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意外にハード!? 知られざる「試食販売の裏側」

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エプロンに三角巾の爽やかな笑顔のお姉さんに手渡されて、試食品を口にする。スーパーで幼い頃に体験したことのある人も多いのではないだろうか?
小さい頃、筆者は試食販売の仕事に憧れていた。おいしいものを笑顔で売る、とても楽しそうな仕事だった。そして、ふとした機会にその仕事に就いたことがある。パン、製菓製品、柏餅、ヨーグルト、肉、魚、納豆…これらはすべて筆者が試食販売で宣伝したことのある食品だ。
もちろん、幼い頃のように憧れの気持ちだけが発端ではない。週払い・日払いの条件が切羽詰った財布をいっときでも潤してくれそうだったからだ。ここでは知られざる試食販売の仕事について綴ってみたい。

登録会・説明会

試食販売の仕事はだいたいが高校生から上の年齢を対象としている。先述のように派遣会社が日払いや週払いで募集をかけることが多い。面接というものはなく、応募すると登録会に呼ばれる。派遣元の提示する仕事に同意すれば早速働かせてもらえるのだ。来訪時に必要なものは身分証明書や証明写真、筆記用具と印鑑。履歴書は必要ないことも。
筆者がこれまでに登録した派遣会社は二社。
どちらも都心のビル内にある事務所だった。会議室のような場所で、あるいはもっと手狭な空間に集まって社員から説明を受ける。
応募する人はさまざまだが、だいたいが高校生から二十代くらいの女性が多い。
面接ではないのでだいたいがカジュアルな服装だ。
まず、書類に自分の経歴を簡単に記入する。
それから、派遣業務の概要や、仕事の内容を明かされる。
特に注意されたい点が以下のことだ。
・交通費は負担してもらえるが立替
・その日の材料費も立替
・ホットプレートなどの料理器具は自分で持参する
・エプロンや調理台にかけるテーブルクロスなどは自分で購入する(経費では落ちない)
ここで予めやめたいと思う人は帰宅してくださいと促される。
すると、実際にこの条件を聞いて帰宅する人も大半いるのだ。それはそうだ。日払い、週払いという内容に引かれて応募したにもかかわらず、こうした出費が必須と言われては本当に切羽詰っている人には厳しい。

打ち合わせ

その後は個人面談が行われる。
といっても、面接ではない。明日以降働きたいという人に対して、実際の仕事を提示して是非を確認する打ち合わせだ。
実はここでも脱落者が続出する。
というのは、筆者の属した事務所では都内の業務だけではなく、他の県の仕事も扱っていたからだ。そして、そうした遠方の県ではべらぼうに交通費がかかる。元より多少の出費は覚悟していた人でも、この条件を聞いて実際の仕事に就くことを諦めてしまう人も多い。
それでも何とか妥協して仕事を受諾すると、次はトレーニングに入る。
トレーニングとは何か? つまり、要するに試食販売は笑顔が基本。そして大声で呼びかけることが求められる。そのロールプレイングを行う。社員がまず手本を見せて、それに習って呼びかけをする。
隣同士の人と売り手と買い手の役割を交換しながら、練習を行う。
実際には狭い事務所のなかで売り場にいるような大声を出すのは違和感があるのだが、ここできちんとしないとなかなか合格と言ってもらえないことも。恥ずかしがらずに大声と笑顔を見せられればOKだ。
トレーニングが終ったら、業務報告シートと検便用の器具、それから翌日から仕事に入る人は料理器具を借りて帰宅する。生鮮食品、特に肉類や魚類を扱う仕事は検便検査が必須だ。そして、持っていない料理器具があるなら帰宅前に買い揃えなければならない。結構ハードだ。
もしも翌日すぐに仕事に就かない場合も、業務があるなら前日に必ず事務所へ連絡する必要がある。電話連絡やサイト登録で、自分が仕事に向かえることを伝えるのだ。当日サボる人が少なくないためだ。例え体調不良でも、一度受諾した仕事にNGを出すと、その後仕事がもらえなくなる可能性もある。また、当日も家を出発した時点、店に到着した時点、業務を終えて店を出た時点でも報告の連絡などをせねばならない。とにかく体が資本なのだ。

