「ふるさと弁当」が農家を救う!? 岩盤規制打破の重要産業「農業」に未来はあるのか?

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農業改革派である農業生産法人新鮮組・代表取締役 岡本重明氏を直撃インタビュー!
インタビュアー/原英史(政策工房代表取締役社長・国家戦略特区WG委員)

農協の理念は素晴らしかった! 何が農協を狂わせたのか?

 農業改革派の代表的なお一人である新鮮組の岡本さんと農業改革についてお話したいと思います。
7月に出版した『日本人を縛りつける役人の掟』(小学館)で1章を割いて農業規制について、ベンチャーで農業をやろうとするとさまざまな障害があると書きました。例えば出資者について、過半数は伝統的な農家が株を持っていなければいけないとか、取締役の過半数は農作業をやらなければならないとかあり、一般的な企業が農業に参入できない状況です。また、一般的な業界においては新規に参入するときに、将来上場を目指すことも視野に入れている場合もあるわけですが、農業生産法人については上場できません。このようなお話を本書でも岡本さんのコメントに触れながら書かせていただきました。
このような新規参入が難しい、農協を中心とした農業ですが、改めてお聞きしますが、具体的にどこが駄目だったのですか?

岡本 まず、農協ができた当時は、素晴らしい組織だったと思うんですよ。農地解放があり、小作農だった人たちが自分の農地を持って作物をつくり始めるわけですが、当時は貧しく個々人だけで弱いから、協同で肥料を購入したり、交渉したり、販売したりしてきたんですね。また、職がなかった村民に対して雇用の促進を図るといった時代は、農協は健全な組織だったと思います。
それが、県の組織ができ、国の組織ができていくという上部組織ができた段階から、末端部である個人の農家の利益などはまったく考えていない組織になってしまった。すべて、組織のために行動してくれということしかないんですよ。
それに逆らってしまうと、農家はほとんど農協に属していますからみんなから疎外を受けてしまう。
元々の農協の理念はよかったが、組織の利益のためという考えに変わってきた段階でおかしくなってしまった。
したがって、規制は、組織を守るための規制なんですよ。だから単純に農業で利益を出すのにどうすればいいのかということ、例えば、農家が自分でつくったものを加工して販売しようとしたとしましょう。土地はいっぱいある。その中で道路に面していて、面積が狭く、農業生産に適さない土地だった場合、地目が農地であればその土地に販売所をつくろうと思っても、転用手続きに時間がかかります。
このように、農業を守るという大義名分で、個人個人の農家が農地を活用しにくかったということがあります。
この部分をはじめとして、国家戦略特区では農業委員会の権限を外し、市が農業事業について認可をしていくという体制になっています。
農業に関して、農地に関する規制、土地の活用部分が一番重い規制だと思います。
農家は、原料生産、つまりものをつくるのは得意なんです。しかし、ものを加工して販売するという面においてはノウハウがない。だから、加工と販売を得意とする企業が農業事業に新規参入して、リーダーとして地域の活性化をひっぱっていこうとしても、先程述べたようにさまざまな規制があり、規制にがんじからめに固められて、新しい発想の農業ができない。つまり新規参入が難しい。
結局規制は、農業に君臨する農協という組織が、何もしなくても農家から入ってくる上納金を守るための規制というように僕は捉えています。

農水省が言う「農地法は農業を守る」は詭弁!のワケ

 なるほど。やっているうちに最初の理念から外れて行って、わけがわかならくなってしまう例はたくさんありますが、その最たる例が農業ということですね。
通常、産業界に新しい人たちがどんどん入ってくることは、ビジネスにおいて基本ですよね。新しい人たちが、新しい知恵やアイデアを持って参入して競争するからその分野が発展していくわけですからね。これまでの農業は、さまざまな規制があって、参入しようとすると、みんなと同じように農協の言う通りにやることしかできなかった。

