわけでは無いけど、もっと逃げていいよ、頑張り過ぎなくて良いよ、という事は思いますね。
この映画はおそらく、お子さんがいる方、特に中高生のお子さんを持つ方には辛い内容で観たくない描写もあるかと思います。でも、様々な世代の方に観ていただいて、それぞれ抱く感想も考える事も違うと思うし、多くのメッセージを投げかけてくれる作品だと思っていますので、ぜひ感想を聞いてみたいですね。
―今日は貴重なお話をどうもありがとうございました。
(撮影:しゃむ)
『罪の余白』ストーリー
名門女子高校に通う安藤加奈が、教室のベランダから転落して死亡した。目撃したクラスメートたちの証言によると彼女が自ら手すりに登り、突然飛び降りたという。妻に先立たれ父娘二人で仲睦まじく生きてきたつもりの父・安藤聡(内野聖陽)にとって、娘の死は受け止めることのできない現実であった。なぜ娘は死んだのか。大学で行動心理学を教える安藤は、加奈の異変に気付けなかった自分を責め続けていた。そんな折、娘の死に涙する笹川と名乗る美しいクラスメートが現れ、加奈が日記をつけていたことを知る。その日記には、咲という少女に追い込まれていく加奈の悲痛な叫びが刻まれていた。
映画『罪の余白』予告編
https://www.youtube.com/watch?v=a4ipnen2znU
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