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『ニコニコ動画』で仏教を説く人/蝉丸Pさん(後編)

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『虚空山 彼岸寺』の連載インタビュー『坊主めくり 現代名僧図鑑』寄稿による、『ニコニコ動画』の“リア住”こと蝉丸P師インタビュー後編です。蝉丸P師の人気の秘密は、仏壇を携帯電話になぞらえて「宗派=キャリア」「ご本尊=SIMカード」などと説明する絶妙なセンス。今回は、この話術の秘密について、そして日本仏教の未来について真面目に語っておられます。

『ニコニコ動画』の言葉で説く”仏教講座”

世界によって言葉と枠は違うけれども、枠の中で人間がやっていることはどれもみな一緒ですよ。宗教が考え方の違いで宗派に分かれるのも、ヲタ(オタク)の人が派閥に分かれるのも一緒だと思います。説明する言葉と文法、専門用語が違うだけだという意識で見ていると、それなりの説明ができちゃうわけです。

自分は、ヲタ系の文化もマンガもゲームも広く浅くやっているので、それぞれの枠組みや文法を使って、仏教を説明してみたのが『ニコニコ仏教講座』なんですね。『ニコニコ動画』にはヲタ系の人が多いですから、そこに合わせた文法で説くという非常にニッチな方法でやっています。

『ニコニコ動画』では、ユーザーが”タグ”という文字列を動画に関連付けていきます。自分の動画には”リアル住職”を略して『リア住』とか、草食系男子をもじって『僧職系男子』とか、うまいこと言うなぁというタグがつけられまして。こちらが考えるよりひねったタグを考えてくれるのでずいぶん教えられるし、コメントには思わず吹いてしまうこともあります(笑)。

『ニコニコ仏教講座』で話している内容は、宗派のお坊さんが聞いたら眉をひそめるような内容です。『ニコニコ動画』のユーザーという特定の層に絞り込んだ言葉――つまり不特定多数にはわからない言葉で、ぜんぜん違う概念を持ってきて説明をするというのは、宗派のお坊さんとしてはダメなやり方なんです。

でも、『ニコニコ動画』では『ニコニコ動画』の文法で話さないと伝わりませんし、笑いというのは対象が狭ければ狭いほど面白いものです。相手が何を聞きたいのかを推し量って話さないと、人は聞いてくれませんから。

仏教に興味を持つ人の「案内板」になりたい

テキストサイトや『ニコニコ動画』を通じて誰かに影響を与えたいとか、布教しようという目的が明確にあるわけではありません。「人を見て法を説け」ですから、その人に機会が訪れているかどうかを見極めずに説いてもダメなんです。

でも、仏教に興味があってやる気がある人に対して、あまたある書籍や道筋のなかで「これとこれがありますよ」という道筋を示すことができれば、という思いはあります。ただ、駅までの道を教えることはできても、その人を駅まで担いでいくことはできませんよね。

ウェブでは、インフォメーションセンターとまでは言いませんが、ある種の案内板的なところを目指しています。情報が膨大すぎて、どこから手をつけていいのかわからない人を、ガイドできればいいなと思いますね。もちろんしっかりと眉に唾(つば)してもらうのが前提ですが(笑)。

ときどき、「お坊さんになりたい」と相談を受けることがあります。でも、正直言って先細りの業界ですし「一般在家からやろうと思っても厳しい世界ですよ」と、まずは断ることにしています。それでも進路を決めたという人には、少しはアドバイスしますよというスタンスで対応しています。今までに、8人くらいが話をしにきて、入山したり役僧をしている人が6人ほどいますね。

日本の現状に即した仏教の未来とは

出家する前は、寺というのはお坊さんになりたい人だけが集まる、きれいな世界ではないかという理想と憧れを持っていましたけれども、実際に見ていくとそうではありませんよね。また、日本仏教の現状ではお墓参りをして、仏像を拝み、護摩も焚(た)き、お願い事もしてもらいという、神道と習合したカタチの呪術(じゅじゅつ)的な部分や死者への祭祀(さいし)が、依然として大きなウェイトを占めているんですよ。

