「京都」のイメージを利用したCMと、出演老舗への違和感の声(堀 孝弘のごみにまつわるエコ話)
今回は堀 孝弘さんのブログ『堀 孝弘のごみにまつわるエコ話』からご寄稿いただきました。
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「京都」のイメージを利用したCMと、出演老舗への違和感の声(堀 孝弘のごみにまつわるエコ話)
国際的な観光都市ランキングで、京都が2年連続世界1位に選出された。国内や海外からの観光客も過去最高を記録し、京都はまさに上り調子だ。そんな京都の老舗が登場するCMに違和感を抱く人たちが多くいる。
《急須で淹れたお茶と変わらぬペットボトル茶?》
大手飲料メーカーのペットボトル緑茶(A)のCMで、以下のものがあるのをご存知だろうか。「私たち日本人の味覚は世界一繊細だと思う。(中略)Aがめざした急須で淹れたような緑茶本来の“にごりのある色味”と“舌に旨みが残るふくよかな味わい”を実現した、ワンランク上の本格的な旨味を京都の料理人にたしかめてもらいました」、およそこのようなナレーションに続き、京都の老舗料理人が湯のみの茶を口にふくみ、「なるほど」とうなずく。
他にも幾つかのヴァージョンがあり、京都の料亭や老舗食品に関わる人たちが登場し、宣伝のペットボトル緑茶が、急須で淹れた茶と変わらぬ旨味を提供していることを印象づけている。
《老舗にはメリットがあったのか》
このCMによって、宣伝のペットボトル緑茶は上質なイメージを得ただろう。「そんなにおいしいのか」と思って買った人も多くいただろう。その一方、CMに登場した京都の老舗は、何かメリットを得ただろうか。CMへの露出による知名度アップ? いや、それよりマイナスの方が大きいのではないか。
6月18日、このCMへの疑問を、私のブログ「ごみにまつわるエコ話」で投稿した。題して「こういうCMに老舗が協力すると、いずれ京都は衰退する」。
「こういうCMに「老舗」が協力すると、いずれ京都は衰退する。」 2015年06月18日 『堀 孝弘のごみにまつわるエコ話』
http://hori-takahiro.sakura.ne.jp/?p=972
Facebookで紹介したところ、把握可能な範囲で100以上のシェアがなされた。実際にはそれ以上にシェアがあったことだろう。もちろん、ネット記事なので、反論も多く出たが、これだけ多くの人がシェアしたのは、このCMに対して「なんか変だと思っていた」人が多くいたことのあらわれだろう。
《CMを観た人たちの反応》
どのような「疑問」だろうか。出演した老舗に対して、「この店で出すお茶は、ペットボトル茶なの?」や、「この料理人さんは、本当に味がわかるの?」、「防腐剤(ビタミンCと表示)入りの茶と急須で淹れた茶の区別がつかないのか」、「この店に行く気がしなくなった」、「高い金を出して贔屓にしてくれた客が、こんな程度の店だったのかと思っていることだろう」などの声が返ってきた。なかには「先祖が泣いている」という投稿もあった。
ブログへの反応から、このCMを見た人のなかに、出演した老舗に対して失望感を抱いた人が多くいたことがわかる。出演した店に限らず「京都」が営々と築き上げてきた無形の財産を損なわれかねない軽々しい行動に映ったのだろう。なかには、「疑問に思っていたことを文章化してくれた」というメッセージもあった。
《京都が衰退する、は言い過ぎ?》
一方、「出演した店がイメージを下げ、客が減ったとしても、『京都が衰退する』とまで書く必要はないのでは…」という意見もあった。もっともな意見だ。たしかに「いずれ京都は衰退する」はオーバーな表現かもしれない。私がここまで書いた理由は、現在の国内外の「京都」への高い評価は、多くの人の努力によって得られたものである一方、決して盤石のものでないと感じるからだ。
少し昔を振り返ってみよう。1980年代のバブル期、京都の中心部は地上げにより、コインパーキングとペンシルビルだらけになった。投機目的の「人の住まないバブルマンション」も多く建った。「老舗」と呼ばれる店でも食品添加物だらけの食品が売られ、京都に来る旅行者は中高年が中心で、修学旅行生は減っていた。人口は神戸、札幌、福岡に抜かれ、伝統ある大学は市外に流出。京都がハイテクのまちとして勢いを得るのはもう少し後のことで、地場産業は衰退の一途。30年ほど前、京都はこのような状況だった。
《多くの人が、今の「京都」をつくった》
1994年ユネスコ世界文化遺産に「古都京都の文化遺産」が登録されて以降、あらためて「京都」の価値を京都内外の人たちが見つめ直し、今日の国際的に見ても高いイメージが築かれた。しかしそれは、観光業に関わる人たちだけで得られたものではない。
伝統的なものづくりの見直しや、町家再生をはじめ地域コミュニティーの再構築のため、住民が自発的に活動している。大学教員や学生も住民の中に飛び込み、まちの魅力創造のために汗を流している。今私が携わっている環境活動でも、1995年の地球温暖化防止京都会議の前後から、数多の団体が設立され、多くの住民が参加している。これら多くの人たちによる様々なまちづくり活動も、京都のイメージを高めることに寄与している。
