差別はネットの娯楽なのか(7)――uncorrelated氏の記事「在日韓国・朝鮮人が嫌われる理由」について

差別はネットの娯楽なのか(7)――uncorrelated氏の記事「在日韓国・朝鮮人が嫌われる理由」について

先日、Q&Aの前後篇が配信された直後、ガジェット通信編集部の深水氏から、こんなブログエントリーがありますよと教えてもらった。そのブログエントリーのタイトルは「在日韓国・朝鮮人が嫌われる理由」  http://www.anlyznews.com/2012/12/blog-post_6319.html 。このエントリーはその後「日本初、提言型ニュースサイト」を自称する「BLOGOS」というウェブサイトにも転載されていたので、多くの人が目にしたと思う。今回はこのエントリーについて書きたい。

まず、冒頭部分から「批判している差別がよく理解できない」とある。差別を生みだすものは社会的な構造であり、実際に目の前にあるのにもかかわらず、理解できないというのは、きちんと現実を直視していないことではないだろうか。

1、「ネトウヨの示す嫌悪感は差別なのか?」で、「『帰化してもなお続く差別』と見出しがあるので、精神的なモノのようだ」とあるが、新井将敬氏の黒シール事件なども触れたはずで、さまざまな差別事件が発生し、現在もネット上をはじめ現実にもヘイトスピーチが巻き起こっており、決して精神的なものではない。

「また『帰化する理由がない』と言っているので、政治に参加する権利が無い事は問題では無いようだ」ともあるが、政治に参加する権利がないことは大問題だ。私個人としては政治に参加できる/できないということだけでは、帰化するまでには至らないと云うだけだ。

2、「帰化すればルーツを喪失すると言う主張は理解し難い」とあるが、帰化してもルーツを失うわけではないことは当然だ。しかし、その記号でしかないともいわれる国籍に思いを託す人もいるし、繋がりが途絶えてしまうのではないかと感じる人もいると云う話だ。ましてや、在日韓国朝鮮人の祖国はいまだ分断された状態にあり、国籍を巡ってさまざまな葛藤を抱えて来た。他の外国人と背景が異なるのに、同列で語るのには無理があるだろう。

3、「在日韓国・朝鮮人は、日本に移住することを選択した人々」では、この「選択」と云う言葉に引っかかった。「帰還事業で帰らなかった人々」「積極的に日本に留まる事を選択した」とあるが、日本に移住し、代を重ねて生活基盤ができた人々と云うことを忘れている。あえて、帰れなかった事情があるのではと洞察しない点もおかしい。「韓国政府が帰国を拒否した事もある」と云う点も、わざわざこのようなことを書くことで、在日が本国からも見捨てられた存在であるとでもいいたいのだろうか。そんな悪意が透けて見える。

4、「誇示するルーツが反日国家であると言う問題」この辺になると、もう何が言いたいのかさっぱり分からなくなる。国家と個人と民族は別物だ。ルーツを持つ国が、日本と仮に敵対していたにせよ、その責任を個人に求めるのは愚かなことだ。多くの普通の在日は、本国の政府にではなく、民族や文化に愛着を持っているだけに過ぎない。

5、「被差別意識を訴えるほど、在日韓国・朝鮮人への嫌悪感は増す」と云う結論に至るのだが、被差別意識を訴えなければ、差別は「たいしたことがない」ことにされる。そして、なかったことのように見過ごす。本来、問題としなければならないのは「在日韓国・朝鮮人への嫌悪感」についてだ。

差別する、嫌悪感を抱くことをあたかも正当化することに留まった記事は、本当に残念だと思う。

ブログのカテゴリは「社会科学」と冠していたが、何らかの調査や検証を行ったわけでもなく、しかも粗雑な解釈を並べただけのように思う。感想文なら問題はないと思うが、社会科学と云うのはあまりにも乱暴だろう。

また、「BLOGOS」についても、ずいぶんとがっかりした。ここに寄せられたコメント(http://blogos.com/article/51761/)を見れば、このブログに何らかの悪意があることは一目瞭然だろう。

元々「差別」と云うのはデリケートな問題でもある。だからこそ、相手の背景を慮ったり、さまざまな角度から検証したり、最大限使う言葉を熟考しなければならないと思う。

「政治家から中学生までの意見がフラットに並ぶ面白さ」と解説しているが、ヘイトスピーチに近い言説を垂れ流すことは、差別されている側の当事者にとって決して面白いものではない。在特会が自らの醜悪な行動をノーカットで動画配信することと、似たようなものを感じた。

そして、この記事の掲載を決めた「BLOGOS」編集部の良識についても大きな疑問が残った。

最後に、私の記事を引用しながら、私個人ではなく、「在日韓国・朝鮮人が嫌われる理由」と題したところ、ここに大きな問題が潜んでいるのではないかとも思う。差別する、嫌う理由を必死で探すのも、差別のひとつの形だと思う。

(李信恵)

※この記事はガジェ通ウェブライターの「李信恵」が執筆しました。あなたもウェブライターになって一緒に執筆しませんか?

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