岡本 また、農水省の方は、農地法は農業という業界を守るために存在するといつも言うのです。企業が参入してくると農地の転用を行い、地域の農業・農地を健全に守れなくなるから、としきりに言うのです。「詭弁を言うな!」という話です。
例えば、公共事業において区画整備で道路をつくろうとしたとき、土地の所有者である農家は「先祖代々守ってきた農地だから売りたくはない」と口では言いますが、「町や市、国が言ってきたから仕方ない」という大義名分がつくことで高く農地を売ることが自分の力であるかのうような錯覚している部分がある。そして道路が通るとどうなるか?
具体的にはっきり言いましょう。ウルグアイ・ラウンド(世界貿易上の障壁をなくし、貿易の自由化や多角的貿易を促進するために行なわれた通商交渉。細川内閣は事業費6兆100億円、国費2兆6700億円のウルグアイ・ラウンド農業合意関連国内対策事業費を予算執行した。予算の5割強は土地改良事業などの農業農村整備事業に用いられた〈ウィキペディアより〉)に合意したときの国の政策というのは、大規模な区画整理をし、海外に対応できる産地づくりをおこなうということで、愛知県豊田市に補助整備を行ったんです。
その後、どうなったかというと、すべて車の運送会社や部品工場になってしまい、車のための物流拠点となってしまったんです。農地が農地ではなくなってしまった。
もちろん、農業委員会が転用を認めるといった適正な措置は行っています。がしかし、農水省が「農地を守るための農地法」というのは、この例を見れば明らかなように詭弁で、現実に行われていることと大義名分の大きな違いなんです。
僕が思うのは、農業を活性化するための活用を認めればいいだけなんです。農地には青地、白地という専門用語があります。青地というのは農業以外何もしてはいけないという土地です。農家が倉庫を建てるのも厳しい。その厳しい規制がある青地は青地のままで、農業生産を高め、農業で利益を出すことを前提に、生産者の権利として、そこに加工所や販売所をつくることを認めてくれればいいだけのことなんです。そうすることで「車の部品や電気部品の加工工場は認めません」、そして農水省が本来言ってきている「農業を守るため」という言葉の恰好はつくわけです。
つまり、転用を行わないことで農地を農地のまま活用するということです。これが一番シンプルだと思うんです。
このように、一つ一つの事例があって、初めて見えてくる規制というのがあるんです。

 なるほど。

岡本 例えば、今問屋にお米を卸したところで60キロで1万5000円という事実があり、採算が合わない。そこでコンビニの横に農地があり、その土地に販売所を設けておにぎりを一個50円で販売したいとしましょう。そうすると50円で売った場合、60キロのお米が7万5000円になるんです。
確かに事業ですから、失敗するかもしれません。しかし、農業で利益を出すためにチャレンジしてみようという意欲があったとしても、現状では認めてはくれません。

国家戦略特区で日本食を輸出する!

 農水省のこれまでの農地法の運用はうまくいっていなかった、ということが前提ですね。せっかく整備した農地が農業とはまったく関係ないものにすぐ転用されたり、耕作放棄が増加している状況です。農地法を守らなければ農業を守れない、耕作放棄が進むなどといったことではないはずです。
そういう観点からも、今春スタートした国家戦略特区というのは、これからの農業政策を変えていく、新しい仕組みに改めていくという大きなチャンスですね。

