【大人になっても読みたい児童文学】『どこいったん』(作:ジョン・クラッセン 訳:長谷川義史/クレヨンハウス)

dokoittan

普段は、幼い頃に読んだ児童文学を紹介していますが、今回、取り上げるのは、わりと最近発売された絵本。ドキッとする衝撃のラストが印象的な『どこいったん』(作:ジョン・クラッセン 訳:長谷川義史/クレヨンハウス)です。

『どこいったん』

ぼくのぼうし、どこいったん? さがしにいこ。
(『どこいったん』本文から抜粋)

お気に入りのぼうしを、なくしてしまったくま。
くまは、森で出会った動物たちにぼうしを見ていないか聞いて探し回ります。しかし誰に聞いても、「しらんなあ」「このへんではみてへんで」と、まったく見つかりません。そんななか、くまは赤いぼうしを被ったうさぎに出会います。くまは、うさぎに尋ねました。

ぼくのぼうし どこいったん?

し、しらんよ。なんで ぼくに きくん?
ぼうしなんか どこにも ないで。ぼうしなんか しらんで。
ぼうしなんか とってへんで。ぼくに きくのん やめてえな。

ふーん。……さよか。
(『どこいったん』本文から抜粋)

うさぎと別れてからも、くまは一生懸命ぼうしを探しました。でも、やっぱり見つかりません。
くまは、がっくりと肩を落とし、悲しみます。しかし、出会った動物たちのことを思い出し、考えていると、「あっ!」と何かに気が付いて……。

おい、こら おまえ。ぼくのぼうし とったやろ。
(『どこいったん』本文から抜粋)

文章は、すべて関西弁で訳されており、ほのぼのとした雰囲気の柔らかい会話文が印象的です。しかし、うさぎと出会ってから、その空気は一変して……。読み終わった後、思わず「どこいったん?!」と言ってしまう衝撃のラスト。少しドキっとする内容は、子どもだけでなく、大人が読んでも十分に楽しめる作品です。また、『どこいったん』シリーズの第2作『ちがうねん』では、帽子を盗んだ魚が主人公。こちらも『どこいったん』と合わせて読んで欲しい内容です。

『ちがうねん』

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このぼうし ぼくのと ちがうねん。とってきてん。
(『ちがうねん』本文から抜粋)

寝ている大きな魚から、ぼうしを持ち逃げした小さな魚。どうせ、なくなっても気付かないだろう。それに、もし気が付いたとしても、自分のことは怪しまないだろう。怪しんだとしても、逃げ先なんか分からないだろうと、盗ったぼうしを被り、ご機嫌で泳いでいます。しばらくして、大きな魚は目を覚ましました。小さな魚の予想に反して、ぼうしが無いことも、どうやら気付いているようです。大きな魚は、小さな魚の行く先に向かって、泳ぎ出しました。

とったら あかん わかってる。ぼくのと ちがう わかってる。
でも ええやん。おっきな さかなには ちっさすぎる。
ぼくに ぴったりやん このぼうし。
(『ちがうねん』本文から抜粋)

そう言って、小さな魚は、“かいそうのジャングル”に入っていきます。大きな魚が、目前に迫っているとも気が付かないで……。

こちらも、『どこいったん』と同じく、すべて関西弁で訳されています。
タイトルにも本文にもよく出てくる「ちがうねん」という言葉。この微妙なニュアンスは、関西弁だからこそ、表現できたのではないでしょうか。
“盗んだ方が悪い”、とは分かっていますが、どんどん近付いてくる大きな魚を見ていると、「早く逃げて!」と思わずにはいられません。そして結末には、『どこいったん』同様、ドキっとする展開が。

登場する動物たちは、みんな“どこか憎めない”一面があり、「分かってあげられなくもないなあ」と、筆者は少なからず共感してしまいました。
自分自身に悪気がなかったとしても、ほんの些細な出来心があったとしても、相手にとっては大事件だった! という出来事って、年齢問わず起きたりしますよね。両作品とも、私たちにも身近な出来事が説教臭くなく、あくまで淡々と描かれているので、なおさら心に突き刺さる内容です。
ぼうしをめぐる、盗られた側と盗った側が主人公の両作品、私としては、ぜひ大人に読んで頂きたい絵本です。

『どこいったん』
作:ジョン・クラッセン
訳:長谷川義史
出版社:クレヨンハウス
定価:1500円
発行:2011年11月
参考:http://www.crayonhouse.co.jp/shop/g/g9784861011993/[リンク]

『ちがうねん』
作:ジョン・クラッセン
訳:長谷川義史
出版社:クレヨンハウス
定価:1620円
発行:2012年11月
参考:http://www.crayonhouse.co.jp/shop/g/g9784861012334/[リンク]

※画像は、株式会社 クレヨンハウス様(http://www.crayonhouse.co.jp/[リンク])より引用しています。

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