「飲酒運転で銃殺刑」はいつ始まったデマか(今日も得る物なしZ)
今回はkyoumoeさんのブログ『今日も得る物なしZ』からご寄稿いただきました。
※すべての画像が表示されない場合は、https://getnews.jp/archives/759641をごらんください。
「飲酒運転で銃殺刑」はいつ始まったデマか(今日も得る物なしZ)
twitterでこういう画像が話題になっている。
「タッチ@luckyseven43」 『twitter』
https://twitter.com/luckyseven43/status/552653185127440385/photo/1
(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)
https://px1img.getnews.jp/img/archives/2015/01/227.jpg
エルサルバドルでは初犯で銃殺刑、ブルガリアは2度目で銃殺刑などとにわかに信じがたいことが書いてある。
ということで調べてみるとこのような記事があった。
「ホントですか? ブルガリアでは飲酒運転は銃殺刑!」 2011年02月16日 『clicccar.com(クリッカー)』
http://clicccar.com/2011/02/16/7678/
この「道路交通法」のどこを読んでも、「飲酒運転者は二度目からは銃殺刑」なんて書かれていません。ネット情報が、まったくの事実無根であることが判明したのです。なーんだ、いったいどこからそんなガセネタが出てきたんだよっ!!(怒)
ブルガリア大使館からの回答の最後にはこんな一文が。「なお、ブルガリアは死刑完全廃止国です」。死刑を実行している国の人たち(われわれ日本人のことです)から、なぜこのような根も葉もないウワサを流され、誤解されなければならないのかという、ブルガリア人の憤まんと悲しみがこの言葉に含まれているような気がします。いやー、ほんとうに失礼しました。まことに申し訳ありません。ここはわれわれの良心にかけて、「ブルガリアでは飲酒運転は銃殺刑」というふざけたガセネタを削除、もしくは根絶しようではありませんか。
調べてみると確かに死刑廃止国であることがわかる。
「死刑廃止国と存置国」 『死刑廃止info! アムネスティ死刑廃止ネットワークセンター』
http://homepage2.nifty.com/shihai/shiryou/abolitions%26retentions.html
1983: キプロス、エルサルバドル(通常の犯罪に対して)軍法下の犯罪や特異な状況における犯罪のような例外的な犯罪にのみ、法律で死刑を規定している国
1998: アゼルバイジャン、ブルガリア、カナダ、エストニア、リトアニア、イギリス(すべての犯罪に対して)
ということで飲酒運転で銃殺刑はあり得ないと考えても良さそう。
では誰がデマを広めたのか。
否定記事が2011年なのでそこからたどってみると、その頃ソースとされていたのはこのサイトらしい。
「世界の飲酒運転事情」 『交通違反ドットコム』
http://www.angs.jp/world.htm
殺人罪以上に厳しい国もあり、エルサルバドルは初犯から、ブルガリアは2 度目から極刑(銃殺刑)が適用されます。
このサイト自体何なのかよくわからないが、とりあえずここが引用されていることが多い。
さらにさかのぼってみるとこのような記事を見つけた。
「a driver’s license」2006年02月04日 『Wish 2 Survive !!』
http://wsh2srvv.exblog.jp/3140202
●飲酒運転の罰則。
飲酒をしての運転の罰則が厳しくなったことは記憶に新しいですね。http://www.ktn.co.jp/koutsuu/insyu-new.html(※現在、こちらの記事は公開されていません。)
しかし、それでもまだ甘いようです。
以下、世界の罰則例↓
トルコ・・・32キロ離れた郊外に連行され歩いて町まで帰らされる。
オーストラリア・・・地方新聞に自費で「飲酒の罪で刑務所入っている」との実名記事の掲載。
マレーシア・・・運転者はもちろん結婚していた場合は妻も刑務所入り。
ブルガリア・・・飲酒運転で2度逮捕されたら極刑。
エルサルバドル・・・銃殺刑。
内容はほぼ同じ。
日付は2006年2月。10年近く前の話になる。
さらに前のソースはないかと調べたところ、非常に頭の痛くなる事態が発生した。
「第153回国会 法務委員会 第8号(平成13年11月6日(火曜日))」 『衆議院』
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000415320011106008.htm
国会の議事録である。
この中にこんな会話が議事録として残っている。
○吉野委員 十一月一日の産経新聞の朝刊にこんな記事が載っかっておりました。「以前、カリフォルニア州で酒気帯び運転で捕まり、弁護士費用などで一万ドル近い出費を強いられた友人の話を書いたが、彼が“更生”のため出席した講習会のテキストに掲載されていた各国の飲酒運転に対する罰則を幾つか紹介したい。」これは、アメリカの講習でのテキストの中身だと思います。「トルコでは三十二キロ離れた郊外に連行され、徒歩で町まで帰らされる。オーストラリアでは地方新聞に自費で、飲酒で刑務所に入っているとの実名記事を載せなければならない。マレーシアでは、運転者はもちろん、結婚していた場合は妻も刑務所入りとなる。ブルガリアでは飲酒運転で二度逮捕されると極刑。」極刑と書いてあります。死刑です。「エルサルバドルでも銃殺刑とあった。」云々、こういう記事が書いてあります。