岡本 この経済特区の目的は何かということです。
農業をはじめとした第一次産業に携わる人たちは全国に散らばっているんです。一方、企業が地方で産業を興そうとしても無理な現状がある。地方では利益が出ないから地域の過疎が進み、荒廃していく。このような状況の中で、この経済特区という規制が緩和され、なくなった地域の人たち自身が、名もないおばあちゃんがつくったじゃがいもを海外に持って行くというコンセプトを基にした「日本食の輸出」という事業モデルを簡単に構築していくことができるんです。これがなぜ大事かというと、偉そうなことを言いますが、第一次産業が潤わなければ国の永続的な発展は難しいと思っているんです。車でもなんでも、流行があり、技術革新があるという中で、輸出して外貨を獲得するというときに、今後新興国の発展が見込まれるという状況において、日本の優位性がもてるものは「日本食」しかないと思うんです。日本食の文化というのは、日本にしかできないオンリー・ワンなんです。
このオンリー・ワンである日本食を、いかに安価で海外で販売できるかというと、100円でおにぎりを売ったならば60キロのお米は1400個できるので14万円になるんです。一方で、先ほど言ったように私たち農家は1万円でもお米を作り続けることができる。
例えば現地価格を100円とすると末端価格は30円です。冷蔵や輸送などの中間マージンを考えてみても、充分に採算が合うと思うんです。この時、農家に支払う金額は2~3万円程度ですので、今よりも利益を充分に上げることができるんです。
おにぎりの延長上に、僕がこれまで提案してきた「ふるさと弁当」構想があります。地域ごとの産品や調理法を活かして、地域それぞれの「ふるさと弁当」を作れば、世界に供給していくことができます。
だから僕が特区の中でやりたいことは、生産現場と加工現場と販売現場が一体化した会社をやりたいんです。そこで生産者である農家が2万円で充分採算がとれ、潤う体制を構築することで、農家のマインドを高めることができると思います。
これを日本全国、どの地域からでも食を世界に供給できるという、第一次産業の輸出国に変わるという確信を僕はもっているんですよ。その先鞭をつけるのが経済特区の目的ではないでしょうか。

漁業にもある理不尽な岩盤規制

 第一次産業、第二次産業、第三次産業を一体化していくことはポイントで、農水省も「六次産業化」と口では言っているんですが、例えば農地で農家レストランを作ろうとしてもつくれない。制度として排除していたわけです。
このような部分も国家戦略特区では特例をつくって突破していきましょうということです。
また、第一産業でいうと漁業もあります。『日本人を縛りつける役人の掟』でも触れているのですが、農業以上に岩盤規制がありますよね?

岡本 漁業を生活の糧としている人は、乱獲規制などで守るべき人たちだと思うんです。しかし、その人たちはごく一部なんです。漁業組合員であり、漁業権を持っている人でも権利だけ主張する人がいて、実は漁業の収入はゼロという人が山ほどいるんですよ。
そのような人たちに対して何をやっているかというと、例えばアサリを海にまいてくれれば補助金出しますよとか、港を整備してレジャーボートの碇泊料が入りますよ、などをやっているのが漁業組合です。
また、某所で空港をつくろうとしたときに、実際に漁業で生活をやっている人たちに対して保証金が出ることは、僕は納得したんです。しかし、漁業での収入がゼロの人たちにまで一律で配当されるのはどうかと思う。
もう一つ、ものすごく海が好きで、自分で食べる分、または近所に配る分ぐらいを釣るという人はいます。でも、海に網を入れたり、タコを捕るためのツボを入れると違法になるんです、たとえ自分が食べる分だけでもです。
当然漁師たちのエリアというのは決まっていて、それ以外の場所で釣るわけですが、そこで取れる魚というのは、その地域最高の食材であって、地元民も求めているわけです。それを獲ることも、売ることも許されてはいない。
僕が言いたいのは、漁業で生活しているのか否かという所得の面から規制を見直して欲しいということを強く言いたいですね。
一生懸命やっている漁業組合はいっぱいあります。しかし、ただ漁業組員になって漁業をやらず、港での権利ばかり主張し、保証金などをもらおうとする組合も全国にあるんですよ。
こういったところを整理して、規制の見直しを行えば、兼業漁師というスタイルができて新しい可能性が生まれるのではないかと思うんです。

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原英史

株式会社政策工房代表取締役、特定非営利活動法人「万年野党」理事。

ウェブサイト: http://yatoojp.com/

TwitterID: HaraEiji

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