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『ロスト・イン・パリ』 ドミニク・アベル監督&フィオナ・ゴードン監督インタビュー

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lostinparis_NeoL photography : Satomi Yamauchi

アベル&ゴードンとして知られるベルギー出身のドミニク・アベルとカナダ出身のフィオナ・ゴードンは、実生活では夫婦の道化師だ。そんな彼らが製作・監督・脚本・主演を務めた『ロスト・イン・パリ』が8月に公開される。主人公は、カナダの小さな村からパリへやってきた不安だらけの女性。なぜか彼女につきまとう風変わりなホームレスの男性と共に、行方不明になった年老いた叔母を探して街中をさまよう。

ユーモアの中に孤独や死といったテーマが散りばめられた本作は、ダンスを取り入れたおどけ芝居である“バーレスクコメディ”の手法で制作され、遊び心に満ちた仕掛けや美しい映像が視覚的に楽しい作品だ。今年1月に89歳で死去した女優エマニュエル・リヴァの愛らしいコメディエンヌぶりも見逃せない。

——ダンスを取り入れたおどけ芝居である“バーレスクコメディ”というジャンルに親しみがなかったのですが、とても新鮮で面白かったです。このストーリーをこのようなスタイルで描こうと思ったきっかけは?

ドミニク・アベル(以下、アベル)「 長編4作目の本作では、自分たちの原点に戻りたいと思いました。原点というのは、身体を通じて表現すること、そして、そこで笑いを表現することです。ですから、あまりストーリーに頼るのではなく、もっと自由に物語を作っていこうと思いました。劇中では面白い人、おかしな人たち、面白い身体、大都会の中で方向を見失ってしまった身体というものを表現しています。そして、孤独、死、助け合いといった、いつも僕らが大切にしているテーマを扱っています」

——少し悲しかったり、切なかったりするストーリーが、ユーモアによって救われている部分もあるように感じました。最近はコメディアンのオマール・シーとチャップリンの孫のジェームス・ティエレが伝説の芸人を演じた『ショコラ 君がいて、僕がいる』が話題となっていましたが、昨今の喜劇俳優の活躍は、この悲惨な時代を反映しているのでしょうか?

フィオナ・ゴードン(以下、ゴードン)「確かに暗い時代なので、より軽やかな作品や自由な作品を求める気持ちがあるのは間違いないと思います。ただ、実際に制作されているのはシリアスな映画ばかりで、本作のような軽やかな作品は、ヨーロッパではむしろ少数派なんですよね。それだけに、そういった作品を観たいと感じる人がたくさんいるかどうかは難しいところです。『ショコラ 君がいて、僕がいる』は、黒人で初めて喜劇の分野で重要な役どころを得た人を描いていて、コメディの才能のある役者さんたちが起用されていますが、内容的にはコメディではないですしね」

——レストランで突然リズムに合わせて踊り出すシーンなど、本作にはストーリーの中にフィジカルな動きがたくさん取り入れられています。脚本上では、どこまで振付があらかじめ決められているのですか?それとも、即興の動きが多いのでしょうか?

アベル「僕たちには20年に及ぶ舞台での経験があるので、感覚的に面白くなる可能性のあるアイデアがわかるんです。シナリオ自体はシンプルなもので、たとえば「ダンスをしながら恋に落ちる」とか、そのくらいしか書いていません。その後、長い時間をかけてリハーサルを重ねることで、ダンスのシーンを作り上げていきます。たとえば10曲ぐらいタンゴの曲を選んで、実際に踊ってみて撮影するんです。5、6曲踊った後で見直すと、大抵の場合は全然ダメ。ただ、2秒くらい良いところがあるので、その2秒をキープして、他の部分をもう1回やる…そうやってどんどん重ねていって、次は3秒から4秒くらい、といった感じで続けていくと、2年くらい経つとああいうシーンが出来上がります」

lostinparis2_NeoL photography : Satomi Yamauchi

——2年!それはすごいですね。

アベル「実際の撮影の段階では役者がそろうので、たとえばスピーカーに合わせてみんなで飛び上がると面白いというようなアイデアは、そろってやってみて出てきたものです。そういったことは脚本を2人で書いている時点では思いつかなかったですし、そういった意味では即興の動きも取り入れています」

——レストランのシーンは特に観ていて楽しかったです。

ゴードン「私たちも気に入っています。実はもし可能であれば、全編をあのように撮りたいんです。つまり、シナリオはすごく単純なもので、現場でいろいろ試しながら手探りで作り上げていくという方法を取り入れたいのですが、やはり映画の資金を集めるためには、どうしても書いた脚本を見せなければならないので、仕方なく書いているという感じです。それがクリエイティブな面をちょっと限定的にしてしまっている部分はあると思います」

アベル「チャップリンの『街の灯』は、確か3年くらいかけて撮影されたんですよね。ほとんどシナリオがなくて、現場で撮っては試して、またやり直しという作業を繰り返して作った映画だと思います。それがバーレスクコメディを作る最高の方法だと思うのですが、今となっては不可能ですね」

——言葉のない、フィジカルな動きによる感情表現が興味深かったです。

アベル「実は僕らは、黒澤作品をはじめとした日本の映画が大好きなんです。彼の作品ではフィジカルなアプローチが大切にされていますよね。それはレアなことで、アメリカやヨーロッパの作品ではあまり見られません。『七人の侍』を観ても、農民の描き方だとか、各シーンが非常にフィジカルに描かれていて興味深いです。僕に言わせれば、ああいったアプローチはバーレスクや映画の始まりに近いものなのです。

——おふたりの演技はもちろん、劇中ではマーサ役のエマニュエル・リヴァさんの演技がとてもチャーミングでした。

ゴードン「私たちの親も年を取ってきて、ドミニクのお父さんは意識がだんだんはっきりしなくなってきましたし、私の母はどちらかというと身体的に衰えてきました。西洋では、高齢者は社会の重荷だという意識があるんです。そんな中で、もっと高齢者の方々を称えたい、彼らの価値を語りたいという気持ちが強くありました」

——なぜエマニュエル・リヴァさんをマーサ役に抜擢したのですか?

