お布施の行方(2/2)

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お布施の行方(2/2)

前回の記事では、お坊さんは皆さんと同様に所得税を払うということをお伝えしましたが、今回はお坊さん個人とは違って様々な面で優遇措置のあるお寺、つまり宗教法人にまつわるお金の流れについて考察していきたいと思います。

宗教法人は公益法人であり、基本的に所得税を課税されることはありません。

このことは、ビジネスマン時代にどうやって利益を上げるかを日夜考えていた経験からすると、組織運営上、とても大きなメリットと言えます。株式会社の場合、せっかく稼いだ利益(税引前利益)から40%(法人税と法人住民税を足した税率)も税金として支払うことになるのですから…。

さて、税引前利益という言葉が出てきましたので、ここでお寺の会計、お金の流れを会社経営でいうところの損益計算書でご紹介したいと思います。

損益計算書とは、企業の1年間の経営成績を表す計算書のことです。1年間に獲得した収入と運営にかかった費用を記録・計算して、収益から費用を差し引くことで、儲け(損失)がいくらになったのかを表す仕組みです。

まずは株式会社の損益計算書の例です。

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1,000万円の売上(売上高)を上げるために、商品仕入れなどの費用(売上原価)として350万円が掛かっています。また、商品販売や組織運営に必要な費用として、655万円の費用(販売管理費)が掛かっています。商品販売などの事業以外からの収入を加えた最終的な利益(税引前当期利益)は169万円残りました。この169万円に対して、法人税が課税され(利益の規模により税率は変わります)、最終的な利益(当期利益)が100万円ほど残りました。

このように会社の1年間の活動を数字で表したものが損益計算書になります。

次にお寺の損益計算書の例をみてみましょう。売上や原価という用語は少し違和感がありますので、ここでは収入と支出という表現をしております。また、先ほどの会社の数字と比較しやすいように売上高(収入)を同規模にしております。

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収入として、お布施やお塔婆、年会費として頂戴する護寺会費やお墓の管理料などがあります。この例ではありませんが、拝観料やお守りなどの物品販売にかかる収入などもお寺の寺業内容によっては計上される場合があります。

対する支出として、お坊さんやお寺の運営に携わるスタッフの給与、お彼岸やお施餓鬼などの法要にかかる費用等があります。所属している宗派に支払う課金や建物の修繕にかかる費用、お寺同士のお付き合いにかかる慶弔費などが大きな支出項目として存在するのもお寺の損益計算書の特徴でしょう。多くの方が利用する施設として水道光熱費が高いというのも特徴です。その他にもお参りに必要な車両代やガソリン代、布教に必要な書籍や書類代などの経費を差し引くと…収支0円となっていますね。

実際のところ、株式会社が課税される対象である「税引き前利益」に相当する部分が、大きく残るのは非常に限られたお寺だけでしょう。お寺の規模にもよりますが、感覚としてはかなりギリギリの運営をしているお寺が多いのではないでしょうか? そういう意味でも、これからはますます経営が厳しくなるお寺が増えてくるでしょう。

会社で言うところの利益を増やしていくためには、会社同様に収入を増やす、支出を減らすという経営努力が必要です。そして、生まれた利益を「お寺が続いていくようにするための投資」に回していく。これがこれからのお寺経営に求められるマネジメントです。具体的にどうしていくのかはまた別の機会や春から本格的に開講する「未来の住職塾」などでお話ししていきたいと思います。

皆様からいただくお布施の行方を、実際の僕の経験や、宗教法人の会計の例をお示ししながらお話させて頂きましたがいかがだったでしょうか。

お寺やお坊さんにまつわるお金の話で問題があるとすれば、お布施の額がいくらなのか? お寺の収入がいくらなのか? という入り口の部分ではなく、そのお布施がなにに使われているのか? という出口の部分に存在すると思います。

喜んで捨てられたお布施であっても、それが仏教の興隆に資するものになっておらず、お坊さんの個人的な目的にだけ使われてしまっているならば大きな問題です。今回は損益計算書を利用してお寺の運営にはどのような支出が必要なのかご説明させて頂きました。その支出の一つとしてお坊さんへの給与があることにも触れました。お坊さんもサラリーマンなのです。僕がお坊さんになることで抱いていたお金に関する不安は、このようなお金の流れがわかったことで和らいできました。

しかし今は別の不安が大きくなってきています。

それは、お寺一本で生活していくことはとても厳しい!という現実です。

日本に存在するお寺のほとんどは、檀家さんによって支えられている「檀家寺」という形態です。さらにその中でも多くのお寺は、お寺だけで生活することができない状況です。僕の周りでも、自分のお寺以外に会社勤めをしたり学校の先生をしたり、専門の資格をとって士業をおこなったりと「兼業」されているお坊さんが沢山いらっしゃいます。

これからますますお寺を取り巻く経営環境が厳しくなってくる中で、お寺やお坊さんをとりまくお金の流れがどうなっていくのか、お寺がこれからも続いていくために、お坊さんは何をすべきなのか? どういう仕組みがあるべき姿なのか、考えていきたいテーマの一つです。

そろそろ経費精算の期日が近づいて来ました。溜まった領収書とにらめっこしてきます!

この辺はサラリーマン時代と全く変わらないのです…

○連載:ITビジネスマンの寺業計画書

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松島靖朗

松島靖朗:彼岸寺

ウェブサイト: http://www.higan.net/bizplan/

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