ガジェット通信

見たことのないものを見に行こう

不思議なバーチャルリアリティ装置『虫HOW?』の魅力

DATE: BY:
  • ガジェット通信を≫

虫HOW?を体験する人(チームたまごちゃん提供)

コードの付いた手袋。地面が写されているモニター。手袋をはめてそのモニターに手をかざすと、何と蟻が腕を這ってくるではないか! ゾワゾワと虫が腕を這う感触に、思わず声を上げてしまう。

実はこれ、大学生が開発したバーチャルリアリティの装置。その名も『虫HOW?』。国際コンテストで優勝したり、国内外で展示されたりと、評判も上々だ。2月4日から開催される文化庁メディア芸術祭では審査委員会推薦作品に選ばれた。今回は、このユニークな装置を開発した「チームたまごちゃん」のメンバーの一人、佐藤未知さんに話を伺った。

佐藤未知さん(olo撮影)

■気持ち悪いけど、気持ちいい
この『虫HOW?』という装置、もともとは国立大学法人電気通信大学に通う大学生のグループが開発したもので、佐藤さんもそのメンバーの一人。新たに設立されたバーチャルリアリティの研究室に集った学生が、「国際コンテストで優勝する何かを作ろう」と意気込み、開発したものだ。学生の自主的な作品なので、予算も全て自分たちで調達したという。

「きっかけはリーダーの妄想から始まりました」と語る佐藤さん。ある日、「チームたまごちゃん」のリーダーが草原で寝ころんでいたとき、腕を蟻が這う妄想に駆られたという。普通ならば気持ち悪いと思いそうなものだが、そのリーダー、何故か「気持ちいい」と思ったらしく、「腕を蟻が這う体験が出来る装置を開発するのはどうか」と仲間たちに提案し、装置の制作が決定したという。

「エンターテイメントというものを考えたときに、ホラーとかお化け屋敷とか、怖いものがアミューズメントになることがありますよね。『気持ち悪い』という感覚も、上手く料理すれば『気持ちいい』と感じるアミューズメントになる可能性があると思ったんです。目指したのは『気持ち悪いけど、気持ちいい』というものですね」

手袋を付けて画面に手を置くと、蟻が寄ってくる(チームたまごちゃん提供)

■バーチャルリアリティは「仮想現実」ではない!?
この『虫HOW?』、バーチャルリアリティ研究の分野では、触覚研究の分野に当たるという。バーチャルリアリティというと、「仮想現実」という訳語を思い浮かべたり、ゴーグルを付けて3Dの映像を眺めるというようなものをイメージしがちだが……。 

「それだけがバーチャルリアリティではありません。バーチャルリアリティは五感全てを研究対象にします。今お話に出た3D映像を投影するゴーグル、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)といいますが、それは視覚分野のバーチャルリアリティです。『虫HOW?』は、五感の中でも触覚分野のバーチャルリアリティ装置に該当します」

そもそも、「仮想現実」という訳語は厳密に言えば間違っているという。「バーチャル」とは、日本語に直すと「構造は違うが、働きは同じ」という意味を持つそうだ。例えばテレビは、厳密には実際の風景を表示しているわけではなく、赤・緑・青の三原色を1ドットで表示し、様々な色を作り出して、あたかも本当の風景を写しているように見せている。その意味で、「実際の風景と構造は違うが、人間にとって働きは同じ」というわけだ。

「テレビは『視覚ディスプレイ』ですが、『虫HOW?』は触覚の分野なので『触覚ディスプレイ』と言えます。今、バーチャルリアリティの分野では触覚ディスプレイの研究が一番盛んです。今回考案した『虫HOW?』も、アイデアの面白さもさることながら、前腕全てという大面積に実際の感覚を再現するというアプローチが学術的にも新しいと思ったので、作ることになったわけです」

虫HOW?の装置全体像(チームたまごちゃん提供)

■内部構造 テグスで蟻を再現
それにしても不思議なのはその内部構造。一体どのようにして「蟻が這っているような感覚」を再現しているのだろうか。「手袋の中にモーターとテグスが仕込んであるんです」と佐藤さん。携帯電話の振動機構に使われている小型モーターにテグスを取り付け、手袋に数十箇所配置してあるという。それが皮膚を刺激することによって、あたかも蟻が腕を上っているかのような錯覚を味わわせているわけだ。

「当初は、熱を加えると元の形に戻る形状記憶合金を使って再現しようとしましたが、熱を加えすぎると灰になってしまったり、冷却機構を取り付けなければいけなかったりと現実的ではなかったので、テグスを使うことで落ち着きました。形状記憶合金で四苦八苦したのが苦労話ですね」

虫HOW?の仕組み(チームたまごちゃん提供)

■国際コンテストでの優勝、各賞受賞など
国際コンテストでの優勝を目指して開発された『虫HOW?』は、その後見事国際学生バーチャルリアリティコンテスト(IVRC)にて総合優勝を果たした。また、フランスのバーチャルリアリティイベント「Laval Virtual 2008」への招待、アメリカの国際会議・展覧会「SIGGRAPH 2008」への出展など、輝かしい功績を上げている。

日本では今回、文化庁メディア芸術祭の審査委員会推薦作品に選ばれた。残念ながら今回の同芸術祭では実際の展示は行われないが、会場で紹介ビデオを流す予定だという。

「日本人によるインタラクティブ部門の作品が極端に少ない中での受賞は嬉しいですね。メディア芸術祭は実績も重視されるので、推薦していただけるだけの実績を積んだという実感もあります」

なお、2月20日にはNHKの「デジタル・スタジアム」で『虫HOW?』が放映される予定である。興味のある方は一度見てみてはいかがだろうか。
 
 
関連リンク
虫HOW?
国際学生対抗バーチャルリアリティコンテスト(IVRC)
電気通信大学梶本研究室

電気通信大学高玉研究室
NHKデジタル・スタジアム

カテゴリー : ガジェ通 タグ :
oloの記事一覧をみる ▶

記者:

架空紙幣作家。4歳の頃、聖徳太子の一万円札の美しさに心を奪われ、紙幣デザインフェチとなる。現在では架空紙幣創作のほか、架空新聞記事、架空広告、合成写真を用いた隣接世界訪問写真などを創作している。

  • 誤字を発見した方はこちらからご連絡ください。
  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちらから
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。

TOP