山内正敏氏「放射能漏れに対する個人対策」を読む際に考慮すべき点とは
山内正敏さんが書いた「放射能漏れに対する個人対策」という記事が話題になっています。この文書は具体的に放射線量の計測値がいくつに達したら避難すべきかということについて考察した内容で、数字がはっきりしていおりたいへんわかりやすく感じます。果たしてこの数字は妥当なのでしょうか。そしてこれら計測値を判断基準にして行動するのは正しいのでしょうか。3月21日14時時点でのテキストをベースに東北大学の北村名誉教授にコメントをいただきました。判断の際、参考にしてください。
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●山内正敏氏「放射能漏れに対する個人対策」に関して
山内氏の見解は発生源(原子力発電所)近くの放射線測定値を手掛かりとして、脱出する際の指針を示しておられます。氏が基本的な認識として述べられている、以下の問題設定はとても妥当であると考えますし、このような考え方は確かに重要です。
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(1)残念ながら、どの組織も『どこまで放射線レベルが上がったら行動を起こすべきか(赤信号と黄信号)』を発表していません。これでは近隣地域の人々の不安を払拭する事は出来ないと思います。
(2)とりあえず、総量100ミリSv(Svはシーベルト)という数字で考えてみます。
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しかし、それに続くいくつかの想定が現在の原子力発電所の実情からはかなりかけ離れた点もあるように思われます。
●その1:
『基本的に、準備は早くすること』という姿勢にも賛成です。しかし、まずは毎時100マイクロシーベルトという測定値が瞬時値なのか持続的な値なのか見極めることは極めて重要です。今、仮に大規模な放射性物質放出が持続的に起こるとしたら、それは再臨界が起こってかつ圧力容器、格納容器の健全性が損なわれている場合であろうと思います。再臨界の可能性は別稿に論じたようにかなり小さく、それよりは起こりやすい事象は格納容器の圧力低下を図るための人為的放出(ベント)です。この場合、山内さんが前提としておられる、『状況が刻々と悪くなる事を考慮すれば……』という想定はあてはまりません。
●その2:
『チェルノブイリで問題になったのは事故現場からの直接放射でなく、そこで発生した高濃度の放射性噴煙が移動しながら出す放射線でした。福島原発の場合,燃料棒が壊れているという事ですから、焚き火での焼けぼっくいと同じく、マイクロスケールでの爆発を繰り返して、それが放射能の濃淡を作っています』
という記述は、現実を反映していないと思います。チェルノブイリでは、燃料、黒鉛などが文字通り粉々になってそのまま上空へ放出されたのです。黒鉛の破片も燃焼状態であったかも知れません。今回の場合、燃料棒が壊れたといっても被覆管が破損してペレットが露出した状態ではあって、粉々になどなっておりません。さらに圧力容器や(多少不完全かもしれませんが)格納容器に囲まれた空間中での放射性物質放出が起こっているのです。いうまでもありませんが圧力容器の中で臨界現象が起こっても冷却水が存在する限り安全上の危険は小さいでしょう。『焚火での焼けぼっくいと同じく,マイクロスケールでの爆発』という表現が何を指すのか小生には判りかねますが、焚火が時々はぜるような現象は、原子炉からの放射性物質の放出に関してはあてはまらないと思います。
●その3:
『高濃度の放射性ダストは(サイズにもよりけりだけど)数時間は拡散せずに放射能を出し続けます』という記述につきまして。
『一部の人が言っているように距離の逆自乗で減衰する事はありません』という指摘には全く同意いたしますが、数時間は拡散しないというメカニズムが小生には理解できません。
乱流拡散が起こらないという意味なら理解できますが、『拡散せずに……』ということにならないのではないかと思います。
ということで、結論です。
(1)このご指摘には貴重な提案が含まれていることは十分評価いたします。
(2)ただし、上記の3点を考えて、大変に厳しめの想定であると思います。チェルノブイリとの類比で述べられている説明は危険の過大評価になっています。
(3)再臨界が持続的に起こっているのか否かが判断の重要なポイントです。放射線量の計測値だけで判断を下すことは無理があると思います。
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