「セグウェイで旅ができる日は来るんですか?」原英史さんにきく道路の規制たち

原さんにきいてみよう

政策工房の原さんと”規制”の話を通して世の中のシクミについて考えるシリーズです。今回のテーマは「『セグウェイ』が公道を走れないのは何故か?」です。立ったままの状態で乗り、運転者の体重移動を感知して走るセグウェイ。2001年に登場した当時は魔法のような乗り物として話題をさらいました。それからかなりの年月が経った今でもまだ日本ではセグウェイで公道を走ることができません。セグウェイはまだ日本では魔法の乗り物のままなのです。法律の上ではこの世に存在しないものとして扱われているようですが一体なぜなんでしょう。

登場人物
原=原英史さん(政策工房)
ふかみん=ききて:深水英一郎(ガジェット通信)

原さんプロフィール:
原英史(はらえいじ) 1966年東京生まれ。東京大学法学部卒、米シカゴロースクール修了。89年通商産業省入省、07年から安倍晋三、福田康夫内閣で渡辺喜美・行政改革担当大臣の補佐官を務める。09年7月に退官後「政策工房」を設立。政策コンサルティングをスタート。近著に『官僚のレトリック』(新潮社) 10年10月、国際情報誌『SAPIO』にて連載開始。

【セグウェイが公道を走れないワケ】

ふかみん:こないだ初めて『セグウェイ』に乗ったんですよ。操作は簡単だったし、すごく楽しかった。これで街中を移動できたらいいのになーと思ったんですが、『セグウェイ』って公道を走れないらしいですね。

原:どこで乗ったんですか?

ふかみん:大きなゲームセンターみたいな場所ですね。

原:今は、私有地の中しかダメなんですよね。建物の中とか、公園・牧場などの敷地の中とか。例えば牧場と牧場の間に公道があったりすると、乗ったまま通れない。

ふかみん:不便ですね。折角便利な乗り物があるんだから、道路で走れるようになってもいいんじゃないでしょうか。

原:そこにも『規制』がありまして。

ふかみん:うう……また規制だ……。

セグウェイ

原:『道路交通法』の世界だと、世の中のモノは3つに分かれるんですよ。ひとつが”歩行者”。もうひとつが”軽車両”。自転車や人力車です。そして”車両”。バイクや自動車ですね。世の中の移動する物体がその3つのどれかに分類されて、どこを通っていいかが決まる、という仕組みなんです。で、『セグウェイ』って、どれにも当たらないんです。
『道路交通法』の中で、存在しないはずの物体なんですよ。

ふかみん:存在しないって……例えば軽車両ではダメなんですか?

原:原動機付きの”自転車”は近いですよね。

ふかみん:電動アシスト自転車ですね。

原:近いんですけど、電動アシスト自転車の場合、人力でペダルを漕ぐ力とモーターで補助する力が1対2以下でなくてはならない、なんてことが道路交通法の施行規則でピシッと決められている。そして軽車両というカテゴリに入るためには”ペダル”が必須なんですよね。

ふかみん:『セグウェイ』にペダルはないですね。

原:ペダルがなくてモーターで動くものに『車椅子』があって、これは歩行者カテゴリです。ですが、時速6キロを超えちゃいけないんです。

ふかみん:もうちょっとスピード出したいですね。『セグウェイ』って時速20キロぐらいは出ますよね。

原:じゃぁ、車両カテゴリではどうかということなんですが、車両には”ブレーキ”が必要。

ふかみん:『セグウェイ』は体重移動で加速と停止をおこなうから”ブレーキ”は存在しないですね。

原:というわけで”車両”でもない。3つのカテゴリのどれにも当てはまらないわけです。だから歩道も、自転車道も、車道も走れない。外では走れないんです。

ふかみん:停止の方法が体重移動だとしても、結局それで停止するんだから、ブレーキです、とは言えないんですか。

原:制動装置とはいえない、ということみたいです。

ふかみん:もし、そのまま公道を走ったらどうなるんですか?

