文部科学省前で抗議を続ける若者たち  朝鮮学校高等部無償化指定除外問題を追う

文部科学省前で抗議を続ける若者たち  朝鮮学校高等部無償化指定除外問題を追う

去る2月13日、神奈川県の黒岩祐治知事は、「補助継続を行うことは県民の理解が得られない」として、13年度当初予算案に朝鮮学校への補助金を計上しない考えを示した。

神奈川県は、2011年の補助金交付の際の条件として、拉致問題に関する授業で、県側(日本側と言ってもいい)の見解を子供たちに伝えることを求めた。同時に黒岩知事は、「拉致問題は子供たちには関係がないことであり、多文化共生を育む姿勢を維持したい」旨を、同校の代表部に伝えている。

このような経緯があった中での、今回の補助金交付中止は物議を醸した。加えて、文部科学省の下村博文大臣は2012年12月28日に公言していた文部科学省令(法律施行規則(平成22年文部科学省令第13号)第1条第1項第2号)を2月20日付けで改訂した。これによって、朝鮮学校高等部は、高等学校学費無償化指定除外となった。

先に述べた、神奈川県の朝鮮学校高等部への補助金交付の経緯を見れば、この決定は、朝鮮民主主義人民共和国の核実験に対する制裁行為であると指摘されても、反論が難しいのではないか。

そもそも、朝鮮学校高等部の学生の中には、日本国籍を有している学生もいるとされる。日本と国交がない国の民族学校だからといって、教育の補助打ち切りを、単純に決めるわけにはいかないはずである。

また、日本は、「児童の権利に関する条約」に批准している。今回の決定によって、国際社会から、政治問題を子供に転嫁したと非難された場合、日本は国益を損なう可能性が高くなることも予想される。

在特会のヘイトスピーチ問題に加え、今回の文部科学省の決定は、国内でも様々な意見が聞こえてくるようになった。

高等学校学費無償化指定除外問題について、反対意見を唱えている在日朝鮮の人達はどのようなことを主張しているのだろうか。文部科学省前で座り込みを続けている若者たちがいるということを聞いた。霞が関へ足を向け、彼らの等身大の主張に耳を傾けてみることにした。

●おだやかな おだやかな抗議

文部科学省前で抗議を続ける若者たち  朝鮮学校高等部無償化指定除外問題を追う

アポなしだったので、どこにいるのかな…と思ったら、一発で分かった。本当に文部科学省前で抗議をしていた。

「こんにちは」

「あ、こんにちは」

アポなしの取材で気がひけたが、声をかけると、彼らは気さくに応じてくれた。ちょうど午後三時を回ったころで、文部科学省前で座り込みをする在日朝鮮の人の中には、日本人の支援者もいた。抗議といってもシュプレヒコールを繰り返したりするような緊迫した空気はまったくない。和気あいあいと様々な人と意見を交わしながら、自分たちの意見を静かに主張しているように見受けられた。

自分の身分を明かして取材を申し込むと、協力してくれる旨の回答がすぐに返ってきた。聞けば、一人は朝鮮大学校の学生さんで、他のデモ参加者は、京都や他の地方からやってきた社会人とのこと。抗議の方法も様々で、ビラを配りたい人は配ってもいいし、参加時間も自由、途中で帰りたい人は自由に帰るというスタイルで抗議を続けているということだった。

「みんな、ばらばらなんですけど、僕は可能な限り朝から来て、19時に文部科学省の門が閉まるまでここで座ってます」 運動のリーダー的存在(?)の彼がそう教えてくれた。

 

文部科学省前で抗議を続ける若者たち  朝鮮学校高等部無償化指定除外問題を追う

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インタビューに答えてくれた彼 京都から仕事の合間を縫ってやってきたそうだ

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この日の文部科学省前は寒かった……

 

●日本国民すら だます「県民の」「国民の」という言葉

この日は、屋外はかなり冷え込んでいた。その中で、一日座り続けるのは容易ではないだろう。

それに加えて、運動が周知されるようになると、様々な人との接触もあるはずだ。私は、首相官邸前の反原発デモや、新大久保で在特会のデモに出くわしたことがあるので、彼らが危険な目にあったりしていないか心配になった。

「今のところ、危険な目にはあってないですね。場所柄じゃないでしょうか」

たしかに、すぐ近くに警察庁がある場所だ。とはいえ、危険がまったくないわけではないはずだ。老婆心ながら安全を確保する方法について伝えた後、いくつか質問をぶつけてみた。

「文部科学省の人達の反応はどう?」

「大体の人が気まずそうに素通りしていきますよ。ただ、一度、文部科学省の人がやってきて、個人的には朝鮮学校が学費無償化の指定除外になったのは理不尽だと思っていると話してくれました」

「神奈川県の黒岩知事は、朝鮮学校への補助金交付に理解を示していたけど、方針を転換したよね? それについてはどう思う?」

「補助金の交付を止めたのは、県民の理解が得られないという理由だったかと思います。「県民のために」、とか、「国民のために」って言葉は、政府側に都合のいい言葉だと思うんですよ。たとえば、原発の再稼働について、政府の人が説明する時、やっぱり「国民のために」って言うでしょう?