当日

筆者が初めての試食販売で困ったのは、スーパーマーケットの入り口だ。
普通、客の立場であれば自動ドアの入り口から入ればよい。
しかし、スタッフとして訪れているのだから裏口から入るように指示されている。だが、困ったことに、スーパーマーケットの裏側というのは、駐車場と倉庫と仕事場が敷地内にひとつづきになっていて、正直、どこが入り口かわからないのだ。これも慣れてくると、店によって受付や入店口がわかるようになるのだが…とにかく最初はあたふたする。とりあえずは、必ずお店の人が働いているので、笑顔で話しかけてどうすればいいか尋ねるのが一番いい。
お店の人にはお客さんに対するのと等しくとにかく笑顔が大切だ。
だいたいが親切だが素っ気無いこともある。受付の手続きも、声がけすればいいだけの店もあるし、チェーンで大きな会社だときちんとバッジをつけなければいけないところもある。
ちなみにロッカールームがある場合はそこで荷物を置いていいこともあるが、そんなものはない場合もある。そのときは、通路や入り口の邪魔にならない場所でさっと上着を脱いでエプロンを装着する。
余談だが、たいがいの場所は更衣の場所を与えてくれる。しかし、更衣室がない上に朝礼に集合が必要など、異様に厳しい店もあるので注意されたい。入店したら、まずは売り場の担当者を探して挨拶。それからの準備が大変だ。まずは裏手の試食台を売り場に引き出してセッティング。それから売る品物の数を数える。これは実際にどれだけ物を売ったか報告書に記入する必要があるためだ。そして、調理のために材料を購入する。広い店だと売り場を駆け回ることにもなる。 

売り場では

さて、いざ業務を開始すると、さまざまなお客様が立ち寄ってくれる。あたりまえだ。だってタダでものが食べられるのだから。売り方のコツはいろいろあるが、まわりに人がいなくてもずっと呼びかけること。
試食サイズは大きめにするといい。大きめにすると喜ばれてにこにこしながら買ってくださる方が増える。筆者はステーキ用の肉を大きめに切りすぎて売り場の担当者からイヤミを言われたことがある。しかし、そんなケースは稀だ。とにかく売ればいい。大きめに調理をしよう。
そして、商品をよく知っておくこと。製品の試食は絶対に行うことだ。あらかじめ決めて買ってくれる人や、大声に負けたといってくれる人などがいるが、親切にするに越したことはない。しかし、商品知識がなければ『話を聞いて決めたい』と思ってるお客様を逃してしまう。
筆者が体験した試食販売のなかで一番弱ったのはみかんの試食販売だった。
みかんは難儀だ。ご承知の通り、あれらはすべて同じ見た目をしている。しかし、実際にはブランドみかんを販売したので、味も糖分もずいぶんと違うのだ。試食台に並べて最初は把握していても、果てにはどれがどれだかわからなくなってくる始末。仕方ないので食べたいと言われるそばからみかんを割ってさしあげるようにしたら、『わざわざ割ってくれて』とありがたがられて、たいそう売れた。
客層も様々だ。町自慢をしてくる素敵なご老人、何かしらをくれようとしてくる有閑夫人。本来はタブーなのかもしれないが、筆者はカスピ海ヨーグルトをいただいたこともある。何故かはわからないが、いい町だった。一方でメーカーの愚痴を言ってくるいやみな親父もいる。しかし、それでもお客様はお客様だ。自分のうちで客層をマイナスとプラスにわけて、マイナスと判断した相手とは長く付き合わず、プラスになる相手には丁寧にすると良い。
売り方は商品の性質や調理方法によりいろいろと戦略が考えられる。慣れてくると午前中は様子見、午後は戦略の実行というように売り方を編み出す余裕も出て来る。
それから、お客様にあれはどこに売っているの? などと問われることは必ずある。そういうときは無理せずに店員のもとへ案内して尋ねる、など、協力を請うといい。間違った案内をするよりはましだ。ものによってはレジまで運んで、などと言われることもある。そういうときは手伝ってあげるのもいい。本来は売り場を離れてはならないが、火を扱っていなければその方が売り上げにつながる。
ありていな話、女子が一人で立っているのだ。しかも話しかけていい。いかにもにやついたおっさんが寄ってくることもある。そういうときは早めに話を切り上げてしまうことだ。それから、明らかに買う意図のない方から試食を繰り返し求められることも。その場合はなるべく小さいものを渡し、相手にしないという態度を示そう。
夫婦連れや小さな子供連れなど、家族と一緒に来店されているお客様は話にも耳を傾けてくれたり、買ってくれることも多い。この食品、嫌いだけどおいしいね! だとか、料理上手だね、などとお褒めの言葉をいただくことも。主婦層からは自分もやってみるわ、と言われるのが一番やりがいの感じられる言葉だ。

