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欧州議会のACTA否決で深まる日本の“監視・検閲型”知財政策への疑念

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7月4日(ヨーロッパ標準時)、欧州議会は本会議において“偽造品の取引の防止に関する協定(Anti-Counterfeiting Trade Agreement, ACTA)”の批准承認案件を賛成39、反対478、棄権165という圧倒的反対多数で否決しました。ACTAの承認案件はこれ以前にも国際商取引委員会などの各委員会でことごとく否決されており、今回の本会議における否決が欧州議会としての最終的な意思決定の場となります。NHKの5日付報道によれば欧州委員会(EC)が署名した条約を欧州議会で批准承認せずに否決したのは、今回が初めてだということです。この否決に先んじて、約280万筆に及ぶ「ACTA反対」の請願署名も採択されました。

元々、このACTAという条約は“模倣品・海賊版防止条約”の仮称で2003年に日本政府が提唱し、米国やEUなどに呼びかけて起草されたものでした。当時の小泉純一郎首相が率いる政権において、従来の知的財産戦略会議を改組して設置された知的財産戦略本部の目玉政策であったACTAは「偽物撲滅」を国内外に強くアピールし、特にコピー商品が大量に出回る中国を牽制する意図が提唱の背景にあったと言われています。

しかし、協定に署名したのは最終的に提唱国の日本の他、米国・EU(27か国中22か国)・カナダ・韓国・シンガポール・オーストラリア・ニュージーランド・モロッコで、メキシコとスイスは起草作業には参加したものの、署名を見送っています。中国などのBRICs諸国やシンガポールを除くASEAN各国は参加しなかったので、当初から国際条約としての枠組みに疑問が呈されていました。

そして、何より強く批判の対象となったのは(ACTA起草国の半数近くが参加しているTPPと同様に)起草に関する過程が徹底した秘密主義により進められてきたことでした。日本でも外務省は再三「条文の仮訳は存在しないし作る予定もない」と繰り返すのみでしたが、結局はこの不透明な制定過程がEUを中心に反対運動を拡大させる原因となったのは間違いのないところでしょう。実際、一時は「ACTAで加盟国に義務付けられるのではないか」とうわさされていたフランスで実施されている“違法複製物を3回ダウンロードすると強制的にネット接続を遮断される”ストライクポリシーなどは最終的に条文から消えているものの、営利・非営利を問わず個人が違法複製物を入手することに広範な規制を課すことを求める内容であることに変わりはなく、それは必然的にネットワークを通じた個人の情報入手や表現活動を監視・検閲することへ繋がっていきます。このほかにも、医薬品の特許権を全く、或いはごく限られた範囲でしか認めない国からのコピー薬品や保護期間を満了したジェネリック薬品の輸入・流通に対する規制強化なども明記されており、国境なき医師団が強い懸念を表明しています。こうなると、この協定自体が「ACTAの条文で認められる“本物”以外の物を全て“偽物”と定義し、市場から締め出す」ことを目的としており、その為にはいかなる犠牲が生じても構わないという本末転倒な不条理を抱えていると言っても過言ではないでしょう。

7月5日付の日本経済新聞では「ACTA自体はEU以外に8か国が署名している。6か国の批准により発効するため、EU抜きでも発効できる」と強調していますが、既にオーストラリア議会では条約委員会が6月27日に「協定の内容に不備が多く、批准した場合の経済への影響分析などのシミュレートが不足している」としてそれらの条件が満たされるまで当面、ACTAを批准しないよう内閣に勧告するなどEUを震源とする反ACTAの流れは、他の署名国にも急激に拡大しているのです。

翻って、提唱国の日本はどうかというと政権が求心力を失った不安定な政情下において知的財産に関する国民的議論は活発と言うにはほど遠い、低調な状態が続いています。野党が主導した違法複製物のダウンロード犯罪化法案を重要法案とのバーターで与党が丸呑みし、大した議論もないまま成立して3か月後には施行されるという異常な状況で、文化審議会もまともに機能していません。さらに付け加えれば、今回のダウンロード犯罪化は諸外国に「ACTAの提唱国である日本は“著作権保護”をもっともらしく掲げた監視・検閲型アプローチを推進して一般市民を危険にさらす国だ」というメッセージを世界中へ送ることになってしまいました。成立直後から開始された政府機関や与野党に対するサイバー攻撃は非合法な抗議手段であり、決して肯定し得るものではありませんが皮肉なことにそのサイバー攻撃に関する報道を通じ、国民的議論を忌避して少人数で秘密裏に進められた法律制定が初めて広く知れ渡ったという側面は否定できません。

日本の国会において、ACTAの承認案件は今のところ審議入りしていませんが権利者団体の御用聞きばかりが横行する国会では今回、EUが日本政府の提唱した条約を否決した意味など多くの議員には理解すらされないのではないかと暗い気分にならざるを得ません。逆に言えば、EUがACTAを否決したのは、280万人分の請願署名提出など一人一人の一般市民が危険を感じて議会を動かしたからにほかならないわけで、日本でも「どうせ何も変わらない」「悪法も法」と泣き寝入りを決め込むのではなく、市民を危険にさらす悪法や条約に対しては一人一人がきっぱりと反対・廃止の声を請願署名などの合法的な手段を通じ、個々の議員に訴えて行くべきではないでしょうか。

画像:ACTA承認案件に関する投票結果の報道発表(欧州委員会、2012年7月4日)http://www.europarl.europa.eu/news/en/pressroom/content/20120703IPR48247/html/European-Parliament-rejects-ACTA
※この記事はガジェ通ウェブライターの「84oca」が執筆しました。あなたもウェブライターになって一緒に執筆しませんか?

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