【宗像明将が徹底レポート】ザ・プーチンズのワンマン・ライヴ〈ぷ道館〉とは一体…?
2015年6月7日、原宿ストロボカフェで開催されたザ・プーチンズのワンマン・ライヴ〈ザ・プーチンズのぷ道館 VOL.4〉は、音楽と笑いと不条理が交錯するライヴだった。
■ザ・プーチンズとはなにものか?
どこかの国の大統領を連想させるグループ名のザ・プーチンズは、「ロシア系怪電波ユニット」を標榜するグループ。ライヴ活動は極めて多彩な場所で行っており、ロシア大使館でライヴをするという、銃撃をも恐れない行為までしている。年1回開催される“本公演”と呼ばれている2時間に及ぶ舞台は、演劇雑誌でも度々取り上げられ、演劇ファンからも注目されている。
こうした演劇活動と音楽活動の両方をしているザ・プーチンズは、街角マチコ、街角マチオ、そして川島さる太郎からなる3人組だ。「3人組」と書いたものの、川島さる太郎は一見するとパペットのように見えるし、川島さる太郎が登場するときは、なぜか必ず街角マチコの姿がステージ上にない。まさか…… 川島さる太郎の声を街角マチコがあてているのでは……。
そんな疑問はさておき、ザ・プーチンズは非常に特異な楽器編成のグループでもある。街角マチコはテルミン、街角マチオはガット・ギターとスティールパンを演奏する。川島さる太郎は打ち込み担当ということだが、その光景は見たことがない。街角マチコの弾くテルミンはロシア生まれの電子楽器。街角マチオのギターには、ボサノヴァなどブラジル音楽の要素が濃い。地球の北半球と南半球が混在しているかのようなグループなのだ。
■ライスについて歌っているグループこそザ・プーチンズなのだ!!
この日も、まず壁に投影されたプーチンの写真による関西訛りの前説が行われた。諸注意の内容は「携帯電話の電源は入れておいてください」だけ。そもそも前説をする必要性がないのだが、実はこれは後述する演出の伏線になっていた。
ステージ前の透明なカーテンに、光の線が水平に一本浮かぶと、それが数本になり、やがて点や三角形に変形していった。カーテンは時折、近くに設置された送風機からの風で涼しげになびき、柔らかなピアノ演奏のBGMと相まって、幻想的な動きを作り出す。(注 : 舞台美術は光の芸術家、沼倉真理氏によるもの)
冒頭はロシアで暮らす「セルゲイ」と「ナターシャ」の会話だ。「日本にはウォッカもヴァカンスもないのに、日本人は何を楽しみに生きているんだ?」という会話から、日本人が生きる楽しみにしているライスについて歌っているグループの話題になる。街角マチオが、なにやらロックスター然とカーテンを飛び出して歌い出したのは「シンデレラII」。「銀シャリ!」や「大盛り!」でコール&レスポンスを要求する楽曲だ。そう、ライスについて歌っているグループこそザ・プーチンズなのだ。
このように、基本的には楽曲の前に、その楽曲に関連した小芝居が入る形式でライヴは進行する。たとえば、街角マチオの話すフランス語を街角マチコが「2時間前サバの味噌煮を食べました、今私の息はサバの味噌煮の臭いがします」などと翻訳した後に演奏されたのが「パリの空の下」であるように。これだけ読むと何の事か全く分からないが、事実そのような流れから「パリの空の下」がテルミンとガット・ギターで演奏されるのだから仕方がない。
■謎のドラマー「うんころもち」登場
夏の過ごし方の話題で、カンボジアの話題から演奏されたのは「君にデング熱」。街角マチオが上半身のスーツとシャツを脱いで、街角マチコのかかえる送風機からの風で、なにやらT.M.Revolutionばりにかっこいい感じになったものの、冷静に見るとふたりとも楽器を持っていない……。しかも街角マチコが街角マチオに「なんでラクダ色の肌着を着てるの!?」と怒る流れとなった。街角マチオいわく「肌触りがいい」とのことだ。
