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プレイステーション4に導入の可能性がある「1ハード・1ソフト」プロテクションは本当にゲーム業界を救うのか?

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2013年の年明け早々から海外のゲーム系ニュースサイトで話題の中心を占めているのは、プレイステーション4(PS4)に導入されるのではないかとの見方が有力視されている「1ハード・1ソフト」プロテクションに関する特許をソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンが昨年秋に出願していたと言うニュースでした。

 

同様の技術に関しては、同社が1994年に初代PSを発売した当初より特に日本国内で再販価格維持(定価販売)・中古品売買禁止を販売戦略の二本柱としてサードパーティーの圧倒的支持を取り付け任天堂を業界首位から追い落とす原動力となったことは広く知られていますが、メーカーと小売店の間で争われた法廷闘争は2002年に最高裁でメーカー側の全面敗訴に終わり、その後は特に表立った動きは見られませんでした。ところが、今回の特許出願が報じられたことでかつての主戦場であった日本ではなく、北米やヨーロッパに約6000店舗を展開する大手小売チェーンのGameStopがニューヨーク市場で株価急落に見舞われるなど、大きな衝撃が広がっています。

 

PS2の頃から導入説のあった「1ハード・1ソフト」プロテクション

今回の特許はディスクにRFIDタグを埋め込み、初回起動時にハードウェアと無線高周波で通信を行う認証方法でハードとソフトのシリアル番号を固定して起動する度にシリアルをチェックすると言うもので、同様の技術導入に関しては2000年に発売されたPS2の頃から、実装されるのではないかとの説が何度も浮上しては消えていました。

 

この技術が実装された場合、当然ながら中古売買のみならず個人間の貸し借りや日本と異なり米国で広く実施されているゲームレンタルなども一切が物理的に不可能となり、ゲームのプレイスタイルが事実上「新品購入」のみに限定されることになりますが、米国やヨーロッパのニュースサイトでは今回の特許出願に関わらず、この技術がPS4に実装されるのではないかとの見方に対しては懐疑的な見方も広がっています。特に大手メーカーの経営者が(かつて、日本でそうだったように)中古市場の存在がメーカーの成長阻害要因になっているとの認識を表明しているのは事実であるにしても、中小メーカーの間では「中古やレンタルでもいいからとにかく遊んでもらわないと知名度が上がらない」と考えている企業も少なくないので、20世紀末に「撲滅キャンペーン」を推進した日本のような業界が一枚岩で中古市場やレンタル市場の排除を積極的に望んでいるような状況にはなく、競合するハードメーカーである任天堂やマイクロソフトが同様の技術を導入しない場合はユーザーが囲い込みに対する嫌気からそれらのハードへ流れるリスクが大きいのではないかとの見方が、この特許に関するニュースに付けられた読者のコメントでは支配的な状況です。

 

「1ハード・1ソフト」導入は消費者保護法制の面からもハイリスク?

日本でゲームの中古品売買の是非が法廷で争われた際は、主たる争点が著作権法第26条における頒布権が特許権など他の知的財産権と同様の「権利の消尽」の対象となるかどうかでした。「権利の消尽」は20世紀初頭にドイツで判例により確立された概念で、それから1世紀以上を経て現在では英米法か大陸法かを問わず私有財産制度の基礎を為す考え方の一つとして多くの国で共通概念として受け入れられており、2002年に日本で下された最高裁判決もこの考え方に沿ったものとなっています。

 

米国著作権法では1976年の改正により、第109条(a)項で日本の著作権法において1999年に創設された第26条の2(譲渡権)と同様に「権利の消尽」が明文化されています。第26条の頒布権に関しては改正時に係争中であったことから第26条の2と異なり「権利の消尽」が明文化されていませんが、譲渡権と同様に消尽の対象となることが最高裁判例で確定しているのは先に述べた通りです。米国著作権法の第109条(a)項は単なる免責規定ではなく、消費者保護の観点から強力に裏打ちされた条文であり、その条文の趣旨を無力化するような技術の採用はリスクが高いのではないかと当然に考えられます。

 

ここで思い出されるのが、2005年に同じソニーグループのソニーBMG(当時)が引き起こしたRootkit問題です。同社が発売したコピーコントロールCDをPC上で再生すると自動的にスパイウェアが仕込まれる悪質な仕様が大きな社会問題となり、また購入者を犯罪者予備軍のように扱っていると言う企業姿勢も問われる事態に発展しました。その結果、消費者団体や40の州政府から集団訴訟を起こされて合計で刑事事件の罰金と民事訴訟の賠償金を合わせて約500万ドルを支払い、どう考えても「コピー防止」と言う目的と結果が全く釣り合っていない高額な授業料を負担するだけの結果に終わっています。PS4に「1ハード・1ソフト」プロテクションが実装された場合も、知的財産権保護とは何の関係も無く(「中古市場やレンタル市場の存在が違法コピーを誘発している」と言うのであれば、その因果関係を明確に挙証する責任は導入する側にあるでしょう)消費者の財産処分権を一方的に侵害しているとの批判が起こるのは不可避であり、Rootkit騒動の時とは比べ物にならない規模の集団訴訟が起こされる可能性は極めて高いと見るべきでしょう。

 

本当に中古市場やレンタル市場の排斥がメーカーを救うのか?

ソニーがゲームに限らず、グループ全体の体質として中古市場やレンタル市場を極端なまでに嫌悪するのは「そう言う企業風土」と割り切らざるを得ない面もあるにしても、そもそも論として中古市場やレンタル市場を排除して事実上「新品購入」のみを正しいゲーム、ひいてはコンテンツ全般との接し方として強制することが本当にメーカーの開発費用回収やモティベーションの向上にとって有益かどうかは、全く別の問題です。ましてや、現在では11年前と比べても家庭用ハードを含めてダウンロード販売の拡大によりパッケージレス化が進行しており、PS4のソフト供給手段をダウンロード主体にする場合でもパッケージソフトからの「追い出し」を荒っぽい手法でやるより、多様な供給手段を個々の買い手がメーカーの儲けになるかどうかと言う点を含めて選択可能にする方が、長期的に見ても市場の活性化につながるのではないでしょうか。

 

かつて日本のゲーム業界が繰り広げた「撲滅キャンペーン」は最高裁における全面敗訴と言う結果に終わり、その時の挫折に対するリベンジをソニーが世界規模で多くのリスクを振り切ってでも仕掛けるのかどうか、今後の発表が注目されます。

 

画像:サンフランシスコのGameStop店内

画像ソース:Wikimedia Commons

http://commons.wikimedia.org/wiki/File:GameStop_on_Powell_St.,_SF_interior.JPG

撮影者:BrokenSphere(CC-BY-SA 3.0)

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