ヴァン・ダム史上でも屈指の駄作『UFO 侵略』に、二世俳優/レスラーの悲哀を想う

 ジャン=クロード・ヴァン・ダム作品の中でも屈指の駄作としてご紹介しても、恐らくお叱りを受けないであろう珍作が2011年製作の英国映画『UFO 侵略』。近年のヴァン・ダム先生は、愛娘ビアンカ・ブリーを自身の主演作に度々ねじ込み(※筆者の想像です)、客演扱いの本作でも主要キャストの娘をしっかりサポートする親バカぶりをみせています。
 本作の主演はこちらも二世俳優で、ピアース・ブロスナンの息子ショーン・ブロスナン。この御仁もパパの主演作数作に出演経験があるところをみると、親心はどこも同じなのでしょう。

 そんなワケで本作は”二世俳優&女優+お守役の父”出演作という「コノ先大変そうね、この子たち……」と観てるこっちが心配になってくる珍作です。

 悪友たちとクラブに乗り出したマイケル(ブロスナン息子)は、そこで出会った妖しい美女キャリー(ヴァン・ダム娘)をお持ち帰り。ところが翌朝、街は停電、電話もネットも不通。空を見上げれば、何と巨大UFOが!
 人間同士の略奪行為、そしてついに始まったUFOの侵略攻撃に逃げ惑うマイケルたちだったが、かねてからこの危機に備えていたある人物に助けを求めるのだった……

 特殊部隊時代からこの侵略を予見していた人物ジョージがヴァン・ダム先生。ただ、ちょいちょいモノローグで登場する程度で、出番は相当あとです。UFOからの侵略攻撃も物語開始から1時間でようやく開始と、あらゆる面でスロースターター。
 ブリティッシュ・ノワールを意識した感のあるスベリ気味な演出に加えて、大して意味もない謎解き要素など色々と勿体つけすぎて眠くなる作風となっています。

 アクション面ではやや頑張っており、ブロスナン息子が体当たりで挑んでいるし(主役かと思ったら結果的に完全にヤラレ!)、後半ではヴァン・ダム娘も、オヤジ譲りの脚技(脚で相手の首を抑えこむ技)を魅せたかと思えば、まさかのヴァン・ダム父娘対決が実現。
 見所はもうひとつありますが、それを言ってしまうと何もなくなるので伏せておきます。

 一方、プロレス界でも、祖父母や親の影響力から抜け出せる二世・三世選手は多くありません。
 デビュー当初は騒がれても、本作でのヴァン・ダム娘のように親が主宰する団体に出場する以外は、親とセットで招聘されるというケースがほとんど。映画界同様、親の庇護がないと出場すらままならないという厳しい現実があるようです。例え、単独で出場出来ても否が応でも親の全盛期と比べられるという苦労もあるワケですしね。

 以前も触れたことがありますが、プロレスが家業として成立していた70年代までの北米マットでは、こういった売り込み方でも息子世代をスターに育てることが出来ましたが、価値観が多様化した現代ではそうはいきません。
 二世・三世の成功者が多いWWEでも、1軍デビューはおろか、若手育成部門のNXT定着すら叶わず、そのまま半ば引退という実例(故エディ・ゲレロとヴィッキーの娘ラクエル・ディアスことシャウル・ゲレロ)もいくつかあります。

 そんな二世俳優・レスラーの苦労や悲哀を感じてしまう作品ですが、映画としては「何がやりたいんだコラ」といいたくなる出来なので、ご視聴の際は、その辺りご覚悟を!

(文/シングウヤスアキ)

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