【非常階段に非常事態!?】予測不可能なパフォーマンスに震えた〈自家発電Vol.5〉をレポート
幕張でルナティックなフェスが開催されていた2015年6月28日。四ツ谷の小規模なライヴハウスでも、なかなか体験できないプレミアムなステージが繰り広げられていた。流通会社BM.3と、「なんでもできるライヴハウス」四ツ谷アウトブレイクによる共同イベントとして、Vol.0から数えて6度目の開催となった〈自家発電〉。メジャー / インディをまったく問わない異次元のブッキング・スタイルを貫いてきた本イベントであるが、そうした姿勢が見事に昇華された、怒涛の6時間半となった。
■猫ひろしによる開会宣言
殺害塩化ビニールとのコラボ・イベントとして開催された〈殺害発電〉(4月開催)をはさみ、イベント単体としては8ヶ月ぶりに開催された〈自家発電〉。今回も、非常階段、QP-CRAZYというアンダーグラウンド・シーンの二大巨頭を軸に据えつつ、個性豊かな、という言葉では形容しきれない幅と深さを有するアーティストが集結。カンボジアから来日中の猫ひろしによる開会宣言を経て、イベントはスタートした。
■オープニング・アクト、せのしすたぁ
オープニング・アクトとして選ばれたのは、福井を拠点に活動する3人組のロコドル、せのしすたぁ。ライヴハウスの入り口から姿を現した彼女たちは、会場の隅に置いてあったダンボール製のユンボに乗ってステージへ。このユンボ、「山塚アイ(現EYヨ)」をリスペクトしているというメンバー・まおのために、スタッフが夜なべして制作したもの。都立家政スーパーロフトの阿鼻叫喚の惨劇(知らない人は「ロフト ユンボ ハナタラシ 誓約書」等で検索!)がここでも…… ということはもちろんなく、まおの乗るユンボの移動を任されたゆーたん、みかが「重~い!」と叫ぶ程度でなんとか事なきを得た。
エレクトロ~ドラムンベースなどのテクノを基本としつつ、キュートで親しみやすさに溢れたそのサウンドは、3人を“アイドル”として輝かせるのに充分なポップさを持っていた。だが、そうしたサウンド面の特徴を見失わせるほど、まおのインパクトは強い。キャピキャピ感のない、どっしりとしたMCでアジテーションを繰り広げながら客席とステージを行き来し、「アイドルは嫌い」と放言し、他のふたりよりも明らかにキレのないダンスを披露する。アイドルとカテゴライズされながら、敢えてその定形から外れんとするそのスタンスに目が離せない。また、そんなまおを他人ごとのように眺めつつ、淡々と歌とダンスをこなしていくみか、ゆーたんとのアンバランスな構図に、彼女たちならではの危うげな魅力が感じられた。
■2番手、百戦錬磨のQP-CRAZY
続いて登場は、THE CRAZY SKB(a.k.a.バカ社長)率いるQP-CRAZY。せのしすたぁに良い意味でも悪い意味でも“荒らされた”現場であったが、そこは百戦錬磨の彼らである。髪の毛も顔も衣裳も白で統一されたバカ社長がステージに現れただけで、空気がピンと張り詰めていくのがわかる。その緊張感は、彼らのファストでヘビィなハードコア・パンク・サウンドによって増幅され、興奮の渦へと移り変わっていくのにそう時間はかからなかった。バカ社長もそんな客席の熱気を受け取り、熱いシャウトを見せていく。さらには、手首に巻いた有刺鉄線で額を割り、血を垂らすパフォーマンスを決行。プロレスラーとしても活躍するバカ社長だけに、流血行為すらも美学が匂い立つものであった。ギミック要素は抑え目(といっても拡声器&花火は使用されたが)であったが、その分、楽器隊による演奏の凄みを改めて実感することができ、密度の濃いパフォーマンスであったと言えよう。
■3番手、ヒューマン・ビート・ボクサー、サイボーグかおり
3番手は、主催者が以前から出演を熱望していたヒューマン・ビート・ボクサー、サイボーグかおり。「リズムを刻まずにはいられない女子大生」としてTVにも出演し、そのぶっ飛んだキャラクターで話題をさらった彼女。だが、多彩なビート&楽器音(スネア、タム、ハイハット、シンセ、ベース、管楽器)を自在にコントロールするテクニックは確かなもので、生で体感するとその低音は想像以上に分厚いものだった。その後も、アニメ声でのMCとミックスさせながらビートを刻み続ける破天荒なパフォーマンスで会場をロックしていく。ラストにはオーディエンスからのリクエストを受けて「ドラえもん」と「めだかの学校」をヒップホップ・スタイルで披露し、颯爽とステージを降りていった。
■“ドープシンガー”田中雅紀
