夜逃げじゃなく“昼逃げ”が主流?引っ越し屋の裏ビジネス
どうもどうも、特殊犯罪アナリスト&裏社会ライターの丸野裕行でっす!
借金が返せない、身の安全を確保したい……そんな人間が利用するのが夜逃げ屋。
以前は『夜逃げ屋本舗』なんていう映画シリーズにもなるほどの人気の裏商売でしたが、もちろんその隠れた人気は未だに途切れることはありません。
でも、昨今ではそんな夜逃げの依頼にも劇的な変化もあるようで……。
今回は、引っ越し屋さんの裏仕事とそこに渦巻く人間模様をお送りします。
仕事の主流が“昼逃げ”
お話を聞いたのは、5人の従業員と6台のトラックを保有し、運送や引っ越しの全般を行う会社を経営するGさん。
彼が受け付けている裏仕事のほとんどが“昼逃げ”だという。
「一昔前であれば、今みたいに厳しい貸金規制法がなかったから、莫大な借金を抱えての夜逃げが結構多かったけどなぁ。ひと家族の身の安全を保証するために、不動産業者さんと組んだりして、転居先がバレにくい住居を用意。さらに数ヶ月は食べていける資金もこっちのほうで確保したりしてね。いろいろと大変だったけど、悪徳業者とかと対峙していると、やりがいがあった。そう、まったくあの『夜逃げ屋本舗』の映画と一緒。自己破産や債務整理する前にうまく借金させたその金で、夜逃げ代を支払ってもってた。しかし、最近では、ちょっと質が変わってきたんですよ。家族や親せきなんかとの問題で逃げたいという奥さんなんかが多いですよね」
今では、借金苦を理由にというよりは、男女のトラブルやDVなどで、一緒にいる相手から逃げたいという依頼が多いという。
逃げれば、その先に“生まれ変われるチャンス”、“やり直せるチャンス”が待っている。
そう考える依頼者を相手にした商売で、相手が気がつかないうちに、荷物をまとめて、行方をくらませる……それが、“昼逃げ”だというのだ。
執拗な追手から逃げるには?
逃げる時間帯は180度も変わってしまったが、昔と何ら変わらないという部分もある。
「自分に親しい親類や子供、とことん付き合える友人とでも、5年の間はしっかりと縁を切らせますよ。完全に縁を切ってしまわないと、逃げる妻や恋人などの女性を追ってくる男って執拗に見つけようと張り切る。逃げれば逃げるほど、熱くなるのが、人間の性ってものですよ。自分の妻や彼女の交友関係に脅してでも付け入ってくるものなんです」
では、“妻や彼女は自分のもの”という考えが異常に強い私物化夫や彼氏たちは、どのような手口で迫りくるのか?
「こういった男性の多くには、社会性が薄いパーソナリティー障害の人が多いんです。有益になることなら、人を騙したり、同情を買う泣き落とし、暴力的な脅しなどもいとわない。逃げた女性の家族や友人から、何としてでも居場所を聞き出そうとするわけです。だから一時期は、違法とはわかっていましたが、別の人間として暮らすための戸籍すら用意することもありましたよ」
「戸籍を用意すると一体いくらくらいの費用がかかるのか」という質問についてはお茶を濁されてしまったが、今あるすべての生活を投げうって、新天地で“転生”したい女性客からの依頼は多いそうだ。
具体的な“昼逃げ”の手法とは?
スタンダードコースの昼逃げの場合、料金は約35万円程度になるという。(※移転先の家賃は別)
普通の引っ越しよりも数倍は高くはなるのだが、新たな受け皿となる家の確保もお願いできる。アフターフォローも万全だ。
では、昼逃げとはどのように行うというのだろう。
「僕らは、夫や恋人が出勤したり、出かけたりする朝には現場で待機しています。お子さん連れの場合は病欠にしてもらって、学校を休ませますね。作業着は着ずにスーツやジャケット、ジーンズ姿で作業は行います。車もハイエースが数台。でないと、悟られてしまいますから。相手が出勤した後に奥さんや彼女さんからスマホに連絡をもらい、準備に入ります。忘れ物で帰ってくる可能性もあるので、30分ほどはさらに待機ですね。そこから、計画遂行。目立つので、黒塗りのバン2台分程度の荷物にはしてもらいます」
それから1時間程度で昼逃げ作業を終了させるのだが、荷物の多い女性の対応に追われるときもある。
「大変ですよ、捨てられないものが多い女性が多くて……。そんなところで右往左往していると、作業途中で、男性が帰ってきてしまう例もありまして……」
昼逃げ現場でのトラブルはほとんどないものの、もし有った場合には強烈な修羅場になるという。
金属バットを振り回して追いかけてきた夫
トラブルが起こってしまったひとつ目は、病気で休ませた子供の様子が気になり、夫が帰ってきてしまったとき。
「車で病院に連れて行こう」と久しぶりに優しさを見せた夫の気遣いにより、裏目と出た。
「荷物を積み込んで、お子さんと奥さんを助手席に乗せたとき、夫の叫び声と金属バットを持った姿がバックミラーに映りました。ヤバイと思って、アクセルベタ踏みで発車したんですが、金属バットを振り回しながら旦那が1キロメートルくらい走って追いかけてくる。鬼みたいな形相で、お子さんはその姿に折檻されていたときのことを思い出してガタガタ震えていましたよ。可哀そうでしたね」
その他にも、積み込んでいる途中で消火器をぶちまけた恋人や、興信所にナンバーを調べさせてウチの会社に“妻の居場所を教えてくれ”と毎晩泣きながら電話をかけてくる夫、不倫相手が車で追いかけてきてカーチェイスになったり……と、数こそ少ないものの、これらは実際に起こった話のようだ。
そういったことがあるたびに、やはり逃げるまで追い詰めた男性側が悪いとGさんは思うそうだ。
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年々増えている、この“昼逃げ”。
どちらが悪い、などということを、正直決めつけることはできない。Gさんは「末永く男女が同じ屋根の下で暮らせるという状況を、お互いにつくっていってほしい」と最後にこぼしていた。利益になんてつながらなくていい、このような依頼が少しでも減ることを、彼は日々祈っていた。
(C)写真AC
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(執筆者: 丸野裕行) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか
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