“「障害」は書き換えではない”

“「障害」は書き換えではない”

今回は真鍋宏史さんのブログ『アスペ日記』からご寄稿いただきました。
※すべての画像が表示されない場合は、https://getnews.jp/archives/502471をごらんください。

“「障害」は書き換えではない”

いつごろから広まったのか知りませんが、“「障害」は本来「障碍」と書くのに、戦後になって「障害」と書くようになった”という俗説があります。

結論から書きます。

「障害」は戦前からある書き方です。

今はGoogle ブックスという便利なものがあるので、画像を貼っておきます。

“「障害」は書き換えではない”

(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)
https://px1img.getnews.jp/img/archives/2014/01/s01.jpg

「法律年鑑 第十三巻(昭和十二年)」 『Googleブックス』
http://books.google.co.jp/books?id=6qENq1PmM6MC&dq=%22%E9%9A%9C%E5%AE%B3%22&hl=ja&pg=PA107#v=onepage&q=%22%E9%9A%9C%E5%AE%B3%22&f=false

別表ニ掲グル身體障害二以上存スルトキハ重キ身體障害ノ該當スル等級ニ依リ障害扶助料ヲ支給スベシ

百聞は一見にしかず、ですよね。
この話はここでおしまいです。
…なのですが、どうしてこの手の俗説が絶えないのか、少し考えてみます。

この考え方の背景には、「社会は間違っている、自分は正しいことを知っている」という中二病的心理があるように思います。

そもそも、戦前の日本語を知っている人であれば、そのころは「障害」「障碍」「障礙」の三つが使われていたということは常識です。

たとえば、次の朝日新聞の記事があります。

「「障害者」か「障碍者」か 「碍(がい)」を常用漢字に追加求め意見」 2010年04月05日 『朝日新聞DIGITAL』
http://www.asahi.com/culture/news_culture/TKY201004050103.html

戦前は障害や障碍、障礙(しょうがい)(礙は碍の本字)が妨げの意味で使われた。戦後、碍は当用漢字にも常用漢字にもならず、障害が定着した。

早とちりな人がこの文を読むと“そうか、「障害」は本来「障碍」「障礙」と書くのか”と思ってしまいそうなところですが、ちゃんと一語一語そのまま読むと、「障害や…」という部分があるんですよね。
きちんと読めば、「障害」が昔から使われていたと書かれていることがわかるようになっています。

じゃあ、戦前の「障害」「障碍」「障礙」には使い分けがあったのか。
そんなものはありません(「使い分けがあった」という研究でもあれば取り下げます。)。
たとえば、「兒童心理學序説(大正十三年)」という本から引用します。

「兒童心理學序説(大正十三年)」 『Googleブックス』
http://books.google.co.jp/books?id=_t0AxaLIMo4C&dq=%22%E9%9A%9C%E5%AE%B3%22%20%22%E9%9A%9C%E7%A2%8D%22&hl=ja&pg=PA29-IA1#v=onepage&q=%22%E9%9A%9C%E5%AE%B3%22%20%22%E9%9A%9C%E7%A2%8D%22&f=false

“「障害」は書き換えではない”

(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)
https://px1img.getnews.jp/img/archives/2014/01/s02.jpg

6個のうち3個が「障害」で、3個が「障碍」です。
この中で「障害」と「障碍」に使い分けがあるか。
考えるだけ無駄でしょう。

だいたい何でも、人間は昔に遡るほど雑に生きています。
昔の人間は考え方が雑なので、本の校正をする人でさえ、「障害」でも「障碍」でもどっちでもいいやみたいに考えていたりしたわけです。

今でも、ネット上の文章などでは表記が適当なものが多くあります。
たとえば、同じ文章の中で「目」と「眼」を何の基準もなく適当に交ぜていたり。
それと同じように、戦前にも「障害」「障碍」「障礙」を適当に使っている人が多くいたわけです。
「障害」の「害」の字はよくないから「障碍」と書こうとか、平仮名で「障がい」にしようとか言うのは、それは個人の意見なので好きにすればいいと思いますが、浜の真砂のように現れる「『障害』は本来『障碍』と書くのに、戦後になって「障害」と書くようになった」という間違った思い込みだけは何とかしてほしいなぁと思います。

戦前は旧字体・旧仮名遣いだったので、難しい書き方をみんな使いこなしていたかのようなイメージを持っている人もいるかもしれませんが、今より雑な人たちが書いていたので、当然使いこなせなくて間違いだらけでした。

戦後の当用漢字や現代かなづかいについて、日本語をダメにしたというように言いたてる人もいますが、それまでの日本語表記の適当さ・いい加減さが背景にあり、それを整理した結果として現在の日本語があるということは知っておいてほしいと思います。

執筆: この記事は真鍋宏史さんのブログ『アスペ日記』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2014年01月27日時点のものです。

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