古舘実況でウルトラシリーズとプロレスの親和性の高さが分かる『ウルトラマンZOFFY ウルトラの戦士VS大怪獣軍団』

 生観戦も醍醐味とはいえ、やはりプロレスは実況解説付きで観る独特な面白さがあるスポーツです。リング、場外、時には会場施設内での展開を言葉で補完し、感情移入を促してくれる実況解説。毎週複数の番組を放送しているWWEの場合、番組毎の実況チームの声や台詞も売りであり、特色でもあります。

 映画の中でもスポーツ実況の扱われ方は多種多様ですが、以前ご紹介した『モンスター・トーナメント』のように 実況チームが半ば客観的に劇中の内容に”実況をつける演出”は、そう多くはないようです。
 しかし、そのパターンで実況をぶっこんだ日本映画、しかも特撮映画があるのです。それは『ウルトラマンZOFFY ウルトラの戦士VS大怪獣軍団』(1984)!

 ウルトラ兄弟の長兄「ZOFFY(以下ゾフィー)」がタイトルロールながら、実はTVでのウルトラシリーズが一段落した頃の円谷プロのプロモ的作品であり、『ウルトラQ』から『ウルトラマン80』までの15年に渡るウルトラ兄弟と(主に人気のある)怪獣の名勝負の編集版。つまりゾフィー兄さんはホスト役であり、実況解説者。
 さらに本作が特異なのは、テレビ朝日社員時代の古舘伊知郎氏が「実況アナウンサー」として参加しているところ。

 今やインテリ報道キャスターですが、当時担当していた『ワールドプロレスリング』(新日本プロレス)の実況アナウンスは、定番の感嘆詞「おおぉっと」のほか、絶妙な比喩的フレーズをハイテンションで矢継ぎ早に繰り出す”うるさ型”。この古舘実況は、80年代プロレス黄金期の象徴となり、他局アナにも影響を与えた一方で、プロレスファンからすると賛否両論なタイプでした。

 円谷プロもさすがにうるさすぎると判断したのか、担当したのは3戦のみ。それでもウルトラマン登場に驚いてスッ転ぶ怪獣を「神出鬼没、驚天動地、これにはビックリ、ギャンゴさんもビックリであります!」などと表現するなど、ウルトラ兄弟と怪獣の攻防を無駄に熱く、そしてけたたましく味付けています。

 しかし、中立を守っている辺り、さすがはアナウンサー。片やゾフィー兄さんの解説は、古舘氏の相棒・山本小鉄氏のような一歩引いた的確な名解説を求めるべくもない、完全にウルトラ兄弟びいきのソレ。WWEでよくある、片方にしか良いことを言わない”ゲスト実況という名のセコンド”やないかい!
 ただ、後半の弟エースのバトルに”おっとり刀(これも古舘氏の定番フレーズ)”で駆けつけているので許してあげましょう。

 実況面以外でもプロレスっぽい点があります。ギガスとドラコがやり合う中、高みの見物なレッドキングの図式は実際の三つ巴戦でよくある風景だし、ギャンゴがタロウに「もうやめて」と懇願しつつの騙し討ちはリック・フレアー風だしで、プロレス好きならニヤリと出来るシーンが多数。ウルトラシリーズのバトルにプロレスのエッセンスが散りばめられていることが良く分かります。

 文章にすると異色過ぎる作品ですが、ウルトラシリーズのプロレスとの親和性の高さが分かるバトル中心の編集のため、意外と古舘実況に違和感がなく、個人的には楽しめた逸品でした。

(文/シングウヤスアキ)

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