エレキがなかったら、現在のポップスは存在しなかった? 濃すぎるエレキ・ギターの歴史本に、なぎら健壱もノックアウト!
僕たちが愛してやまないエレキ・ギターは、
一体いつ頃、どのようにして生まれ、
進化を遂げてきたのか?
このたび発売された『エレクトリック・ギター革命史』(リットーミュージック刊)には、その130年の歩みが史実に基づいて克明に記されています。そして、全544ページにわたる本書を読めば、エレキ・ギターがいかにアメリカの音楽の発展に密接していたのかを実感するはずです。待望だった電子版の発売を記念し、フォーク・シンガーであり、カメラ、自転車、落語など、幅広い趣味を持つなぎら健壱さんに、担当編集の坂口が本書の読みどころを聞いてきました。
今まで、ここまで長いギターの歴史を書いた人はいないんじゃないかな。
坂口 僕が担当したこの本、インプレス(リットーミュージックはインプレスグループの一員です!)のスタッフから「なぎらさんが興味を持っている」という情報をキャッチしまして……。
なぎら そうそう。面白そうな本だと思ったから、「社販でいくらになるの?」って聞いたの(笑)。
坂口 ありがとうございます(笑)。僕は以前『ギター・マガジン』の編集部にいたので、ギターの歴史にはそこそこ詳しいという自負があったのですが、この『エレクトリック・ギター革命史』(原題はPlay It Loud)は新発見がとても多かったんです。面白いことがいっぱい書いてあるのに、これを広めないのはもったいない! と思いまして、今回なぎらさんにお話を伺いにきました。
なぎら まず目次に目を通したときに、ロック的なものだけではなく、チャーリー・クリスチャンやレス・ポール、ボブ・ディランのことまで全部入っていた。そこを見たときに、これは面白そうだから全部読んでみようかなという気持ちになったんです。同時に、今までここまで長いギターの歴史を書いた人はいないんじゃないかなと。スパニッシュ・ギター(抱えて弾く通常のギター・スタイル)がハワイアン・スチール(膝に乗せて弾くスタイル)から来ているのも知らなかったし、へーっと思うことも多かった。もちろんギブソンやフェンダーは知っているんだけども、どのメーカーが最初にやり始めたのかはよく知らなかったし。これを読んだときに、へーそうだったんだーって驚きは多かったですよね。
坂口 なぎらさんはアコースティック・ギターのイメージが強いですけど、エレキ・ギターもいろいろな種類を集められていたりするのでしょうか?
なぎら ない(笑)。エレキは2、3台しかない。僕はステージでエレキは弾かないから、必要に応じてのものだけしか持ってないんですけど、「エレキやっておけば良かったかなー」って思うことはありますよ。当然歌をやっているから興味がないわけではない。
坂口 エレキの歴史は、リッケンバッカーやナショナルを立ち上げたジョージ・ビーチャムらが、リゾネーター・ギターを開発したことが発端となるわけですが、1920年代当時の悪名高き大資産家、テッド・E・クラインメイヤー(夜な夜なパーティーを開催して乱痴気騒ぎをしていたらしい)という人物が、ギター開発のために出資していたという話は、なかなかドラマチックでしたよね。そもそもエレキ・ギターの歴史は、アコースティックの音をもっと大きくしようという中で成り立ってきたと言われていますが。
なぎら そもそも、エレキはそんな必要にかられてではなかったと思うんですよ。それより実験的なものだった。最初は、音の大きさ云々というより、それを使ってみたい=新しいものに挑戦してみたい、という姿勢だったと思うんです。そもそも“ギター”は人間が生きる営みには必要ないかもしれない。“音楽”は必要かもしれないけど。いわゆる冷蔵庫や洗濯機とは違いますよね。そういうのって、平和な時代にしか生まれてこないんですよ。真剣に自動車を発明して、というのとはまた違って、あくまで趣味の延長なんだよという作り方に余裕が見えたんです。それがやっぱり面白いなって。
「エレクトリック・ギターは資本主義の象徴だ。彼らは裏切り者だ」は言い得て妙
坂口 なぎらさんの本にはたくさんの付箋が貼られていますが、どういったところに目印を付けたのですか?
なぎら まずレス・ポールですね。こんなにレス・ポールがエレキ・ギターに対して偉大な力を与えたとは知らなかったですね。我々はエレキありきのレス・ポールかと思ってたら、違った。レス・ポールありきのエレキだった。あとは、マール・トラヴィス。マール・トラヴィスの影響で、チェット・アトキンスが登場し、チャック・ベリーにつながって、ビートルズに……。そうやって世界的に認知されていって、ボブ・ディランがエレキに持ち替えた。本では、その際のコメントとして「エレクトリック・ギターは資本主義の象徴だ。彼らは裏切り者だ」(本書P.312より引用)とある。これが、とても言い得て妙だなと。これが日本ではエレキが不良と呼ばれた所以なんじゃないかな。
坂口 外国から見たエレキ・ギター史と日本から見たエレキ・ギター史の違いも興味深いですよね。日本だと、圧倒的にジミ・ヘンドリックスがナンバーワンにあるけど、この本の中では「ボブ・ディランがエレキを持ち、その横でギターを弾いていたマイク・ブルームフィールド」の部分に、すごい熱量を感じます。
なぎら そういう意味では、チャック・ベリーにも大きな違いと感じる。日本の風土が産んだものとアメリカのポップ史は違うなということがよくわかりましたね。ボブ・ディランのくだりが長いのは、「エレキというものは」ということを説明するために長いのかな? それまでは金持ちの象徴だったのが、そこで変わるという意味で。
坂口 ボブ・ディランは、なぎらさんにとっても大きな存在ですか?
