大ヒット中の『超高速!参勤交代』本木監督インタビュー「“喜劇は日本で評価されない”と言われた」
このミッション、インポッシブルです! お上から「5日以内に江戸へ参勤せよ」と無理難題を強いられた弱小貧乏藩が工夫を凝らして“超高速”な参勤交代をする時代劇コメディ『超高速!参勤交代』。公開週の2日間で興行収入は2億90万円、入場者数16万人を記録する大ヒットとなっています。
本作は「のぼうの城」を輩出した脚本賞として注目を集める城戸賞。その第37回城戸賞にて、傑出したエンターテインメントと評され最高得点で“入選”を果たした脚本の待望の映画化。
佐々木蔵之介さん、深田恭子さん、伊原剛志さん、寺脇康文さん、上地雄輔さん、知念侑李さん(Hey!Say!!JUMP)、柄本時生さん、六角精児さん、市川猿之助ら個性派な面々が集結しています。
メガホンを取ったのは『ゲゲゲの鬼太郎』『鴨川ホルモー』などコメディ映画の名手、本木克英監督。今回は本木監督に映画へのこだわりから撮影の裏話までお話を伺ってきました。
――『超高速!参勤交代』は城戸賞で入選した脚本を映画化した作品ですが、最初に脚本を読んだ時の感想を教えていただけますか?
本木:僕は新人脚本家を発掘する城戸賞の最終審査員の一人でした。時代劇でありながら現代に通じるストーリーで、リズムも良くて。「すぐに映像化出来るレベルだ」と審査員としてコメントしたのですが、松竹が映像化権を獲得して、僕が監督する事になったと。城戸賞は「入選作は映画化する」という触れ込みなのに、『のぼうの城』(受賞時「忍の城」)以降果たされていなかったので、そろそろ実践するべきだと思っていました。
――審査員として自分が面白いと思った作品を映画化するにあたり、工夫した部分や改変した箇所はありますか?
本木:僕は95点をつけたのですが、減点したのは、作者が登場人物の一人、雲隠段蔵に入れ込み過ぎて、本題から逸れてしまった点です。「超高速!参勤交代」という素晴らしいタイトルから離れて「忍者モノ」になりつつあったのでそこを修正しました。他に、参勤交代から帰ってきたばかりという設定にしたり、我々の上の世代が楽しんでいた娯楽時代劇の醍醐味である立ち回りを増やしたり。川島雄三監督の『幕末太陽傳』のように、リアリティのある演出や疾走感を参考に。史実を無視した作品にはしたくなかったんですよね。とはいえ、時代劇というと若い世代の方は身構えてしまう事もあるので、“超高速”というコメディ要素は大切に。
――本当に俳優陣の真面目な顔しておかしな事をやっている様子が面白かったです。キャスティングはどの様にして決めたのでしょうか?
本木:プロデューサーと相談しながら決めました。登場人物が大マジメに行動しているさまが、客から見ると面白いという喜劇にしたかったので、俳優さんは全て実力派で。演技力最重要視。これだけの人数を描くとなると、一人一人細かく芝居をつけていくのは大変で、自発的に軌道修正出来る人を選べば私の仕事も楽になると(笑)。佐々木さんはテレビドラマなどを観ていてもメリハリのある演技をする方で、たたずまいも良いので、すんなり決まりました。
――佐々木さんが演じた藩主は、優しくて、皆の意見を聞いてくれて、まさに理想的なリーダーでした。
本木:理想の上司像ですよね。行動力があってみんなを引っ張っていくパワーやオーラだけでは無く、部下を信じ、弱みも大らかにさらけ出す。周りの皆が放っておけなくなる人間的な魅力を持っているリーダーですよね。
――監督の特に思い入れのあるキャラクターは誰ですか?
本木:深田恭子さん演じるお咲ですかね。毎日毎日男だらけの現場だったので、彼女が来るのが楽しみだったというのもあります(笑)。映画で言うところの「飯盛り女」って簡単にいうと宿場女郎なので、お姫様っぽい深田さんがどこまで「山猫」のようにになるかなっていうのが楽しみでもありました。後は西村雅彦さんがこちらの予想を常に乗り越えるお芝居をしてくださって、楽しかったです。「面白いだろう」と押し付けるお芝居では無くて、あくまでも真剣な演技が客観的に面白いということを求めました。
――監督はこれまでも多くのコメディ作品の監督を務められていますが、今日本って純粋なコメディ映画が少ないですよね。監督はもともとコメディがお好きだったのでしょうか?
本木:本当は社会派の映画監督になりたかったんですが、諸先輩方から「喜劇が一番難しい。喜劇が出来れば他はなんでも出来る」と聞いて挑戦しました。「でも、喜劇は日本では評価されないから賞は取れないけどね」とも言われ、その通りになっていますが(笑)。しかし、デビュー作「てなもんや商社」を劇場で観て、お客さんが笑ってくれることを体感し、アドレナリンが出るほどの喜びを覚えて、喜劇はいいなと。
――そこからコメディの魅力に目覚めたのですね。
本木:そうです。でも、映画って当たり外れがあるので、興行的にふるわなかった場合次の作品まで期間があいてしまうんですね。そんな時に、京都で時代劇のテレビドラマを監督できたことが、今思うと良かったです。あまりプロフィールには書かれないのですがテレビ時代劇は10年近く撮っているんですよ。
――コメディ+時代劇、まさに本作は監督にふさわしい作品であったわけですね。今、これを映画にしたいなとか、気になっている題材はありますか?
本木:自分が映画にしたいわけではありませんが、これは映画的だなぁと思うのは、佐村河内さんとか小保方さんの騒動かな。ああいうフェイクをみんなで徹底的に叩くのでは無くて、コメディとして見る視点と余裕が今の時代に必要なのかなとも思う。あれらの事件はもはや芸術の域です。人間って可笑しいな、弱いもんだなって思う見方です。そんな話をスタッフと飲みながらしています。世間話から映画や脚本の発想が生まれたりするんだよね。この話も、脚本家の土橋章宏さんが震災後の福島を友人と見に行って、エンストした軽自動車の中から生まれたので、社会派と構えずとも、時代の流れを汲み取ることはできるし、今後の作品でもそうありたい。
――そうですね。この映画も時代劇なのに自分の暮らしている社会に重ねてもおかしくない物語で。今の時代だからこそ観たい作品だなと感じました。
本木:今の国と地方の関係にも置き換えられるし、弱小貧乏藩を、自分が働いている会社だったり、学生なら所属している部活とかに置き換えて、弱小なら弱小なりに頑張ることもできると感じてもらえたら嬉しいですね。無茶な要求をしてくるお上を上司や先輩、親会社なんかを想起しながら観ると、佐々木蔵之介さん演じる藩主の痛快さもよりリアルに味わえるのでは無いかと思っています。
――今日はどうもありがとうございました!
『超高速!参勤交代』ストーリー
第8代将軍・徳川吉宗が天下を治める時代。磐城国のわずか1万5000石の弱小藩である湯長谷(ゆながや)藩は、湯長谷の金山を狙う幕府の老中・松平信祝から、通常なら8日間を要するところを、わずか4日間で参勤交代せよと命じられる。湯長谷藩主の内藤政醇は、知恵者の家老・相馬兼嗣とともに4日間での参勤交代を可能にする奇想天外な作戦を練り、実行に移すが、松平もそれを阻止せんと刺客を放っていた。
(C)2014「超高速!参勤交代」製作委員会
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