傷つける性として生まれた罪を知れ

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どうでもいいことかもしれない

今回はParis713さんのブログ『どうでもいいことかもしれない』からご寄稿いただきました。

傷つける性として生まれた罪を知れ
性的客体してだけ扱われる(いわゆるモノとして扱われる)”という事の恐怖感というか、嫌悪感のような話は、かなり前から繰り返されて来た事で、いまさらそう珍しい話でもないのだけれど、最近また盛り上がりを見せている。

何度目だよ」と言いたくなるような話ではあるが、何度も言わないと解らないバカがいるからだ(何度言っても解らないのは、伝え方が悪かったり、言う相手が間違っている可能性はないのだろうか?と疑問に思わなくもないが)という事なのだろう。 ただ、何度も繰り返される中で、男性にも抑圧はあると考えている私は、こうした言説が男性をさらに追い込んでしまう事はないのだろうか?と思ってしまうのである。

私も女なので、そういう恐怖も嫌悪感も解らない訳ではない。セックスのリスクが女の方が高いというのは“事実”であるし、セクハラだって不快である。私の場合は(アセクシャル *1 なのでセックスのリスクは置いといて)不快な言動をした人に対して「不快だ」と言ってしまうし、犯罪レベルの問題であれば犯罪として処理してしまうタイプの人間なのであまり深く考えないが(まあ、あまりそういう類いのバカに遭遇した事がないから言えるのかもしれないが)、こうした事を大変重く受け取ってしまう女性もたくさんいるのである。 中には“女になんて生まれたくなかった”と思う人もいるだろう(私は思った事がないが)。

こうした女性達の意見は全く持って“正論”であり、男性としては黙って受け入れる他はない。セクハラは“相手がセクハラだと感じたらセクハラ” *2 なので、反論の余地などないのだ。

*1:無性愛(むせいあい)、他者に対して恒常的に恋愛感情や性的欲求を抱かないこと。
「無性愛」 フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より
http://ja.wikipedia.org/wiki/無性愛
*2:「セクハラQ&A」『日本フェミニストカウンセリング学会』参照
http://nfc505.com/modules/contents/index.php?content_id=10:title=

女性から男性に対してのセクハラだってあるが、男性がそれを訴えられる土壌というものがあまりないので、世間的には(ネットでは多少そうした事に対する言及があるが、いわゆるTVなどで取り上げられたりするような市民権はまだ得ていない)“男は加害者、女性は被害者”なのである。こうした問題では、とにかく男性は分が悪い。

とにかく女性がこうした恐怖感や嫌悪感を抱かないように注意深く相手を尊重して振る舞わなければならないのである。でも、どうやって?

それは非常に難しい。だって、受け取り方も許容範囲も人それぞれだからだ。「女をモノ扱いするのは男の仕様、あるいは男の性の脆弱(ぜいじゃく)性と所有欲について」 *3 のohnosakiko氏のように深く分析し、冷静に対応してくれる人も居るが、そのようには考えられない女性は多い(と思う)。中には「それは最早ミサンドリー(男性嫌悪)ではないか?」と思われる受け取り方をする人もいる。

*3:「女をモノ扱いするのは男の仕様、あるいは男の性の脆弱性と所有欲について」 『Ohnoblog 2』
http://d.hatena.ne.jp/ohnosakiko/20100522/1274531264

例えば「脚が奇麗だね」という言葉を“セクハラ”と感じる人も居れば、それを“褒め言葉”と感じる人も居るのである(「手が奇麗だね」と言われてセクハラと感じる人は少ないかもしれないが脚は結構居ると思う。私は平気だが)。 また、同じ言葉であっても、その言い方で(あるいは雰囲気で)それを不快に感じたりする人は居るだろう。

しかし一方で褒めて欲しいという女性だって存在する。昔、知人が「日本人男性は褒めてくれないから嫌。今付き合っている彼はアメリカ人なんだけど、会う度に”今日の君は奇麗だね”とか”セクシーだね”って言ってくれるの」と言っていたが、そのように何時も褒めて欲しい、と思っている女性もいる。「それは、彼氏として承認されたからだよね?」という声もあるだろうが、彼氏や夫以外の男性からの“褒め言葉”の受け取り方だって人それぞれで、ポジティブに受け取る人は実際にいるし、欧米のように挨拶(あいさつ)代わりに女性を褒めるという文化が日本にないのはつまらない、と言っている人すらいる。 