見る限り、国民のみなさんのかなりの数が、原発の再稼働を望んでるわけじゃないのに、どうして国民のためなんでしょうね(笑) 無償化指定除外の問題もそうですよ。神奈川の人たちが朝鮮学校に補助金を交付することを反対しているのかといえば、本当にそうなのか? と疑問に思わざるをえないですね。

今、生活保護の問題が話題になっているじゃないですか? この問題に、このやり方をぶつけられたらヤバイと思うんですよ。気をつけていないと、「県民のために」「国民のために」という言葉で、本当に保護が必要な人が守られなくなったりするんじゃないでしょうか」

まったくの正論である。加えてこのようなことを話してくれた。

●日本の子が通う無認可校も無償化を 朝鮮学校という対象を掲げることで起こる印象操作報道

「これは、僕の意見なんですけど、僕が抗議しているのは、朝鮮学校の学生が学費無償化の対象から除外されたことだけじゃないんです。同じような外国籍の子が通う学校や、日本人の子が通う無認可校も、学費無償化の対象外になっているでしょう?

教育を公平に受けられることが、この国の中で生活していく上で、生活を豊かにするための機会を得る公平な権利だと思うんですが。さっき、僕の意見と言いましたが、他にも同じような考えを持っている人は多いと思います。

ただ、朝鮮学校が日本政府に抗議しているという図式がわかりやすいのか、そのことだけが誇張されて伝えられてしまうことが多いのが、残念なんですけど」

文部科学省前で抗議を続ける若者たち  朝鮮学校高等部無償化指定除外問題を追う

彼が持っていたプラカード たしかに「無認可校の生徒にも無償化を」 と書かれている

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日が落ちるころになると、日本人支援者の姿も。差し入れのお菓子や、中には激励の手紙を持参する人もいた。

日が落ちると、日本人支援者の方も数名訪れた。

小金井市(東京の西にある街)から来たという女性は、「朝鮮民主主義人民共和国と日本の関係は好ましい状態とは思っていないが、子供が教育を受けられなくなることは黙って見ていられない。母親なら、どこの国の人でも子供に教育を受けさせてあげたいと考えるのは当たり前のはず。子供が理不尽な目に遭うのは、いてもたってもいられなかった」と述べた。

この女性が、ヒューマニストというわけではないだろう。私たちの国はどこかが麻痺しているのではないかと、つくづく痛感した。

●僕らのヒノマル

午後7時になると、文部科学省は正門が閉まる。その際に、掲げてある国旗がしまわれるのだが、この日見る日の丸は、どこか不思議に見えた。

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19時を過ぎると、文部科学省前に掲げられた日の丸は片づけられる。

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取材を開始した直後、抗議に参加した子が、パネルに描いた日の丸に大きくバツ印をつけた。言わんとしていることはわかるが、僕自身は、正直良い気持ちはしなかった。(彼らの主張したいことはよくわかる)

それは僕が日本人だからということもあるだろうけど、僕が、国旗の向こうに見ているのは政府ではなく、祖国だからだと思う。何の罪もない、僕たちを育んでくれたこの国の海や山、そして出会った人達。その母のような存在との間にある「政府」という存在は、日本人から見ても大きな溝が存在する。

おそらく、私が彼らの前で、朝鮮民主主義人民共和国の国旗にバツ印をつけたら、彼らもよくは思わないはずだ。その際に彼らが見ているのは、やはり政府ではなく、祖国という存在ではないかと思う。いわゆる良い意味での愛国心だろう。

そういった言い表しにくい葛藤を抱えながら、彼らの置かれている理不尽な状況に、いてもたってもいられなくなってあの場所に集った日本人は、決して特殊な例ではないだろう。

やはり、私たち多くの日本人の中に存在する、他者の危機に手を伸ばすことを共有してきた美徳が発露したのではないかと思う。

また、インタビューに答えてくれた彼が話してくれた「朝鮮学校の学生だけでなく、日本の子が通う無認可の学校の学費も無償化してほしいという意見」は、人としての良心であり、やはり同国の多くの人が持ち合わせているはずだ。

私たちは、外交問題がからむことについては、どうしても国と国という視点で、問題を考えがちだ。

だが、現実の問題として、我々は今ある場所で生活していかなければならない。私たちはもちろん、これからの未来を作っていく若い人たちが、過去のようなわだかまりを作らず、共に発展する方法を模索すべきではないだろうか。

それは、彼の国とだけの問題だけでなく、私たちの国ニッポンの中においてもそうである。

今回の問題を乗り越え、私たちは、隣人と手を取って生きて行く方法を真剣に考える時代に来ているのではないか。そのことが当たり前になることを、願ってやまない。

※この記事はガジェ通ウェブライターの「松沢直樹」が執筆しました。あなたもウェブライターになって一緒に執筆しませんか?

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