続いて客席に設置されたサイド・ステージに登場したのが、アウトブレイクが熱くプッシュしているシンガー・ソングライター、田中雅紀。ギター一本とマイクのみの弾き語りスタイルで、カントリー~ブルースを基調とした楽曲を披露。当初は淡々とはじまったものの、“ドープシンガー”を自称するだけあり、だんだんとその声や弦の響きに不穏な熱が加わっていく。曲が過剰に暗いわけでも、咆哮を上げ続けるわけでもないが、遅効性の毒のように身体をじわりと侵食していくような音。15分という短い時間の中でも、彼の特性は垣間見えたと思う。
■結成21年目の2ピース・ロック・バンドKIRIHITO
イベントも後半戦。ギター&ボーカル竹久圏と、ドラム早川俊介による2ピース・ロック・バンド、KIRIHITOがスタート。結成21年目、ベテランと呼ばれる域に突入している彼らだが、まだまだ鳴らされるサウンドはフレッシュだ。つばの広い真っ黒なハットに仮面という謎めいた出で立ちの竹久が奏でる、ファンキーでハードなギター・リフ。さらに重ねられる足踏みシンセとヴォーカルは、次の展開を予測させないトリッキーさを強調していく。一方で、早川による特徴的なスタンディング・ドラム(時にカシオパッド)は、そうした竹久の音をドライヴさせる推進力として非常に力強いものであり、ダンス・ミュージックとしての気持ち良さを生み出していた。長きにわたる活動が惰性に至らず、互いへの信頼を担保にして研ぎ澄まされていったことが実感できる、エキサイティングでパワフルなライヴであった。
■〈自家発電〉のコメディアン枠、マメ山田によるマジシャン
〈自家発電〉のコメディアン枠として今回ラインナップされたのは、俳優としても活躍しているマメ山田。今回はもうひとつの顔であるマジシャンとして出演。身長114cmというミニマムな体格がやはり注目を集めるが、長年舞台で培ってきたと見られる淀みない手品の数々(と、時折挟まれる下ネタ)に、オーディエンスも驚きの声と拍手で応える。最前列に座る女性客と協力して大ネタを決め、ステージから去っていったマメ山田。手品自体はごくごくスタンダードなものであったが、無駄のない動き、MC、時間の使い方――こうした舞台芸としての完成度を思いの外味わえる貴重な体験であった。
■原田仁(Hearts & Minds)によるアヴァンギャルドなヴォイス・パフォーマンス
再びミュージシャンのパフォーマンスに移り、ステージにはROVOのメンバーとしても知られる原田仁(Hearts & Minds)が。これまでアウトブレイクの名物企画である早朝GIG〈日曜日は2度来る!〉に出演した経験を持つものの、通常の時間帯に出るのは初とのこと。ROVOではベースとしてステージ後方に位置し、ツイン・ドラムと共にリズム隊を形成する重要なポジションを担う原田だが、ソロで繰り広げるのは、サンプラーとマイク1本によるアヴァンギャルドなヴォイス・パフォーマンス。デス・ヴォイス、ノイズ、ホーミー風、獣のような咆哮など、音の高低や質感を自在に変えながら、声だけで複数のレイヤーを構築していく。全体的にはノイジーであるが、会場中を覆い尽くすようなピュアなノイズ・サウンドとは異なり、音が途切れたときの静寂や声を振り絞る原田の全身の動きなどもひとつの“雑音”として機能していたのが何よりも印象的だった。
■こまどり社による獅子舞 & 元気いいぞうの乱入
さてクライマックス間近になったイベントに、こまどり社による獅子舞が、オールドスクールなカセットラジカセと共に襲来。客席側で飛び跳ねる獅子舞は、「お客さんの頭があると噛まずにはいられない」、もしくは「頭を噛むことしかすることがない」とこぼしつつ、オーディエンスの頭を次々と噛み締めていく。だが、やはりそこは獅子舞。噛むごとに会場には和やかなムードが広がっていくのだから不思議である。獅子舞からバトンタッチする形で、名前からして祝祭が似合うハレの人、元気いいぞうも乱入。 “熱中症”と“ねっ、チューしよう!”をひっかけたダジャレソングを朗らかに歌う。ギターも何ももたず、身ひとつで歌ってもこの求心力。さすがはNHK(日本ユーモア歌手協会の略)会長である。
■志茂田景樹&Hibiki MaMeShiBaのゴル・ラップ