まさに受け取り方は人それぞれで、女性だからと言ってひとくくりには出来ない。“これが正しい女性への接し方です”などというものは存在しないのである。

もういっその事、男性は女性を相手にしない方が良いのかもしれない。そんな事すら思うがそうはいかない。「最近の男性は女性に対して積極的じゃないからダメだ」という話はしょっちゅう出てくる。ずいぶん前に、私はこうした男性のダブルバインド *4 についての記事を書いた。 

*4:「イケメンは女性に優しい。(非モテにまつわる抑圧の話)」『どうでもいいことかもしれない』
http://d.hatena.ne.jp/Paris713/20061221/p1

書いたが、私はそこで男性が欲望する性として位置づけられ、しかしその欲望は暴力を含んでいるとされる、ダブルバインドの状況にあるという事を指摘するだけで、その対策については書けなかった。あれから度々考えているが、答えは出ない。正しい振る舞い方が自明ではない以上、どうしようもない。どんな振る舞い方をしても、“加害者”になる危険性からは逃れる事が出来ないのである。

「それは一般常識のない男性の問題なのだろう」という人もいるかもしれない。だから「自分には関係ない」という男性も。ところが、女性慣れして女性に優しい男性も無関係ではなさそうだ。著作をたくさん出しているような偉い人がこんな事 を言っているからである。

「僕なんか彼女を殴ったりできないよ」 『信田さよ子ブログ』
http://www.hcc-web.co.jp/blog/archives/000956.html

これはDVに関しての記事なのだが、筆者はここで「DV加害者や性犯罪者と一緒にしないで欲しい」と、加害者男性を極端な例として排除して考える男性の話をしている。そして最後はこのように結ばれる。

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このような排除する姿勢が、DVは男性の暴力だという意見に対する反発につながる。どこか、フェミニズムへの反発と共通してはいないだろうか。
本来の対抗すべき相手とは向き合わず(なぜなら排除してしまっているから)、被害者として加害者を批判する言説への反発にエネルギーを注ぐ。
この奇妙で、お角違いの敵意がネットやさまざまな場所で噴出している。
その根底にあるのは、自分もその一員である男性カテゴリーの中に、見たくない現実、認めがたい男性を引き受けられないという脆弱さではないか、と思う。
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「僕なんか彼女を殴ったりできないよ」 『信田さよ子ブログ』より引用

と言う訳で一部の男性の事だからと排除してはダメなようだ。もう男として生まれたからには全てダメとでも言われそうな勢いである。男性だって、男に生まれて来たくて生まれて来たという訳ではないのに。

今の社会では、男性であるというだけで背負わなければならないものはとてつもなく大きくなっていると私は思う。男性は相変わらずきちんと社会参加すること家族を養う為の経済力は求められている。バブル時代の様に高額を望む女性は少なくなったが、それでも専業主婦願望の強い女性は居るし、共働き前提としても出産育児中は男性に経済的に頼らざるを得ないため、ある程度の経済力は求められる事になる。 

女性が経済的には弱い立場に居て、出産や育児中の為には男性に頼らざるを得ない、という事は社会的な問題でもあるので仕方のない事ではある。だが、非難を覚悟でぶっちゃけて言うと、それも女性次第だと“個人的には”思っている。私の母はいわゆる未婚の母だ。彼女は紙切れ一枚で取り交わされる結婚という契約に意味を感じなかったが、子供は欲しかったので私を生んだのである。しかしこれは母が自分で店(オートクチュールのブティックであったが、従業員もそれなりにいた)を経営していて、男性の手を借りずに経済的な基盤を確立出来たからであり、レアケースである事は間違いないが、やってしまう女性はやってしまうのである(実際に母は何十年も前にやってしまった)。だからと言って全ての女性がそうすべきという話ではもちろんないし、そう出来る訳ではないのもわかっている。という訳で、女性が男性に(ある程度)経済力を求めるというのも、残念ながら今の社会では“正当性を持った要求”なのである。