休憩

休憩の時間は店によりまちまちなので、来店して昼近くなってから担当者に確認する流れとなる。許可をもらったら器具を一旦バックヤードに片付けて、休憩室で食事をとる。広い店では食堂があることも。しかし、この休憩時間も報告書の作成などが必要でなかなか落ち着かない。ただ、場所が場所なので食事はその店で購入すればいい。買うときには受付でバッジを受け取る必要がある店もあるので、わからないときはお店の人に聞くのがいいだろう。

後片付け

業務が終ったら速やかに器具を片付ける。そして、書類に担当者のサインをもらう。
帰り際にはそれを封筒に入れて事務所宛に投函しなければならない。これが給与受け取りのために必要な作業なので失念すると大変だ。ちなみに切手代は事務所が負担してくれる。この書類だが、実際はアンケートのようなもので、メーカーが知りたがっているお客様の声を詳らかにする必要がある。もしメーカーに関してのイヤミを言われたら言われたで、そのことも率直に書いてしまえばいい。試食販売の実質的な使命はその日の売り上げを伸ばすことだけではない。お客様の生の声をメーカーに届ける役割を負っているのだ。そのあたりを理解しているか否かで業務への評価もかわってくるはずだ。
場合によっては、仕事ぶりを買われて、あるお店からまた来てほしいとご指名をもらうこともある。また、売れ残りの最後の一個を店長が買ってくれたりすることもある。

最後に

これはあくまでも私見だし、相性の問題もあるだろう。しかし、スーパーでの仕事は非常にその土地柄の良し悪しを肌で感じられる仕事だった。何がそうさせているのかはわからない。しかし、その売り場の担当者の感じが良いと客層もいい。担当者が意地悪だと、お客様もわざわざイヤミを言うような客が多かったりする。この仕事を行ったおかげで、引越しをするときはまずその土地のスーパーに足を運んで住人の質を確かめようと思うようになったくらいだ。
時には大雪の日に何時間もかけて遠征することもある。そんな時は、あまりの雪で来店客自体が少なく、売り上げは気にしないで! と労ってもらえたりする。それでも冷たい風の吹き込む入り口近くでチョコバナナなどを売っていると、部活帰りらしい中学生がわらわらと寄ってきて試食してくれた。もちろん義務教育下の中学生には購買能力はあまりない。平生なら、あまりいい客ではないのだが、とにかくおなかが減っていそうだし、どうせお客がこないので、たくさん食べてもらったことも。話を聞くと部活帰りではなく雪合戦の帰りなのだと教えてくれた。大人ではないのでとても素直に懐いてくれた感じがした。
帰り際に、あの人いいね、と一人の少女が呟いたのが聞こえた。
そういえば、幼い頃にこういう仕事がしたいなと思ったことを思い出した。今の自分の姿が少しでも、参考にしたい大人の一人、として少女の目に映ったのなら幸いだと思えた。
実際にはそんなに楽な仕事ではないのだけれど、例えばビル街のオフィス業務では、こんなに生々しく色色な人と肉薄して仕事するなんて機会はないものだ。それを思うと、帰りの大変な雪道を乗り切る勇気を得たことを覚えている。神奈川、千葉、埼玉と色色なところに行かされて大変な仕事ではあったのだが、人生修行になったことは相違ない。

写真素材 足成
http://www.ashinari.com/ 【リンク

※この記事はガジェ通ウェブライターの「小雨」が執筆しました。あなたもウェブライターになって一緒に執筆しませんか?

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