大雨警報・ゲリラ豪雨が来る前に備えたい 浸水対策の基本
近年激増する局地的な集中豪雨により、住宅の浸水被害が各地で発生している。8月20日は広島土砂災害からちょうど1年。1時間で100ミリ近いレベルの集中豪雨も頻発するこの季節に、住まいの浸水対策の基本を知っておきたい。都全体の都市整備を担当する東京都と、より具体的に住民をサポートしてくれる立場の区役所に取材してきた内容を紹介しよう。
まずは自分の住む地域や住まいの危険度を知ることから
具体的な浸水対策を講じる前に、まずは自分の住まいがどのくらい水害に遭いやすいのかを知ることから始めたい。立地や住宅の形状によって、講じる対策の内容も変わってくるからだ。
まず最初に、自分が住むエリアには、どのくらい水害のリスクがあるか。これは、各自治体が作成している「洪水ハザードマップ」から判断できる。ハザードマップは、過去にあった記録的な大雨と同じレベルの雨量を想定した、浸水予想区域図のこと。
PDFファイルなどの形式になっているため、各自治体のHPからダウンロードすることができる。プリントアウトしたり、あるいはパソコンの画面上で拡大して、自宅周辺の状況を細かく確認することも可能だ。紙の状態で欲しければ、窓口で分けてもらうこともできる(世田谷区の場合)。また、他自治体のなかには、有料で販売していたり郵送に応じる自治体もある。「ハザードマップ」とは別の呼び方をしている自治体もあるので、その場合は、災害対策関連ページで「浸水予想」などのキーワードで探してみよう。
もっと詳しく知りたい場合は、別の調べ方もある。
「自宅周辺が過去に水害に遭ったかどうかという『浸水実績』は、電話で問い合わせていただければ、お答えしています。当区では土木計画課で対応しています」(世田谷区 土木事業担当部 土木計画課)。世田谷区では、第一庁舎4階の壁に掲示してある過去の「浸水概況図」を閲覧することも可能だ。
【画像1】(左)世田谷区洪水ハザードマップ(全区版)。総雨量約460~590ミリという記録的な大雨を想定した浸水予想区域を指定。「水の深さ0.2~0.5m」から「水の深さ2.0m以上」まで色分けされている(画像提供:世田谷区)。(右)世田谷区第一庁舎の4階、地域整備関連部署の壁面に掲示されている浸水概況図。過去、どの豪雨のときにどんな被害があったのかが、地図にプロットされている。隣には、地震時の地域ごとの危険度マップも掲示されていた(写真撮影:SUUMOジャーナル編集部)半地下や地下に玄関や駐車場がある家は要注意
では、「洪水ハザードマップ」で特に浸水のリスクがないとされているエリアであれば、安心なのかというと、決してそうではない。
「高台でも、すり鉢状の地形になっているところにピンポイントに雨が降れば、リスクはあります。また、下水道管のある道路面より低い位置に住まいがあると、リスクはより高まります」(東京都 都市整備局 都市基盤部 施設計画担当課)
道路面より低い位置というと、具体的にはどんな住まいを指すのだろうか。
「半地下や地下に駐車場、玄関、居室がある住宅ですね。実は、都市型水害の被害の大半を占めるのが、このタイプの住宅なのです」(世田谷区 道路整備部 道路管理課)
雨量が下水管のキャパシティを超え、道路が冠水すると、真っ先に水が流れ込んでくるのが、道路面よりも低い位置にある半地下や地下室。水圧でドアが開かなくなり、避難できなくなることもある。今、住んでいるのがこのタイプの住宅なら、より危機感を抱いておく必要があるだろう。土のうや止水板、災害メール配信登録等の準備を
それでは、自分が住むエリアや住宅の水害リスクを知った上で、具体的に何をすればいいのだろうか。
「半地下・地下であれば、土のうや止水板をあらかじめ用意しておくこと。当区では、土のうはお住まいの近くにある『土のうステーション』から自由にお持ちいただけます」(世田谷区 土木事業担当部 土木計画課)
画像2が、その「土のうステーション」だ。区民が持ち帰った分は、区が補充するので、自由に家に持ち帰り、ストックしておいて構わないそう。半地下・地下に玄関や駐車場、居室がある住宅に住んでいるのであれば、早速、自治体に問い合わせたり、自分で調達しておいたほうがよさそうだ。
【画像2】世田谷区が区内50カ所に設けている「土のうステーション」。土のうには5kgと10kgのものとがある (写真撮影:日笠由紀)
道路から半地下・地下に下りる階段の一段目を一段高くしたり、止水板を準備しておくのも有効だ。止水板なら、普段は外しておいて、大雨のときだけ左右に設けておいた溝に取り付ければ良いので、半地下駐車場の車の出入りにも支障がない。