このように現代の男性は従来どおりの社会的な責任を負わされているのだが、昔は男の特権として許されて来たような振る舞い(いわゆる亭主関白的な)は、今ではあまり歓迎されない。男女平等の世の中なのでそんな前時代的な男らしさは求められてはいないのだ。もはやそんなモノは抑圧されるべきものとして扱われている印象がある。女性をエスコートしたりというソフィスティケートされた振る舞いや、女性を守るというような男らしさは求められる事はあったりするが。ここでもいわゆるダブルバインドの問題は浮上する(というよりダブルスタンダードか?)。もう現代の社会では男性であるメリットなんてほとんどないのではないのか?そんな事さえ思ってしまうくらいである。

かつて男性が、女性を差別して追い込んでいたように、女性が(社会がと言い換えてもいいかもしれないが)男性を追い込んでいっているという事は全くないのだろうか?と私は考える。もちろん、そんな事はしていないと思う女性もいるだろう。それはそれで構わない。

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私は決して全男性を責めてなどいない。極論すればDV男性すら責めてはいない。責めることの無意味さと不毛な対立はよく知っているからだ。
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「僕なんか彼女を殴ったりできないよ」 『信田さよ子ブログ』より引用

と信田氏も書いているし(責められている、と受け取ってしまう人はいるだろうと思うし、私もそう受け取ったが)、“モノとして扱われる”という事に恐怖感を抱く女性も男性を責めてはいないのだろう(たぶん)。

しかし、先の信田氏の記事を読んだ私は思うのである。
それを責められているととらえてしまい男性として生まれて来た事に罪悪感を抱いてしまう人がいるのではないか?という事を。そのように“私が”だれかを追い込んでしまう可能性を。

書いたのは私ではない。私ではないが切り離してはいけないという信田氏の主張を自分に置き換えればこうなるのである(信田氏の記事に賛同は出来ないが、ある意味重要な視点を含むと考えているので)。

あくまで個人的な考えではあるが、私はどこかで“人間は生まれて来た事自体が罪である”と感じている。だからと言って全世界に頭を下げて生きていかなければならない、とは思わないけれど最低限引き受けなければいけない事もあるのではないか?と思っている。

傷つける性”として生まれながらに罪人の烙印(らくいん)を押される事におびえる人を脆弱などと切り離すのならば、そう追い込む可能性がある自分というものだって引き受ける事も必要なはずだ。 

しかし問題はそう引き受けたところで、一体どうするのか?という所である(信田氏も答えてくれていないし)。私は信田氏の記事のメタブックマークにこう書いた。

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私自身が産まれて来た事自体が罪であると自覚は出来るけれど、他者に対して「お前は罪人だ」と言いたくはない。いい人ぶるつもりはないけど。補足/実際に罪を犯してない人に対しては言いたくない。
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はてなブックマーク – 「僕なんか彼女を殴ったりできないよ」より
http://b.hatena.ne.jp/entry/b.hatena.ne.jp/entry/www.hcc-web.co.jp/blog/archives/000956.html

まずはこの“感覚”を少しずつ掘り下げてゆく事から始めるしかないかもしれない。それは傷つける性として生まれた私 *5 の罪滅ぼしになるのだろうか?

*5:「前回の補足」 『どうでもいいことかもしれない』参照
http://d.hatena.ne.jp/Paris713/20061229/p1

追記
このように考えるのは、私が女ではあるものの“アセクシャル”というヘテロ女性とはまた違ったセクシャリティを持つからかもしれない。私は“女に生まれて良かった”とは思うが“女になんて生まれたくなかった”とは一度も思った事がない。同様にアセクシャルというセクシャリティについても、何の葛藤(かっとう)もなく肯定的に受け入れている。ただ、今の恋愛至上主義の世の中で恋愛で結ばれる事に承認を見出す人が多く存在する。そうした承認を得たいと考える人から見れば、私のセクシャリティは如何なる人とも恋愛関係を結ばないという形で承認を拒絶するという暴力を内包した“傷つける性”であると言えるのだ。 

だからと言って自分のセクシャリティを否定したり卑下したりするつもりはない。願う事なら、男性も女性も自らの性やセクシャリティやジェンダーを否定したり卑下しなくても済むような社会であって欲しいと思う。

執筆: この記事はParis713さんのブログ『どうでもいいことかもしれない』からご寄稿いただきました。

文責: ガジェット通信

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