3ヶ月で消えた「モルデカイ」と重なる、雰囲気だけの珍作『ギャロウ・ウォーカー』
主演俳優が特定ジャンルで代表作を持っている場合、「この俳優でこのジャンル、あとはわかるよな?」的な作品が生まれて来ます。この傾向は粗雑乱造されがちだったマカロニ・ウェスタン(ユーロ・ウェスタン)、今ならB級アクションモノでよくある話でしょうか。
そしてまさにズバリな作品が、ウェズリー・スナイプス主演の『ギャロウ・ウォーカー』(2013)。撮影は2006年開始ながら、ウェズリー番長の脱税発覚&収監により半ばお蔵入り。2013年になって出所祝いとばかりにリリースされたいわくつきの作品です。
時は西部開拓時代。恋人を死に追いやった犯人たちに復讐を果たして息絶えるも、カーチャンが「息子を蘇らせて!」と神様にお願いした結果、ある契約のもとにゾンビとなって蘇ったアマン。だが、契約の呪いにより、アマンが殺した人間もゾンビとして復活。復讐が復讐を呼んでしまった呪われた闘いに決着の行方は……?
なるほど、ウェスタンなスタイリッシュホラーアクションと聞けば、ウェズリー番長の主演作を知る人なら「ああ『ブレイド』の西部劇版ね」と直感するところでしょう。
ゾンビが普通の人間のように振る舞い、尚且つイカした衣装に身を包んでいる辺りからして完全に『ブレイド』風。別人の生皮剥いで自分の”ガワ”にする宿敵カンサなど、濃いキャラもわんさか。さらにアマンがゾンビの首根っこを引っこ抜いて(脊椎付!)トドメを刺すシーンやライフル射撃で頭が吹っ飛ぶシーンなど、『ブレイド』を思わせる世界観に期待せざるを得ません。
しかし、まさにその『ブレイド』シリーズとの差別化を狙い、ストーリーに力を入れようとしたのか、現在進行形の話と過去の話が交錯するフラッシュバック構成にしたのは頂けないところ。しかも敢えてのミスリードを誘うようなストーリー理解を阻害する構成という質の悪さ。
そのせいか見せ場のアクション演出が疎かになっている節もあり、『ブレイド』のようなキレキレアクションは見当たらず。結果としてウェズリー番長のブランドを活かしきれなかった残念感に「違う、そうじゃない」と言ってやりたい気分であります。
そんな本作を観て思い出したのが、2004年当時のWWEで、アンダーテイカーに代わる怪奇派の新星として登場した「モルデカイ」。テイカーが築いた怪人イメージを継承しつつ、「神の使徒」というコンセプトで白髪、白い衣装、巨大な十字架、さらに見栄えする必殺技(クルシフィックス)も持っていました。ところがろくなライバルが現れず、デビュー時のインパクトと裏腹に3ヶ月でフェイドアウト。
雰囲気は良かったんですが、テイカーブランドに寄りかかっただけでは新人をスターに出来なかったのでしょう。結局、最初のインパクト以上の活躍がなかった本作の敵ボス・カンサとも重なります(お互い白髪だし)。
作品そのものとしては、ゾンビ映画というには何か違うし、ウェズリーアクションの薄味感にモヤモヤさせられる部分は否めません。それでも世界観と雰囲気は他にない作品なので、その点を評価できる(生首関連の特殊メイクなど要所での低予算感も許容できる)……かもしれない方にのみオススメします!
(文/シングウヤスアキ)
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