日本絵画の特徴は「線」にある?
雪舟、俵屋宗達、尾形光琳、伊藤若冲、喜多川歌麿、葛飾北斎、横山大観……さまざまな絵師たちによって描かれた日本絵画を鑑賞する際、その「線」に注目したことはあるでしょうか。
浮世絵版画や琳派による金屏風などを目の前にすると、ついつい鮮やかな色彩に目がいきがちですが、その根本にあるのは線の存在。2013年まで板橋区立美術館の館長を務め、書籍『線で読み解く日本の名画』の著者でもある安村敏信さんは、日本絵画の歴史は、6世紀以降に朝鮮や中国から入ってきた線をどのように取扱うかという試みの歴史でもあったと語ります。
同書で安村さんは、奈良時代から近代にいたるまで、日本絵画における「線」の辿ってきた歴史に注目。総勢35名にも渡る絵師たちの作品に見受けられる、それぞれに特徴のある異なる性質の線を、具体的な作品を例に挙げながら解説。日本の絵画において、線そのものが如何に重要であったのかを分析していきます。
1615年に本阿弥光悦が徳川家康より京都洛北の鷹峯の土地を拝借したときを琳派誕生と考えると、2015年は琳派が生まれて400年の記念の年。
そこで本阿弥光悦や尾形光琳と並んで、この琳派の創始者である俵屋宗達の作品を線で読み解くとどうなるのか、少し見てみましょう。
安村さんは、宗達の作品における線の特徴として、「線の消失」と「線の否定」、さらに線を描かずに線を描く「虚無の線の創造」という点を挙げます。
淡墨の乾かないうちに濃墨をたらすことで滲みを発生させる「たらし込み」技法によって、線を消失させようとした宗達。そして線の消失や否定の次に宗達が挑んだのは、線を描かずに線を描く「虚無の線の創造」だったのだといいます。
宗達の代表作『風神雷神図屏風』を例に、安村さんは次のように説明します。
「風神雷神の輪郭線や天衣、風袋の輪郭線は一見すると太目の線で描かれているように見える。しかしこれらの線は実のところ周囲から色を塗り込めながら線の部分を塗り残して出来たものだ。これは鎌倉時代の水墨画の技法で『彫塗』と呼ばれたものを復興、応用したものだ。周囲から墨を塗って線の部分を素地のまま残す。そこが白い線のように見えるのだ。宗達はこの彫塗技法を気付かれなくするため、線を素地のまま残さず淡彩を入れた」(同書より)
宗達は、この彫塗(ほりぬり)と呼ばれる技法の応用によって、線を描かずに線を描くことを可能としたのだそうです。
それぞれの絵師たちは、如何に線と向き合い、作品に表現してきたのでしょうか。実際に日本絵画を鑑賞する際にも、線という視点をもってじっくりと眺めてみると、今まで気付かなかった発見があるかもしれません。
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