トリ前でディープなビートを轟かせたのは、志茂田景樹&Hibiki MaMeShiBaのスペシャル・ユニット。HiBiKi MaMeShiBaは、インド~ネパールの山岳地帯で産み落とされたとされる呪術的ダンス・ミュージック「ゴルジェ」のトップランナーであり、タムによる強烈で陶酔的なグルーヴを操る(場合によってCDJ4台をコントロールすることも!)。そうしたビートの上で、直木賞作家である志茂田景樹が物語を紡いでいくゴル・ラップ(=ゴルジェ・ラップ)が披露される。ラップというよりもポエトリー・リーディングや浪曲に近いものであるが、志茂田景樹の職人としての矜持が感じられる言葉に対して、(おそらく偶発的に)タムが絡みつくかの如く打ち鳴らされるのが心地よい。新曲「てらりるれろ坊主 そらそらそらそーら」では、祭り囃子のリズムを導入しており、どこか懐かしさも込み上げてくる。また、「やっちゃえ やっちゃえ やっちゃえ ~今しかねえぜ~」では、タイトル通り〈やっちゃえ、やっちゃえ〉と叫ぶ“ゴルい”75歳の姿に、こちらが勇気づけられるほどだった。
■カオティックな非常階段オーケストラ
そしてラストを飾ったのは、非常階段と本日の出演者によるコラボ・ユニット「非常階段オーケストラ」である。参加したのは、せのしすたぁ、QP-CRAZYからツージー(Ba.)、サイボーグかおり、KIRIHITO、原田仁、こまどり社、志茂田景樹&Hibiki MaMeShiBa。当初、コラボ・パフォーマンスは5分の予定で、のちに非常階段単体(JOJO広重、美川俊治、Remo)としてのライヴも予定されていた。だが、最初にガツンとノイズが放出され、幕が上がった瞬間から「これは収拾つかなさそう」と誰もが思うフリーダムな雰囲気がそこにはあった。なかでも、中央に陣取っていたせのしすたぁのメンバー、まおは堂々とした振る舞いで、締りのない腹を見せる過激なサービスも(その様子を見たJOJO広重はまおに“腹弾き”させる荒業!)。一方、上手側では、サイボーグかおりと原田仁が互いの“声”をぶつけあい、下手側では美川のノイズのバックでツージーとKIRIHITO・早川が即興ながらもストイックなグルーヴを構築。JOJOに負けじとギターを弾き倒すKIRIHITO・竹久に、CDJからCDを出したり入れたりを繰り返すMaMeShiBa、獅子頭であらゆる頭に噛み付くこまどり社、そして、そんなカオティックな状況を、ステージ端で興味深く見つめている志茂田景樹……。そうした予測不可能なノリを全面的に肯定し、喝采を上げるオーディエンスの盛り上がりも含め、得も知れない感動的に包まれるステージだった。時間にしておよそ35分、主催者も予想できないロング・セットとなったが、それはノイズのカテゴリーにおいてミュージシャンの魅力を引き出した、非常階段というフォーマットの強靭さと懐の広さがあったからこそ、と言えるだろう。そのまま非常階段単体でのライヴは行わず終演し、猫ひろしによる閉会宣言がVTRで流れ、〈自家発電Vol.5〉は幕を閉じた。
■守りに入らないことから生まれる無垢なエンターテインメント
今回もイベントのレギュラーであるDJオッチーが、豊富な音楽知識に裏打ちされたニクいセレクトを披露。会場の張り詰めたムードを緩めたり、逆に緊迫感を高めたり…… 各パフォーマンス陣のギャップを埋める活躍を見せていた。
イベントとしても6回目、ある意味で過渡期に入ったと言える〈自家発電〉。毎度予測できない事態は起こるのだが、今回が最も手に負えないフリーキーすぎる内容であったと思う。SOLD OUTまで行かない状況がここ数回続いているが、それでも守りに入らないことから生まれる無垢なエンターテインメントを、これからも体感し続けていきたい。(森樹)
写真 : 月夜野ヒズミ
〈自家発電 vol.05 HFMD-Scratchin’ like a tom cat-〉
2015年6月28日(日)四谷OUTBREAK!
出演 : 非常階段 / QP-CRAZY / 志茂田景樹&HiBiKi MaMeShiBa / 原田仁(Hearts&Minds) / KIRIHITO / せのしすたぁ / サイボーグかおり / マメ山田(手品) / 田中雅紀(弾き語り) / DJ オッチー / 獅子舞 / 元気いいぞう
・自家発電 オフィシャル・サイト
http://jkhd.uh-oh.jp
・〈自家発電 vol.04〉ライヴ・レポート
http://ototoy.jp/news/80730
・〈自家発電 vol.03〉ライヴ・レポート
http://ototoy.jp/news/75884
・〈自家発電〉から生まれたBiS階段の特集をOTOTOYで掲載中!!
http://ototoy.jp/feature/20130808
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