これは外国の講習会のテキストの中身ですから、真偽のほどはわかりませんけれども、外国でどのような刑罰があるのか、お聞かせ願いたいと思います。
平成13年、2001年11月1日の産経新聞朝刊にそういう記事があったという発言がある。
縮刷版(産経新聞はマイクロフィルム)を大きめの図書館で調べればどんな記事だったのかもわかると思うが、現時点ではここまでしか判明していない。
実際にそういう記事が掲載されているんだとしたらもう「アメリカの講習会のテキスト」が狂ってるとしか思えない。
じゃあ調べますか。何を?
そのテキストですよ。
英語で調べたところ、全く同じ内容の話が見つかった。
「Drinking and Driving: The Laws in Other Countries」 |2007年03月16日 『Blogcritics』
http://blogcritics.org/drinking-and-driving-the-laws-in/
In some countries, drinking and driving is punishable by death. A first time offense in El Salvador leads to execution by firing squad, while a second offense in Bulgaria also leads to execution.
トルコの32キロ歩かされるという話やマレーシアの配偶者も投獄という話も書かれている。
Some countries are more creative in their attempts to keep the inebriated off the road. Turkey, for example, punishes drunk drivers by taking them 20 miles from their town and making them walk back with a police escort. In Poland, drunk drivers are subject to jail, fine, and even worse, mandatory attendance at political lectures. In Malaya, if a man is caught driving drunk he is jailed. If he is married, his wife is jailed, too. In Costa Rica, the license plates are removed immediately from the cars of those who drink and drive.
これは2007年の記事だが、少なくともアメリカにも同じような話があるということは判明した。
では最初に言い出したのは誰なのか。
もっと古い文献が出てきた。
「DUI Penalties Elsewhere」 『Rick’s World』
http://webpages.charter.net/ricknet/duilaws.htm
箇条書きになっているのでわかりやすいが内容が最初に出てきた画像に書かれているものと完全一致。
これを書いた人物は誰か。
トップページに自己紹介がある。
『Rick’s World』
http://webpages.charter.net/ricknet/
I am a Police Sergeant with The Lanett Police Dept. in Lanett Alabama.
アラバマ州ラネット警察署の巡査部長らしい。
Googleでは2001年という日付が出ているが、もう少し正確な日付が必要だったのでwebarchiveで調べてみた。
その最古のアーカイブがこちら。
「Welcome to the US Petabox」 『Internet Archve Wayback Machine』
http://web.archive.org/web/19991006003503/http
日付は1999年10月6日。
ではもう少し調べてみよう。
「A second conviction results in execution」という文章で1999年以前の文献を検索したら引っかかった。1件。
「Standard-Speaker from Hazleton, Pennsylvania ・ Page 8」 1996年05月11日 『Newspapers』
http://www.newspapers.com/newspage/59578196/
1996年5月11日の新聞に記載されていることが判明。
Information taken from “The Responsible Parent” Pennsylvania Liquor Control Board.
