「終身刑」創設の意義と懸念点

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「終身刑」創設の意義と懸念点

「重無期刑」を創設する法案、来年の通常国会に提出へ

亀井静香元金融担当相を会長とする超党派の「死刑廃止を推進する議員連盟」が、終身刑に当たる「重無期刑」を創設する法案を来年の通常国会に提出する方向で調整していると報じられています。法案の骨子は、死刑と現行の無期刑の間の刑として、仮釈放を認めない重無期刑を創設し、死刑判決は裁判官と裁判員の全員一致の場合に限定することということです。

この会の究極の目的は、会の名前にもあるように「死刑廃止」のようですが、いきなり死刑廃止に持っていくのは難しいので、重無期刑を一里塚として、廃止の流れを作っていくというのが狙いだそうです。

無期懲役は、最短で10年経過すれば仮釈放?

ここで、法律の説明をしますが、無期懲役は、「無期」つまり刑の満期がないので、基本的には死ぬまで懲役を受けなければならないという刑です。ただし、刑法28条に「懲役又は禁錮に処せられた者に改悛の状があるときは、有期刑についてはその刑期の3分の1を、無期刑については10年を経過した後、行政官庁の処分によって仮に釈放することができる」とあるので、理論上は最短で10年経過すれば仮釈放で出獄することが可能です。光市母子殺人事件の被告人が友人に「無期はほぼキマリ、7年そこそこに地上に芽を出す」という内容の手紙を送って、遺族の被害感情に火をつけてしまったということがありましたが、これは被告人のとんでもない勘違いです。

重罪の被害に遭われた被害者の関係者も、この「10年で仮釈放可能」という法律の条文を知ると、「無期懲役では軽すぎるので死刑を望む」という考えになってしまいがちだと思うのですが、実際の運用を知れば、無期刑に対する不満はそこまで大きくはないかもしれません。すなわち、実際の運用では、ここ数年で仮釈放された無期刑受刑者の平均服役期間は30年を超えていますし、その仮釈放を受けられた受刑者の割合は毎年、全無期刑受刑者のうち0.5%にも満たない数なので、ほとんどの無期受刑者は刑務所で死を迎えるのです。つまり、無期懲役の受刑者が仮釈放で出獄する可能性はそれほど大きくないということです。

そういう現状を踏まえると、実態として終身刑化しているのだからこのような法改正は不要という意見があるかもしれませんが、「重無期刑」という刑罰を設けることで、「無期刑でも短い刑期で仮釈放されるかもしれない」といった誤解を生むことはなくなるので、このような刑罰を設けることには賛成できます。

世界は死刑廃止へ。国家としての大局的な刑事政策に委ねられる

ただ、このような刑罰を設けることで、死刑との限界事案では死刑を回避する流れになるのではないかという気もします。そうなると、親族が重大犯罪によって殺された場合などに、犯人に対して極刑を望むという被害感情に対してどのようにケアするかという問題が生じます。しかし、世界の情勢は死刑廃止の流れにあります。過去10年間に死刑を執行したことのある国は世界の3分の1程度で、ヨーロッパのほとんどの国は死刑を廃止しています。アメリカも国としては死刑制度が存続していますが、18の州では死刑が廃止されています。先進国といわれる国では、日本、アメリカを含むごくわずかな国しか死刑制度を存続させていないのです。

加害者を殺したところで殺された被害者が生き返るわけではありませんから、死刑によっても遺族の気持ちを完全に満足させることはできません。一方で、死刑は国家による殺人です。犯罪者であっても社会に貢献することのできる能力を持っている可能性もありますが、死刑によってそれも奪われてしまうのです。

結局、この問題の結論は、遺族の個人的な感情よりも国家としての大局的な刑事政策に委ねられることになるのでしょう。

(舛田 雅彦/弁護士)

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