また、世田谷区では、「災害・防犯情報メール配信サービス」も実施している。自分が住んでいる自治体にそのようなサービスがあるなら、あらかじめ登録しておけば、万が一のときも正確な情報が入手できるため、より冷静に対策を講じることができそうだ。
【画像3】(左)道路から半地下の玄関までの間の階段の一段目を、道路面よりも高く設けた例。(右)半地下駐車場に止水板を設置した例(画像提供:世田谷区 道路整備部)大雨のときは、正確な情報入手と早めの行動
では、いざ大雨が降り始めたとき、あるいは大雨の予報が出ているときは、どのように行動したら良いのだろうか。
まずは、自宅周辺が今どんな状況か、今後どのようになるか、なるべく正確な情報を入手しよう。最近の豪雨は、とても局地的なので、テレビやラジオからだけでは、自宅周辺がどうなのかをピンポイントで知ることが難しい。前述の世田谷区の「災害・防犯情報メール配信サービス」で配信されるメールや、インターネットで見ることができる近くの河川の水位の変化や監視カメラの映像、アメッシュなどの降雨情報を参考にしながら、今の状況を把握し、今後を予測したい。
また、世田谷区の危機管理室 災害対策課では、Twitterなどに区民が投稿した文章や写真、Youtubeの動画などから、区内の浸水被害の状況を把握することがあるという。このようにSNSを活用して、自宅周辺の状況を知るのも一案だ。
状況を確認した上で、いよいよ対策が必要だということになったら、スピーディーに土のうや止水板の設置を始めたい。
土のうの用意がないときは、段ボール箱に、水で満たした45リットル用のゴミ袋を詰めて重しにすることで、「簡易水のう」がつくれる。玄関の前に並べたりすれば、土のうの代わりとなってくれるそうだ。半地下・地下にトイレや浴室、キッチンがある場合は、下水道管から逆流した汚水が排水口から溢れることもあるので、土のうや簡易水のうを重しにして、各排水口をふさいでおく必要がある。
【画像4】ゴミ袋でつくることができる「簡易水のう」と、その活用法。簡易水のうは、ダンボール箱と組み合わせると、さらに強度を増すことができる。半地下や地下にある浴室であれば、排水口に簡易水のうを置くことで、汚水の逆流を防ぐことができる(出典:東京都 下水道局)自助努力が求められている
これまでに見て来たように、水害への備えには、都道府県や市区町村といった自治体によるさまざまなバックアップがある。もちろん、自治体では、住民を直接対象にしたサポート以外にも、さまざまな対策を講じている。
東京都では、「豪雨対策基本方針」を策定し、目標降雨を、区部で時間75ミリ、多摩部で時間65ミリと設定し、対策強化流域・地区を指定、河川や下水道などの整備を重点的に進めている。
世田谷区では、一定の規模以上の建造物に地上に流れる雨水の量をおさえる「雨水貯留浸透施設」の設置を義務化したり、半地下・地下住宅を建設する業者に浸水対策を講じたかどうかを報告させるなど、制度面での拡充を行っている。雨水を地面に浸透させる「浸透ます」や「雨水タンク」を設置する際の助成も行っている。
ただ、いざというときには自分で財産や命を守ることも必要だ。
「よく、側溝の雨水(うすい)ますをプランターや駐車場との段差を解消するためのプレートでふさいでしまっている光景を目にしますが、雨水が道路に溜まってしまうため、下水道のキャパシティはまだまだ大丈夫なのに、道路冠水となってしまうことも。枯葉が詰まったままにしておいても同様のことが起こります」(東京都 都市整備局 都市基盤部 施設計画担当課)
雨水ますをふさがないことは当然のこととして、普段から、側溝をこまめに掃除したり、雨の日の水の流れ方などを観察しておくことが、万が一のときのリスクを軽減してくれそうだ。
【画像5】プランターや段差解消プレートが、雨水ますをふさいでしまっている例(画像提供:東京都 下水道局)
世田谷区在住の筆者の近所に「土のうステーション」ができたのが昨年のこと。わが家はマンションの1階で、床と道路面との高低差も、さほどあるとは思えないので、雨が降るといつもドキドキしている。今回の取材を終えて、早速、土のうをもらってこようと決心したところだ。●東京都豪雨対策基本方針(改定)
●下水道局からのお願い「半地下家屋等は浸水被害に十分なご注意を!」
●世田谷区パンフレット「浸水被害を減らしましょう!」
元記事URL http://suumo.jp/journal/2015/08/24/96043/
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