とあるのでペンシルベニア州酒類管理委員会の「The Responsible Parent」という名前の何かからの情報らしい。
同名の書籍があるのでこれのことだと思う。
「The Responsible Parent: Talking to Your Kids about Alcohol」 Pennsylvania. Liquor Control Board 『Google ブックス』
http://books.google.co.jp/books/about/The_Responsible_Parent.html?id=lrtWnQEACAAJ&redir_esc=y
さすがにこれ以上のことは不明なのでとりあえず「アメリカでは少なくとも20年近く前からこういったデマが流れている」ということが判明したということで。
で。
「Drunk Driving and Related Vehicular Offenses」 Robert S. Reiff 『Google ブックス』
https://books.google.co.jp/books?id=BsBoOZdBsu8C&pg=PT1206&lpg#v=onepage&q&f=false
「Drunk Driving and Related Vehicular Offenses」という2013年に発行された書籍にも相変わらず掲載されているのです。
ブルガリアとかエルサルバドルは抗議した方がいいんじゃないですかね。
おしまい。
追記
38 @jizou
多分もっと昔からあるデマなんだと思うけどもしかしたら死刑廃止する前には銃殺刑だった可能性がなくもないのでブルガリアの人に調べてもらったほうが良さそう
2015年1月7日
https://twitter.com/jizou/status/552715471284211712
以上ご留意ください。
あとトルコの飲酒運転、現在の罰則は日本と同じ罰金と免停です。
「Turkish Driving Laws & Fines ? Do you know them?」 2008年09月12日 『Fethiye Times』
http://www.fethiyetimes.com/expat-zone/cars-a-transport/5394-turkish-driving-laws-do-you-know-them.html
さらに追記
コメント欄とブコメで更に詳しい情報が。
id:cider_kondo
グーグルブック検索で英語の文言で検索しました。
確認できる最古は1985年刊行のWisconsin Medical Journal, 第 84 巻、第 1~6 号でした。
スニペット表示ですが、検索ワードを切り替えチェックする限り、何らかの医学論文(おそらくは飲酒運転の害に関する内容)の末尾にサイドバーコラム的に掲載されているようです。この時点で
最後の行で検索すると脚注というか出典も拾えました。
「The Impaired Physician Program Newsletter of the Medial Society of New Jersey, November 1984」
とあり、この時点では医学方面の話だったようです。
その後の検索結果を見ると、1986~87年ぐらいに警察・法律方面で一気に広まったように見えます。出典なしで掲載されているケースもこの時期にでてきており、このぐらいの時点でソースロンダリングに成功して「なんかそうらしい」と思い込ませることに成功しているようです。
koinobori 「Criminal Code」 『Supreme Court of Cassation of the Republic of Bulgaria』http://www.vks.bg/english/vksen_p04_04.htm あった!ブルガリア刑法343条b(82年新設、95年改正)、アルコール血中濃度が0.12%を越える状態であるのに、自動車を運転した者は、1年以下の自由剥奪刑に処する。死刑廃止以前も銃殺なし。
さらにブルガリアで執行された最後の死刑は、1989年11月の銃殺刑という話もある。
「The end of capital punishment in Europe.」 『Internet Archve Wayback Machine』
http://web.archive.org/web/20050324105012/http://www.geocities.com/[email protected]/europe.html
Bulgaria.
The last execution for murder was carried out by firing squad on the 4th of November 1989. Capital punishment was totally abolished on the 12th of December 1998.
出典がわからないので真偽の程は不明。
ブルガリアの共産党政権が崩壊したのがほぼ同時期なのでその絡みかもしれない。
ということで現時点での話を総合すると「1989年11月5日以降に飲酒運転による銃殺刑は行われていない」ということになる。
逆に言うと「1989年11月4日以前には飲酒運転による銃殺刑が行われていた可能性がある」という面倒くさい話に。
「Carolina Highways, 第 35~38 巻」 『Google ブックス』
https://books.google.co.jp/books?id=PO07AAAAMAAJ&q=Bulgaria+drunk+drive
1980年の「Carolina Highways」という書籍が今のところ最古。
文頭に「National Guard publication」とあるのでサウスカロライナ州の州軍が発行したリポートに掲載されていたものらしい。
これ以上は見つからず。
ぶっちゃけもうわかんねえよ。
なんだよ州軍って。国家絡みか。
とりあえず今流れてる情報は間違い。
でも最初に情報が出た時は間違いではなかった可能性がある。
デマとなっている期間はすでに25年。
今のところ確実に言えるのはそれくらいです。
もうブルガリアの法学者に聞いたほうがいいレベルなのでは。
あとアメリカのなんかそういう話に詳しい学者。
執筆: この記事はkyoumoeさんのブログ『今日も得る物なしZ』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2015年01月15日時点のものです。
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