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ソニー 蹉跌の系譜(経済ジャーナリスト 深川孝行)

「ソニー 蹉跌の系譜」

『IT批評 1号 特集:プラットフォームへの意思』(2010年12月刊行)より深川孝行さんの「ソニー 蹉跌の系譜」を転載。

ソニー 蹉跌の系譜

プラットフォーム化に果敢に挑む「AV帝国」

結果としてプラットフォーマーになれなくとも、その革新性と進化によって、消費者以上に業界内に多大な影響を与えつづける企業ソニー。その蹉跌のなかに、日本企業の可能性が垣間見えてくる。新しいルールを生むのはソニーのようなチャレンジ精神のある企業だけだ

ソニー帝国は今

 「AV帝国」ソニーの商品開発に勢いがない。圧倒的な精彩さを誇ったブラウン管(CRT)TV「トリニトロン」をはじめ、「ウォークマン」、CD、「プレイステーション」、「ハンディカム」など、消費者に感動を与える「尖がった」商品に枚挙に暇のない「帝国」にあって、ここしばらくヒット作が出てこない。強いて言うならば、次世代DVD規格の「ブルーレイ」くらいだろうか。

 果たしてヒット不足の底流にあるものは一体何か。「温故知新」ではないが、過去の蹉跌をいくつか取り上げ、その本質に迫ってみよう。

ベータ:技術優位も「家電王国」のVHS支持であえなく劣勢に

 ビデオ規格をめぐる、いわゆる「ベータ対VHS戦争」はつとに有名で、いまさら詳述することもないだろう。ある意味圧倒的ブランド力と技術力を誇る「SONY」にとって初めて味わった大きな挫折ではないだろうか。

 1975年、「家庭用VTRの決定版」としてソニーは「ベータ(β)マックス」を発表。しかし翌76年には日本ビクター(現JVCケンウッド)・松下電器産業(現・パナソニック)連合(当時ビクターは松下の傘下)が強力な対抗馬「VHS」をぶつけてくる。この勝負、80年代の半ばまでには、包囲網を固めたVHSの優勢でほぼ決着がついてしまう。

 「高性能へのこだわり」が、ある意味ベータの敗因だろう。

 ソニーは70年代に入ると家庭用VTRの統一規格を目論み、これまで同社が進めてきたビデオ方式「U規格」をベースにしたベータを開発。従来同様「高画質」にこだわった味付けを前面に押し出した自信作だった。

 U規格にはもともと松下、ビクターも参画したことがあって、ソニーは今回も両社にラブコール。広範な技術支援も約束するなどかなり大盤振る舞いで臨んだ。

 だが、起死回生を懸けたAVメーカーの老舗・ビクターが密かに温めていた「VHS」を、〝親会社〞の総帥・松下幸之助翁に直談判。画質でやや劣るものの、構造が簡単で軽量、取り扱いやすく製造工程も楽、加えてビデオテープの容量もベータの当初1時間に対し、こちらは標準録画で2時間。スポーツや映画などのTV番組に十分対応できる、といった「お茶の間目線」から幸之助翁はVHSを選ぶ。「水道哲学」(安価で使い方が簡単な製品で普及を促す)を実践してきた幸之助翁にとって、VHSはまさに「お誂え向き」のアイテムだったわけである。

 VHSの商品化に乗り出した松下は、「ナショナルのお店」を背景にした圧倒的な販売力、そして幸之助翁が持つ絶妙なる「業界外交」の手腕を駆使して「デファクトスタンダード」を目指す。技術やノウハウも可能な限りオープンとし、OEMにも積極的に応じた。またこれと並行して消費者がVHSをより楽しめるように豊富なソフトを用意するなどシェア拡大の「仕掛け」づくりにも余念がなかった。

 一方迎え撃つソニー側だが、高性能を追求するがゆえの「煩雑さ」が最後までネックとなっていく。新技術を次々に商品に盛り込むチャレンジ精神は、ある意味「ソニーらしさ」として評価すべきだろう。だが、マイナーチェンジを頻繁に繰り返すあまり、一般消費者はもとより販売店や製造現場でも混乱を誘発していたことは確かだ。例えば、ベータの微妙なバージョン変更は最終的に10を超え、同じ陣営内でも本家のソニー以外採用しなかった規格や、旧機種では再生に不具合が生じるものなどさえ出現した。テープも同様に多種多様のバージョンを乱発、消費者にとっては分かりづらかったようだ。

 加えて、複雑になっていくベータ機器の製造に音を上げた日立などがソニーに対しOEMを依頼するものの、「努力の結晶」を安易に相手先ブランドで供給するという行為は、「SONY」の沽券に掛けてもできるはずがなかった。

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ITの進化を探り、ビジネスの進化を図る

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