原:道路交通法違反で罰金です。場合によっては『3か月以下の懲役』もありえます。

ふかみん:整備不良車を走らせたときと同じってことでしょうか。

原:そうですね。

ふかみん:なんともできないんですか?

原:普通に考えたら、自転車ぐらいの扱いが妥当だと思うんですよ。なので、道路交通法の軽車両の記述の中に『セグウェイ』のような乗り物の扱いについて書き込めばそれで乗れるようになります。こういう新しい発明が出てきたときに、法律の中にあてはめられないという状況はときどきある話です。それ自体はおかしくないんですが、出てきたらさっさと法律を直さなくちゃいけないですよね。

ふかみん:折角便利なものが出てきても、法律のせいで使えないのは残念ですね。

原:ブッシュ大統領が日本に持ってきて、小泉首相が官邸で『セグウェイ』に乗ったのが、もう6~7年前でしょうか。

ふかみん:ずいぶん時間が経っているのに。新しいカテゴリの道具を使えるようにするための仕事をさぼっている人がどこかにいるわけですね。

原:諸外国でも自転車と同じような扱いで乗れるようになってきています。新しいものがでてきたんだったらさっさと法律を直せばいいのに、何年間も放置しているんですね。

原さん

【セグウェイが道路を走れない不思議】

ふかみん:なんで放置してるんでしょうね。背後に何かある、ということはないですか。自動車メーカーなどが圧力かけてる可能性はありませんか?

原:仮説のひとつとして、ありえなくはないですね。『セグウェイ』ってのは新しいカテゴリの乗り物を造るベンチャーとして出てきたわけです。ひっとして大手のメーカーが同じようなものを作っていて、後発でつくったそれが売れるように市場の準備ができるまでは新しいカテゴリの乗り物が広まって欲しくないと考えている、という仮説のストーリーは想像できますね。

ふかみん:実際、近いものつくっている大手メーカーはありますね。僕が大手メーカーの人間だったら、準備ができるまでは解禁になって欲しくないな。

原:もうひとつ、あり得るとしたら、そういう法整備をやるべき立場の人のマインドの問題というのがあります。こういう新しいものを認めて、もし事故が起きてしまった場合、責任問題になるわけですよ。そのとき責任をとりたくないという思いがある。「あの人が認めたために、事故が起きて、大変なことになってしまったじゃないか」ということになるよりは、誰も新しいものに乗れない状態にしておいたほうがいいわけです。彼らにとっての”リスク”が少ない。

ふかみん:交通法規って年々厳しくなってきていて、緩くなるってことはないですもんね。

原:ワシントンやパリでは”セグウェイツアー”という名前で、街中をセグウェイで走る観光ツアーもあるぐらいなんですよね。それぐらい使われていても安全性に問題があるという話はないようなんですよね。

ふかみん:ジャーナリストの神田敏晶さんが2003年にセグウェイに路上で乗るというイベントを開催し、公道を走ったために、道路交通法違反で略式起訴されてしまったんですよね。自賠責保険の未加入、整備不良、道路の逆行などで50万円の罰金。その時の警察の調査でセグウェイは”軽車両”じゃなくて”車両”だと結論づけられた。ちなみにその調査にかかった期間は1年、費用は500万円だったそうです。そしてこの事によってセグウェイが公道を走るためにクリアすべきハードルが上がった、という話をきいたことがあります。

神田さんはそのとき、セグウェイのレンタルや販売のビジネスを考えていたそうで、できるだけ早く公道をセグウェイが走れるようになって欲しかった。早ければ早いほど、ビジネスチャンスは広がりますから。そこで、国土交通省、法務省、陸運局、自賠責を取り扱う保険会社、交通安全協会などに問い合わせをおこなった。しかしどこも公道を走ってよいか判断できなかった。もちろん”歩行者”か”軽車両”か”車両”なのかといった区別もできなかった。結局神田さんは、誰も判断できないなら判断をあおぐために実行、ということで公道を走ったそうなんです。ここで何故「判断をあおぐために公道を走る」になるのか、僕にはちょっとわからない部分もありますが。