そこから街角マチオと街角マチコが揉める流れになり、ふたりともステージから去る展開に。そして、ステージに謎のキャラクター「うんころもち」が登場した。一見人形のようだが、E◯ILEや三代目◯SOUL BROTHERSでも活躍中だというドラマーで、ザ・プーチンズも「日本のマイルドヤンキー層はうんころもちさんが支えてる」と讃えているほどのドラマーだ。
うんころもちは、やっとステージに現れた川島さる太郎と「プーチンズのリハが晴れない」を披露。パベットと人形の動きに合わせて音楽が流れている…… などと夢のないことを言ってはいけない。かと思うと、街角マチコと街角マチオまで50センチほどの人形となって観客を驚かせた。まるで「ひょっこりひょうたん島」を見ているかのような状況だ、ライヴを見ているはずなのに……。街角マチオはあっさり人形から普通の大きさに戻ってギターを手にすると(普通に黒い布の下から顔を出したがあまり触れないでおこう)、「古墳のうた」を演奏した。
■伏線の回収と〈ぷ道館〉史上、最大に無茶な演出
うんころもちが帰ると、街角マチオが「日本語って面白いなって思うんですよ、母音が少ないので同音異義語が多いそうなんです」と言って披露されたのは、「ニホニホ」という楽曲だった。駄洒落の要素もあり、日本語の誤用についても批評的な実に凝った歌詞だ。
街角マチオが楽器をスティールパンに替え、ザ・プーチンズがシリアスなインストルメンタルを演奏したのも束の間、街角マチオは「曲の途中ですが今から僕の電話番号を言います」と言い出した。そう、プーチンの前説での「携帯電話の電源は入れておいてください」はここへの伏線だったのだ……!
街角マチオは自分の電話番号をその場で言うと、観客に一斉に電話をかけさせて会話を始めた。もちろん話すことができたのは、真っ先に電話をしたひとりだけだ。「兄弟はいますか? いとこは? 名前は? マサヒロ? それ俺。オレオレ。すごい借金できちゃって、あと100万なんだよ」という会話の後に、通話しながら演奏を始めたのが「振り込め詐欺」。しかもイントロで終わった。
「原宿ありがとうございます、ストロボカフェありがとうございます、日本ありがとうございます、電波ありがとうございます」。そんなやや強引なMCとともに最後に演奏されたのが、東京タワーに捧げられた「デンパデンパ」。なんと途中で街角マチコが浮き輪を抱えて観客に無理矢理ダイヴし、フロアの真ん中まで行くという行為に出た。これまで無茶に無茶を重ねてきた〈ぷ道館〉の中でも、もっとも無茶な演出だった。
■笑いと不条理の中に、しっかり次への展開を示した彼らにふさわしい「前哨戦」
アンコールでラップ・ナンバー「僕のプリン食べないで」が演奏された後、再びプーチンの写真が壁に投影されて後説がスタート。「内緒でMVを作りまして、とんでもない規模の予算を使ってしまって……」と紹介され、ステージで初公開されたのが、今回OTOTOYでハイレゾ配信される新曲「恋愛契約書」のMVだった。谷地村啓がサウンド・プロデュースをした、これまで以上に凝ったサウンドと、ラヴソングの登場人物を「甲」「乙」と表現する歌詞。そして、名嘉真法久(エイプリルズ)が監督したMVで「甲」と「乙」を演じる中島歩と小宮一葉の初々しさ。すべてがこれまでのザ・プーチンズにはないものだ。
〈ザ・プーチンズのぷ道館 VOL.4〉は、笑いと不条理の中に、しっかり次への展開を示すライヴとなった。街角マチオによると、今後活動を加速するというザ・プーチンズ。「ぷ道館」は、そんな彼らにふさわしい「前哨戦」だった。(宗像明将)
・ザ・プーチンズ「恋愛契約書」はOTOTOYでハイレゾ配信中!!
http://ototoy.jp/_/default/p/53095
ザ・プーチンズ「恋愛契約書」MUSIC VIDEO
https://www.youtube.com/watch?v=gO7Fr7xtCXQ
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