《京都のイメージは砂上の楼閣でもある》
CMに話を戻すと、ペットボトル緑茶には二番茶や三番茶使用のイメージがある。それどころかもっとひどい製法等もネット上で散見できる。例のCMでは、原料や製法の詳細は伝えられていない。高度な抽出技術など企業努力があるのかもしれないが、それを伝えず、老舗のイメージを借り、商品のイメージアップに結びつけている。これも商売の手法の一つと考えることはできるが、それに乗った老舗に軽々しさを感じた人が少なからずいることも事実である。
先に述べたように、京都のブランドイメージは多くの人たちの努力によって築かれたものである。しかしそれは砂上の楼閣でもある。京都の伝統的な暮らしやまちなみなど、ごく一部に残っているだけだ。そのことは京都で暮らす者が一番よくわかっている。それでも「このまちをよくしていこう」と思う人たちがいるから、国内外の人たちが憧れる素晴らしいまちになりつつある。つまり京都のまちづくりもブランドイメージも完成されたものではなく、発展途上のものだ。「なんや、こんな程度のものか」と思われたとき、これまでの多くの人たちによるまちづくりの努力が台無しになる。
製品の製法や原料の説明もなく、京都のイメージを利用したCMに、利用される店が続いてほしくない。そのため、オーバーな表現かもしれないが、「いずれ衰退する」という表現を用いた。
《茶農家にとって売れてほしいのはペットボトル茶ではない》
お茶の話題に移りたい。お茶は京都にとって特別なものだ。単なる飲料ではなく、文化そのものだ。上質なものを愛でる上質な時間、そこに茶と文化の関わりがある。ハイムーンこと高月紘氏の絵は、このことをとてもうまく表現している。
〈 ハイムーン「お茶の時間」 〉
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ところで私のブログ記事への反論として、「ペッボトルであれ、緑茶ファンが増え、よりおいしいお茶を求めて京都のお茶が売れ、京都に来る人が増えるならWin-Winじゃないか」というものがあった。もっともな話のようだが、こうはならなかった。
京都府南部は全国的にも緑茶の一大産地である。京都府のある農政担当者が次のことを言っていた。「10数年前、ペットボトル緑茶が登場した頃、茶農家の多くは、ペットボトルであれ緑茶ファンが増えれば、いずれ急須で茶を淹れる人も増えると思った。しかし実際には購入層も利用機会も別であり、思ったようにはならなかった」。
緑茶発祥の地宇治田原町にしても、宇治茶最大の産地和束町も、平坦な土地がほとんどなく、急な斜面の上まで手入れされた茶畑が広がっている。茶農家にとって売れてほしいのは手間をかけた新茶であり、安い二番茶や三番茶ばかり売れるなら、短期的に潤う農家はあっても、中長期的にみれば減収の道をたどる。茶農家のなかには「ペットボトルは喉を潤す。急須の茶は心を潤す」と言う人もいる。茶農家の多くは、趨勢としてペットボトル茶の勢いを認めつつ、急須で淹れる茶のよさの理解が広まってほしいとの願いは失っていない。「ペットボトル茶が急須で淹れた茶とほとんど変わらない」との印象が広まれば、茶農家や茶産業の将来は厳しい。
《もうひとつ》
ごみ問題との関係にも触れたい。家庭から排出されるペットボトルのリサイクルは、自治体が労力と費用の大部分を負担している。また、同じ重量でみた場合、燃えるごみと比べて「缶・びん・ペットボトル」の処理費用(リサイクル費用)は、2.6倍も高い。「リサイクルされているから良い」というものでもない。
〈ごみ処理1ton当り比較〉
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しかも国内で回収されたペットホドルのうち半分近くが中国に輸出されている。今は中国への輸出頼みでペットボトルリサイクルが成り立っている。しかし、将来はわからない。中国国内で回収システムが整備され、日本から買う必要がなくなれば、日本国内に廃ペットボトルがあふれかえるかもしれない。CMで出演した老舗料理人や店主たちにそこまでの考察は求められないが、ペットボトルを飲み干した後には、そのような「世界」が広がっている。ごみ問題に関わる者には、CMでペットボトル茶をおいしそうに飲む姿は、軽く薄い印象を受けてしまう。
〈ハイムーン・大リサイクル社会〉
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さてさて、全体を通じて言いたいのはこれ。「京都の老舗やったら、もっと、どっしり構えはったらどうですか」。了
執筆: この記事は堀 孝弘さんのブログ『堀 孝弘のごみにまつわるエコ話』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2015年07月24日時点のものです。
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