そして神田さんがテレビのニュース番組で「シロでもクロでもなくグレー。なので、判断をあおぐために実行した」と発言しているところを警察側が見ていたそうなんです。実際に取調べの際、神田さんは警視に「そんなこと言っちゃだめだよ」と言われた。

ここからは推測ですが、警察側はその発言や行動を挑発だと受け取り、過剰反応をしたんじゃないかなと。そういう、いろんな要因が重なってしまった結果、今、警察側は前に進めない状態になってしまっているんじゃないかと思うんです。セグウェイで公道を走ると道交法違反という前例がここでできちゃった。なのでなかなかそれを自分たちではひっくり返せない。この一連の出来事で、警察側からは動けない状況になっちゃった。

原:そのお話について詳しくは知らないんですけども、警察の人がそれを挑戦みたいなものだと受け止めて「あんなもの絶対認められないぞ」という人達が内部にいるんじゃないか、という噂はきいたことがあります。

ふかみん:それが直接の理由とは言えないかもしれないですけども。

原:推測含みですが、その神田さんへの怒りの話や、競合企業からの圧力、そして安全性に対する過度な対応といったものがミックスされて現在の状態になっている可能性はありますね。

ふかみん:セグウェイは既存の法律では存在しないものとして扱われる、というとこまではいいとしても、それじゃどうしよう、という風に話が進まないというのは変ですもんね。なぜそこで止まってしまっているのか。

原さんキリッ

【セグウェイで旅に出たい】

ふかみん:セグウェイが登場したときもかなり衝撃でしたけど、これから先、想像を超える、見たことも無いような便利な乗り物が作られる可能性は十分あるわけじゃないですか。でも日本の開発者が日本で開発しても日本で乗れないってことなら、開発する意欲がなくなってしまうんじゃないでしょうか。

原:みんな海外へ出て開発するようになるんでしょうね。生産拠点を海外へ移す、というのは80年代からあったことなんですけれども、今は本社や研究開発拠点を移すという動きもありますね。何故かというと、研究開発をやりやすい環境が整っているからです。

ふかみん:かつては自動車産業で栄えていたのに、こういうフタの仕方をしちゃうのはもったいないなと思うんですよね。法律のどこを直せばセグウェイは公道を走れるようになるんでしょうか。

原:道路交通法の中で、自転車と並びにしちゃえばいいですね。

ふかみん:どう書くんですか?

原:まずはきちんと定義しちゃうんです。例えば、カクカクシカジカな原動機がついていて、体重を傾けると走るようになっている装置。といった風に。必要があれば速度やモーターの出力はここまでといった事も書き込めばいいんです。

ふかみん:セグウェイでアメリカ横断やってる人の話があるんですが、そういうの見てるとうらやましい。日本でもやりたいなと思うんです。セグウェイで旅に出てみたいな。

原:ほんと、新しい技術の導入がスピーディにできる国でありたいですね。技術立国っていうぐらいなんだから、そこも先進国になりましょうよ、ということです。この事例はひとつの象徴だと思います。

原さんへの質問を募集中です。規制に関する疑問があれば質問してみてください。

原さんの連載「おバカ規制の責任者出てこい!」は国際情報誌『SAPIO』に掲載されています。こちらもチェックしてみてくださいね。

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深水英一郎(ふかみん)

深水英一郎(ふかみん)

トンチの効いた新製品が大好き。ITベンチャー「デジタルデザイン」創業参画後、メールマガジン発行システム「まぐまぐ」を個人で開発。利用者と共につくるネットメディアとかわいいキャラに興味がある。

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