米国で10年間1位、キヤノンが高い特許件数を誇るワケ

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米国で10年間1位、キヤノンが高い特許件数を誇るワケ

キヤノンの米国特許取得件数が、10年連続で日本企業の中で1位

キヤノン株式会社の米国特許取得件数が、10年連続で日本企業の中で1位になったそうです。具体的には、2014年のキヤノンの米国特許取得件数は4,055件。つまり、1日あたり10数件も特許が成立しています。ちなみに日本企業に限定しないランキングでは3位。1位はIBM、2位はサムスン電子でした。

なぜ、キヤノンがそこまでの特許件数を誇れるのでしょうか。これには3つのポイントがあります。

キヤノンの事業内容は特許取得が求められる技術分野が広範囲

まず、特許を取得する必要性が高い事業内容である、という点です。

例えば、ゼネコン。鹿島建設といえば超大手ゼネコンですが、米国での特許取得件数は毎年数件足らずにすぎません。米国特許の取得件数は極めて少ないのです。そもそもゼネコンの場合、工事の全体的なとりまとめを行うという事業内容から、特許を取得する必要性はそれほど大きくありません。もちろん、建築資材、施工方法や免震技術など、特許の対象になり得る技術もありますが、建築資材は資材メーカー、施工方法は建設業者の出願になる場合が多く、また、特許は各国ごとの制度のため、米国で独占権を享受するメリットがなければ、米国特許を取得する意味は乏しいのです。

キヤノンの場合、事業内容がカメラやプリンター、複写機、ステッパーなどの製造のため、光学、電子技術、ソフトウエア、機械技術、化学等、特許取得が求められる技術分野が広範囲にわたっています。また、製品は輸出されますので、日本だけで特許を取得するのでは不十分。海外市場、特に米国で特許を取得する必要があります。

かつて複写機に進出した際の苦い経験から知財志向が強くなった

もっとも、キヤノンは日本でも昨年の特許取得件数は約5,400件で第1位です。つまり、米国だけで特許を取得しているわけではありません。キヤノンは、日本でも米国でも知財志向の高い企業だといえます。これが2つ目のポイントです。

これは、かつてカメラメーカーだったキヤノンが複写機に進出した際に、先行するゼロックスに特許を押さえられていたため、大変な努力をして、特許の押さえられていない複写方式を編み出したという歴史的事情もあるようです。それ以来、キヤノンは知財を押さえていこうという志向性が強くなりました。

米国特許の性質に見合った未来志向型の特許戦略の影響

また、昨年の特許取得件数で比較した場合、富士通は日本で約3,200件、米国で1,820件、リコーが日本で約3,600件、米国で約1,600件です。一方、キヤノンは日本で約5,400件、米国で4,055件。つまり、キヤノンが日本での特許取得と比較しても、多数の米国特許を取得しているのは間違いありません。このようにキヤノンが米国で多数の特許を取得できるのは、その未来志向型の特許戦略の影響かもしれません。これが3つ目のポイントです。

特許は、技術開発の途中で一定の成果が出たところで出願する、というパターンが一般的です。それに対し、キヤノンには、将来的な技術動向を踏まえ、製品を仮想設計して特許出願する戦略があるようです。特許出願を先行して進め、特許網を構築してから事業化を行うわけです。そして、これは日本の特許よりは米国での特許に親和性の高い手法です。日本でも米国でも、製品化は特許出願の必要条件ではありませんが、米国の場合、特にアイデア段階で製品を仮想設計して出願する傾向がより強いといえます。もちろん、この場合でも実施可能性は必要です。

これら3つのポイントがキヤノンの高い米国特許取得件数を支えています。この傾向は今後も続くと考えられます。

(小澤 信彦/弁理士)

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