寸評 「脱法ハーブ」と日本社会 名前は誰が付けたの?(中部大学教授 武田邦彦)

寸評 「脱法ハーブ」と日本社会 名前は誰が付けたの?(中部大学教授 武田邦彦)

今回は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。

寸評 「脱法ハーブ」と日本社会 名前は誰が付けたの?(中部大学教授 武田邦彦)

日本で「脱法ハーブ」といわれているのは英語で「合成カンナビス」というもので、イギリスでは正しく化合物名で呼ばれている。日本の「脱法ハーブ」という名前はアウトローの人(販売側)が、あたかも「違法」ではないように、また「ハーブ」という語感から、日本社会が受け入れやすいようにつけた名前だ。

法治国家なのに悪事を働く人が都合が良いという事でつけた名前を、政府も有識者もマスコミもそのまま使うからだ。その典型的なものが「放射線の防護服」で、マスコミが使っている「防護服」は「放射線を防護しない」。良く平気で使うと感心してしまう。

「防護しない服」を「防護服」と呼ぶのは、事故を起こした犯人である東電がそう呼んでいるからというだけで、その他の理由はない。正しい日本語を使うなら、「うわっぱり」だ。ホコリが服につくのを防ぐことができるが、放射線は防護しない。

いわゆる痲薬は20世紀に入るまで、専ら生物から得られた。ケシからアヘンなどがそうだが、植物の中に含まれている微量の薬剤を何とか濃度を高めて使うという方法だったが、20世紀の後半になって化学的に純粋の痲薬成分を作ることができるようになった。それでも、まだ痲薬というと植物をイメージする人が多い。

一方、人工的に合成される薬剤は人体に有害なものがほとんどである。トイレの掃除につかう塩酸、漂白に使う次亜塩素酸ソーダ、シロアリ駆除のヒ素化合物、溶剤としてのシンナーなど、「食べたり飲んだりしてはいけないもの」はこの世に無限にある。

人間の精神が正常なら、自分の健康に害になる物をわざわざ摂取したりしない。だから、「人間が口に入れたり、肌につけたり、お風呂で使ったりするもの」については、それぞれ薬事法、食品安全の規則、その他の法令によってさまざまな規制がかけられている。

薬品ばかりではなく、何かを入れる容器でも食品や飲料を入れる容器と、その他の一般容器とは使用できる材料も違う。そんなことは当たり前だ。

でも、「合成カンナビス」の場合は、「健康に害になるが、害になりたくて吸う人」という特殊な場合である。普通は逆で、害になると言えば決して手を出さない。むしろ、「害になる物ならハッキリ書け!」と怒られるのが普通だ。だから普通には問題は無い。ところが「好んで自分の体に害のあるものを摂取したい」という人がいるからややこしい。

これもすでに合成痲薬や有害な合成薬剤が多いのだから、「摂取にふさわしくないものを、故意に摂取して自分を害したり、他人を害する罪」の概念を構築して、社会の安定を図る必要がある。その点で、法律もまた科学の進歩(100年前から)についていかず、その分を国民が右往左往しているように見える。

脱法ハーブの問題は第一に合成化学物質の社会的システムがととのっていないこと、第二に、政府、専門家、マスコミの用語の使い方、新しい物質などが出てきたことによって社会が混乱しないように法令などを予備的に検討する法学分野が遅れているように感じられる。その被害者が突然の車の暴走で死んだり、辛い思いをする人たちと思う。指導層の奮起を望みたい。

執筆: この記事は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2014年07月10日時点のものです。

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