ゴードン「最初は別の役者を考えていたのです。というのも、私たちは普段はアマチュアの役者を好んで起用します。アマチュアの役者は自分のやっていることをうまくコントロールできないので、そこで感動や面白みが生まれるんですよね。でも本作では、これだけ高齢のアマチュアの方を見つけるのが難しかったですし、2週間の撮影期間に耐えられる人もなかなかいなかったので、プロの方を探しました。
そして、ある人が『ニューヨーク・タイムズ』紙が作った、エマニュエル・リヴァが出演した絵葉書ビデオという動画を教えてくれたんです。彼女は非常にシリアスでドラマティックな女優として知られていたのですが、その動画を観ると、すごくいたずらっぽかったり、チャップリンの真似をしたり、スーパーマンのケープをかぶっていたり、ちょっと踊ってみたり、おどけてみたり、遊び心のある人だということがわかって、彼女だったらうまくいくかもしれないと感じました」

lostinparis3_NeoL photography : Satomi Yamauchi

——リヴァさんは今年1月に亡くなられたそうですね。本作の撮影現場で印象的だった思い出はありますか?

アベル「共演のピエール・リシャールはヨーロッパではコメディの大スターなのですが、エマニュエルと面識はなかったそうです。2人はベンチに座って足でダンスするシーンをとても喜んでくれました。あのシーンの撮影が終わった後、ピエールがエマニュエルに『すごく嫌なヤツだって聞いていたんだけど、全然そんなことないね』と言ったんです。それを聞いたエマニュエルが、14歳の少女のような笑顔で大笑いしていたのが印象的でした」

ゴードン「実はエマニュエルはピエールとの共演をすごく喜んでくれたんです。彼女自身も身体が弱っていたのですが、劇中のマーサも2日間くらい街をさまよって疲れ切っているという設定だったので、メイクはなしと決めていました。それなのに、ピエールと一緒のシーンの撮影日は、ちょっと口紅をして、アイメイクまでして登場したのです。私が『メイクしてるでしょ!?』と聞いたら、『してない、してない!』とか言って(笑)。でも、こっそりメイクしていたのがかわいかったです」

——おふたりは今後、どのような作品を手がけていきたいですか?

ゴードン「それはどんなアイデアが出てくるかにもよります。役者を前にしてアイデアが生まれてくるし、リハーサルをしながらキャスティングも少しずつ固まってくるので、あらかじめどのような作品になるか予測するのは難しいんです」

アベル「実際に撮影をする街の建築様式や雰囲気も関係してきます。たとえば東京でロケハンをするとしたら、服や建物から色を探すと思うんです。作品のテーマは、人生において自分たちの心を打つものや笑わせてくれるもの、逆に傷つけられるもの…そういったものによって決まってくるので、今のところはまだわかりません。次回作としては、スリラーとか推理的な要素のある作品を考えています」

——ダンスの入ったスリラーですか?

ゴードン「多分ね(笑)」

アベル「それが僕らの好きなスタイルなんです(笑)」

『ロスト・イン・パリ』
8月5日(土)渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
監督・脚本・製作:ドミニク・アベル、フィオナ・ゴードン 出演: フィオナ・ゴードン、ドミニク・アベル、エマニュエル・リヴァ、ピエール・リシャール、フィリップ・マルツ 2016 年/フランス、ベルギー/フランス語、英語/83 分/カラー/1:1.85/5.1ch/原題:Paris Pieds Nus/英題:Lost in Paris/日本語字幕:横井和子 後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本、ベルギー大使館 配給・宣伝:サンリス ©Courage mon amour-Moteur s’il vous plaît-CG Cinéma
http://senlis.co.jp/lost-in-paris/

ドミニク・アベル 1957 年ベルギー生まれ。

フィオナ・ゴードン 1957 年、オーストラリア生まれ、カナダ人。
フランス、パリの国際演劇学校にて出会い、1987年に結婚。ベルギーのブリュッセルや フランスのパリを拠点に道化師として活躍。80年代から創作演劇で世界各地を巡業。90 年代から、同じ道化師出身の監督ブルーノ・ロミと3人で短編映画の制作を開始。2005年、長編映画第1作『アイスバーグ!』を発表し、世界中の映画祭で数々の賞を獲得。
2008 年には長編第2作『ルンバ!』でカンヌ国際映画祭の批評家週間に参加。日本では、2010 年『アイスバーグ!』と『ルンバ!』が公開された。2011 年に発表した『La Fée』はカンヌ国際映画祭にて封切られ、世界40カ国以上で配給。道化師出身ならではの喜劇を身体表現で魅せる作風は、しばしばチャップリン、タチ、キートンらの名を挙げて評されると同時に、それらどれにも属さない独創的なスタイルとして世界の映画シーンで注目されている。

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