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殺人犯が「殺した人の家族」に損害賠償??(中部大学教授 武田邦彦)

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今回は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。

殺人犯が「殺した人の家族」に損害賠償??(中部大学教授 武田邦彦)

この世の中には奇妙なことがときどき起こるものだが、最近の裁判で驚天動地の判決があった。それは「殺人犯が、殺した人の家族を相手取り、「殺したことによる損害」の賠償請求をして、それを裁判所が認めて殺された家族に賠償金を支払うことを命じた」というものだ。

現代の日本でこれほど不合理な判決はないだろう。原因は「法整備が遅れている」と言うことに尽きるが、法整備の遅れを「悪」に有利にしたというものだ。

【直接的事実】

ある家庭に認知症の老人がいて、普段は家族が監視して外出しないように注意をしていたが、あるとき、その隙を突いて老人が外に出て徘徊していた。そして不幸にも電車の線路に入り込んでしかれてしんだ。鉄道会社(JR東海)は殺人を犯したことを遺族に深くわびるのかと思っていたら、老人の監視を怠ったということで列車が止まった損害を賠償しろという裁判を起こし、名古屋地裁は、「家族が監督を怠った」としてその家族に賠償を命じた。一審では91歳の妻と63歳の長男に監督不行届で720万円の賠償、二審で360万円に減額されている。夫が轢死した91歳の妻に賠償を求めるというのは人間の心を持っているのだろうか??

【背景となる事実】

1) 医療の進歩と、国の健康政策の結果、日本で徘徊老人が増えてきたのは、今から20年ほど前からである。
2) 人間にとって老人になるとある確率で認知症になり、判断力が失われることは知られている。
3) 日本の家族制度は夫婦が単位になっていて、独立した家計を営んでいる。65歳以上は老齢者。
4) 電車、自動車などの交通機関は、人を跳ねて殺す可能性があり、そのようなことが起こらないために施設を整備し、人を殺さないように万全を期さなければならない。
5) 判断力の無い小児、老人が跳ねられた場合には、運転手、運転手の管理者、施設の管理者が責任を負い、判断力の無いほうに責任はないというのが法律的にも社会常識でもある。
6)仮に夫婦の罪(この場合、罪があるとは思えないが)があるとしても、その他の家族に責任をかぶせるのは新しい家族の概念と違う。

かつて、アメリカで鉄道が普及し、線路を敷いた頃、また日本が明治以来、国を発展させるために鉄道を敷いたことは歴史的事実である。しかし、現代の社会では、たとえば新幹線の線路に容易に入れるようにしてあったり、判断力の低い幼児や老人がたやすく犠牲になるような施設は認められない。

すでに、徘徊老人が多いことは最近に始まったことではないので、JRは徘徊老人の事故を防ぐための施設を作る充分な時間があった。それにもかかわらず、老人をひき殺したのだから、殺人であることは間違いない。現代の日本の鉄道は「当然のように老人に犠牲者がでる」という施設のまま運転している特殊な輸送形態である。

一方、徘徊老人の問題を解決する第一の責任は家族ではなく、政府にある。もし現代の民法が家父長制など家族の全体的責任を求めているなら家族にも責任があるが、認知症の老人を家族で責任を持つというなら、財産制や兄弟の関係などすべてを変える必要がある。

あまり説明の必要が無いほど明らかなことだが、裁判所がJRの言い分を認めたのは、日本の裁判所が「組織は正しい」という前提に立っているからだ。これは今度のSTAP事件でマスコミが採ったスタンスで、理研は正しいということで、放送法第4条違反をくり返したのと同じである。

また、鉄道やその他の公共機関が損失するときには、その損失金額が膨大になることから、損害を与えた個人に不当な賠償を求めるのは社会正義に反する。むしろ、公共機関は個人のヘマで大きな損害を蒙らないように対策を立てておくか、それとも万一のために個人に損害賠償をしなくてすむように保険を掛けておくべきである。

今回の裁判は、1)本来、鉄道は柵などを設けて間違って個人が入り込むことができないようにする義務、2)万が一、事故が起こったときに損害を最小限ですむような運行体制、3)それでも防げない事故に対して個人に賠償を求めないように保険などの措置、が必要なのに、それをしないJRを「もっともな要求」として受け入れ、あろうことか「家族」に賠償を求めるというひどい判決をしたのである。

STAP事件にあれほど反応した日本社会が、このような悲惨な人たちに何の関心も示さないというのはまさに異常であると私は感じる。肉親を失った家族に、殺した人が賠償を求めるというのはどういうことだろうか? それなら自動車を運転していて幼児を過失致死させた運転手が、それによって一週間の休業をせざるを得なかったら、その賃金を殺害した子どもの家族に求められることになる。どんな理由があっても許してはいけない。

執筆:この記事は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2014年06月18日時点のものです。

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