なぎら 大きかったですけどね、今は面白くともなんともなくなった。金なくなったからって日本に来るなんて、ダメですよ(笑)。クラプトンもね(笑)。
坂口 60〜70年代のクラプトン、ジェフ・ベックなどが使用した楽器についても書かれていますが、日本のギタリストには最も人気がある分野だと思われます。
なぎら うん。でも、ブルースをあれだけのものしたっていうのは、やっぱりB.B.キングですよね。
坂口 なぎらさんはフォークからカントリー方面に、どんどんルーツに遡って音楽を聴いていったそうですが、ある意味どんどんエレキから離れていくような感じですよね。
なぎら 日本のフォークの中で、これまでのアメリカの模倣じゃないものをやりましょう、日本語でやりましょう、という革命が起こった。おれはそこに傾倒していったわけです。そのときに、ボブ・ディランを日本語でやったり、高田渡さんとかいてね。「じゃあ本物はどうなんだろう、ボブ・ディランを聴いてみよう」と聴いているうちに、ボブ・ディランは彼が編み出した方法ではなく、これには兄貴分がいるんだぞと。ランブリン・ジャック・エリオットであり。その師匠がウディ・ガスリーであり。どんどん遡っていくと、絶対にカーター・ファミリーが出てくるんですよ。で、カーター・ファミリーを聴いてると、ジミー・ロジャーズが出てくる。それ以上いくと、今度は、アメリカ大陸じゃなくなっちゃう。アメリカ大陸に持ち込む以前の話になってくるんです。
坂口 なるほど。この本は、なぎらさんのルーツや求めているものにも言及されていましたか?
なぎら そうですね。なぜ、カントリーをやってる連中がギターを持ち始めたのかなという疑問はあったわけですよ。スティール・ギターも使ってましたけど、基本は生ギターだった。そういうウェスタン・シンガーがいる中、当時儲かってた連中はスウィング・ジャズをやっていた。それが合体してウェスタン・スウィングというのができるんですよ。そのときに、スウィングだから音が大きい、エレキじゃないと勝てない、となる。なるほど、だからエレキだったんだ! って分かりましたね。さらにロックを混ぜたロカビリーが出てくる。バディ・ホリー、エディ・コクランなどの名前も出てきますけど。で、プレスリーなんですよね。プレスリーは完全にロック・スタイルで始めるわけじゃないですか。もともとはカントリーだったわけですけど、そこはエレキありきだったんですよね。
坂口 この本では、ジミ・ヘンドリックス、クラプトン、ジェフ・ベック、ジミー・ペイジ、ヴァン・ヘイレン、スティーヴ・ヴァイ、ジャック・ホワイト……と、その後に脈々と続くギター・ヒーローの系譜が記されています。ただし、最近はギター・ヒーローと呼べる存在が少ないわけですが、それにはギター自体の進化も必要なのかも? と感じました。この先、エレキ・ギターはどのような進化を遂げる可能性があると思いますか?
なぎら ないですね。高見沢(俊彦)君みたいな形になるだけ(笑)。例えばカメラもそうだけど、ある程度のレベルになっちゃたったら、もうその付加価値をつけるしかないんじゃないかな。ギブソンのロボット・ギターのように自分でチューニングするとかになっちゃう。あと、電波で飛ばすやつが出てきたりとか。ああいう付加価値でしか、もうないでしょうね。足元にいろいろ置かないようにもなるでしょう、多分ね。そういうものに、デジカメなんかもたどり着いたから、付加価値をつけるようになっちゃったんですよね。音質がどうのこうのは、もう行くとこまで行っちゃったから。だから高見沢さんのギターもその付加価値のひとつかと思いますよ。
坂口 最後にこの本のお薦めポイントを教えて下さい。
なぎら エレクトリック・ギターの歴史は、ポップス音楽の歴史だと思う。だからポップスを少し深く知ってみようという人は、絶対に読まなきゃだめだと思いますし、目からウロコっていう、そうだったのかーというのが知れる。エレキ・ギターがなければ、今のポップスは存在しなかったなと。それ以前のジャズもブルースもカントリーも、これらを三大というなら、ロックンロールもそうだけれども……すべて存在しなかったんだなって。エレキ・ギターの聖書だといってもいいくらい。ただし、これ以上、この本は厚くならないと思うんですよ、これ以降は人物・ギタリストの話になっていくから。だから、読まなくちゃダメなんだと思う。
撮影:リットーミュージック
『エレクトリック・ギター革命史』
著者:ブラッド・トリンスキー、アラン・ディ・ペル
訳者:石川千晶
定価:本体2,500円+税
発売:リットーミュージックPROFILE
ブラッド・トリンスキー
世界一の発行部数を誇るミュージシャンのための専門誌、『ギター・ワールド』誌の編集長を25 年間に渡って務める。ジミー・ペイジの自伝『奇跡~ジミー・ペイジ自伝(Light & Shade: Conversations with Jimmy Page)』の著者でもある。アラン・ディ・ペルナ
長年『ギター・ワールド』誌や『ギター・アフィショナドウ』誌の執筆陣に名を連ねるほか、『ローリング・ストーン』誌、『クリーム』誌、『ビルボード』誌、『ギター・プレイヤー』誌など、一流音楽雑誌でもライターを務める。インタビューを通して多数のギタリストのスタイルを掘り下げた『Guitar Masters: Intimate Portraits』の著者でもある。石川千晶
プロモーター時代に忌野清志郎with Booker T &The MGs のコーディネーターを務める。MSI 盤を中心に対訳多数。一時ヴィヴィドにも所属。併行して92 年よりギター・マガジン誌の翻訳に着手。過去にはローリング・ストーンズやスティーヴィー・レイ・ヴォーンの別冊ムックも担当。
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