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【ここは法廷だゼ!】「ちゃんと被告人、目を見て聞いて下さい!」裁判官の仕切りで、単なる覚せい剤裁判がドラマチックに!

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被告人の行き先

スラッとした長身にスーツ。押尾学さんと尾崎豊さんを足して割ったような顔立ちの被告人は、なんとなくのイメージ通り、覚せい剤取締法違反で逮捕、起訴されていた。7月のある日、自宅で覚せい剤を使用(注射)し、1.993グラムの覚せい剤を所持していたというが「間違いありません」と罪状認否で全て認めた。この1.993グラム、かなり多い方だ。

案の定、前科4犯(同種は3犯)、直近だと3年前の7月にも、同じく覚せい剤取締法違反で懲役3年の判決を受け、服役していた。昨年9月に仮釈放となったが、今年の4月から再び覚せい剤を使い始めたという。まぎれもないシャブ中だった。今回も確実に刑務所行きだ。

覚せい剤は本当にやめられない人が多い。法廷では反省を見せるが、また手を出して、数年後法廷にやって来る。飽きるほど見た、この手の覚せい剤裁判。うんざりしかけたが、意外な事に目の離せない展開となった。

まず情状証人として妻が出廷。夜のニオイのする、長身美女だ。なんと今年8月に被告人と入籍したばかりだという。8月? 逮捕後である。

弁護人「捕まってしまって、(入籍に)迷いはなかったの?」
妻「なかった……そうですね……少し迷いはありましたが、一生一緒にいたいと思ったので。夫婦になると言う事は二人三脚で生きていかなければならない、内妻とは違う……カレも結婚する事でちゃんとやらなきゃと思うと思うので……」

何度も覚せい剤に手を出してしまう被告人を病院に通わせる事など、今後の監督を強く誓い……

弁護人「被告人になにか言いたい事はありますか? 被告人のほうを向いてもらっていいですよ」
妻「(右にいる被告人のほうを向き、笑顔で)……こちらのことは心配しないで……」
裁判官「(遮って)ちょっと待って。ちゃんと被告人、目を見て聞いて下さい!」

なんと裁判官が仕切り始めた。見つめあうようにとの指示である。被告人もあわてて妻の目を見る。妻は笑顔でこう言った。

「こちらのことは心配しないで、ちゃんと、無事に出て来れるように待ってます」

笑顔で傍聴席に戻る妻。涙をこぼすまいと、真っ赤な目で天井を仰ぎ見る被告人……単なるシャブ裁判がいきなりドラマチック仕立てになってしまった……。

裁判官も妻に問いかける。

裁判官「普通ね、離婚する人の方が多いんですよ。そこまでして……どうしてそこまで?」
妻「昨日今日、会った仲ではないし、一番は、夫の事が好きだからです。これからもその気持ちは変わらない」
裁判官「どういうとこがいいの?」←切り込む
妻「まー、やるときはやる。できる。優しい面もあったりするので……」
裁判官「最後に言っておきたい事はあります?(どうぞ、というようなジェスチャーをして妻に被告人のほうを向くよう促す)」

ドラマチック裁判官が、また二人を向き合わせに!

妻「(被告人のほうを向き、笑顔で)待ってますので……安心して下さい」

そしてまた泣く被告人!(泣きすぎ!)

まだ被告人質問も始まってないのに!

と、驚かされたが、涙もおさまった被告人が証言台の前に座り、ようやく被告人質問が始まった。今回はこれまでとは違う、必ず違法薬物をヤメてみせる、とお決まりの台詞を述べる。

被告人「今まで私の周りに(薬を)やめろと言った人間、ひとりもいなかったんですが、今回初めて止めろといってくれて……」

やめろと言う人間が一人もいないという交友関係にはビックリだが、妻の存在はかなり大きいようだ。これにドラマチック裁判官がさらに追い打ちをかける。

裁判官「まー私も、覚せい剤を使って人を傷つけたっていう事件、担当したことありますけど、そういうとき、誰が傷つくか、分かる?」
被告人「……」
裁判官「一番身近な人を傷つける。奥さんですよ……分かってます?(ひと呼吸置き)……奥さんの話、どうでした?」
被告人「ありがたいです」
裁判官「奥さん、どういう表情、してました?」
被告人「笑ってました」
裁判官「奥さん、あなたの後ろに座ってるんで、あなたから見えてないんで、言いますけど、奥さん、涙こらえてあなたの話、聞いてますよ。忘れないで下さい」

今日一番のクライマックスである。傍聴席に座っていた妻は、この裁判官の言葉でこらえていた涙があふれ、ハンカチで目頭を押さえた。これに被告人もうなずき、また泣く。単なる覚せい剤裁判がこんなにドラマチックに……すごい裁判官だ! 心なしか「決まった!」と思っているようにも見える……。

論告弁論も終わり、被告人からの最後の一言タイムでも、ドラマチック裁判官はぬかりがない。

被告人「ホントに最後にしたいとおもってますので……」
裁判官「(また遮って)さっき、奥さんがあなたに話してくれたでしょ、あなたも言ってくれます?」

と、三度目の見つめあい指令!なかなか珍しい展開である。これに応え、被告人もクルッと振り返り、妻に向かって、こう言った。

「頑張って、早く帰ってきますので、よろしくお願いします」

そしてまた二人は涙。泣くくらいなら覚せい剤に手を出さなきゃいいのに……なんていうツッコミもうっかり消え失せるほどドラマチックな裁判になってしまった。

求刑は2年6月、別期日で言い渡された判決は、1年10月。だいぶ負けてくれている。2人ともこの日は泣く事なく、妻は笑顔で手を振っていた。

裁く方も裁かれる方も慣れた調子の覚せい剤裁判が多いが、このぐらいのドラマチック仕立てのほうが、かえって再犯を防げるのかもしれない。待ってくれている人がいるというのは、励みになるんじゃないだろうか。

画像引用元:flickr from YAHOO
http://www.flickr.com/photos/sendaiblog/3745985613/

カテゴリー : 政治・経済・社会 タグ :
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記者:

傍聴人。近著『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『木嶋佳苗劇場』(宝島社)ほか古くは『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)『あなたが猟奇殺人犯を裁く日』(扶桑社)など。好きな食べ物は氷。

ウェブサイト: http://tk84.cocolog-nifty.com/

TwitterID: tk84yuki

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