だから、上座部仏教やチベット仏教などが源流に近い発展系だからと言って、現状を完全に否定しても周りがそれを受け入れてくれないようでは、どうしようもないと思うんです。とは言え、そこに甘んじて読経だけして、法話すら出来ない僧侶が多いことについては、根底から改めるべきだと強く思っております。

ただ、若い人だけに限らず、本来的な意味での仏教を望んでいる人が一定数いるとしても、基本的な日本の仏教の求められ方としては、まだ旧態依然としています。特に高齢者の方はね、お釈迦さんの手厳しい教えを好んで聞きたいとは思っていらっしゃらないんです。だから、その中で上手く教えを届けられる工夫をしないとダメかなと。

ダライ・ラマ14世の言葉に「あなたの住んでいる文化圏を離れた行いは非常に危険です」というのがありまして。自分の文化圏から逸脱することを承知で頑張ってみても、大局的に見れば続かないということなんですね。自分の場合は、スリランカのスマナサーラ長老も愛読しておりますが、亡命以来、他文化と接触し続けた苦労が滲み出ているダライ・ラマ14世のほうにより感銘を受けました。

熱心な若手の僧侶のなかには、僧伽(編集部注:そうぎゃ、修行者の集まりや教団のこと)の復活を言う人もいますが、いくら志が高くても活動の場所やパトロンなど、出家者を支えるバックアップを得られないのが現状です。それに、ダラムサラやスリランカ・ミャンマー・タイなどの僧院システムが最高かといえばそうとも言い切れません。日本仏教の現状を嫌って海外に飛び出した後輩から話を聞くと、やはりあちらもあちらで問題を抱えているという現実があるんですね。

仏教をより深く勉強しようとする人が、中国・南方・チベット仏教の現実を見ずにイメージだけを美化して「これだから日本仏教は……」と断じるという、最初に陥る状態がありまして。自分はこれを”ロマン仏教”と呼んでいますが、それで進んでいくとやっぱり行き詰まってしまいますし、かえって頑なになっちゃうパターンも多いです。

仏教が日本に伝来した頃と違い、今では伝統的な上座部の教えも後期密教でさえも学べます。だから、昔の各宗派の宗祖さん達が中国経由で微妙に変形した仏教を更に日本風にローカライズしたように、日本の伝統仏教も教義のバージョンアップが必要なんじゃないかと思います。

今は、旧バージョンに固執している割にぞんざいな使用をしてるもんですから、つじつまが合わずに自家撞着(どうちゃく)を起こして身動きすら取れない状態です。それこそお釈迦さんの説く無常に反しているんじゃ……などと(笑)。まあ、江戸期の「新説を立てるべからず」という幕府の規制が尾を引いてるといえばそうなんですが、葬式仏教にあぐらをかいた結果であると言う側面も強いですね。

ともあれ、パッチを当てるようなモノですが、従来の日本仏教で失われてしまった瞑想のテクニックや修道体系など学ぶべき所はしっかり学び、また同時に日本の文化・習慣を受け入れることを方便としながらも熱心に仏教を求める人にはちゃんと道を示せるような、清濁併せ呑む対応が必要になるかと思います。

そのためには、僧侶一人ひとりの仏教に対する姿勢や、基本的な教義に対する認識や発信能力の向上など、パフォーマンスをあげていくしかないんじゃないかと考えています。自分としては、悟り指向と現世利益指向の真ん中でフラフラしておりますので、せめて境界の上で双方への案内板が出来ればと思っています。
 
蝉丸P(せみまる、Pはプロデューサーの略)プロフィール
1973年神奈川県生まれ。高校1年生のときに県立高校から高野山高校へ編入、得度を受ける。1992年、高野山大学仏教学部入学、在学中に加行。卒業後は一流伝授のため1年間聴講生として過ごした後、岡山の寺の後任住職候補に赴任するも1998年辞任。役僧として全国を放浪し、2000年に高野山別格本山にて法印随行兼執事を務める。2001年11月、現寺院の後任住職候補に赴任、2002年晋山。テキストサイト『坊主めくり』をスタート。2008年、『ニコニコ動画』で仏教講座を開き話題に。

執筆:この記事は『虚空山 彼岸寺』の連載インタビュー『坊主めくり 現代名僧図鑑』より寄稿いただきました。
文責:ガジェット通信
 
 

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