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伊集院静が考える”旅の流儀”とは?

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伊集院静が考える”旅の流儀”とは?

 「この世に生まれてきて、しなくてはならないことはありますか?」 そう問われたら、あまりパッとしない人、たくさんのことが浮かぶ人、など三者三様となることでしょう。

 明確な答えなどない問いに「旅」と回答するのは、『受け月』『機関車先生』など多数の著書を持つ直木賞作家の伊集院静氏。本書『旅人よ どの街で死ぬか。 男の美眺』には、50代のときに「ここだけは訪ねてみたかった」という場所に足を運んだ際の紀行文とともに、自身の旅のあり方も詰まっています。伊集院氏は旅に出た理由について、こう語っています。

 「それは人生の終着がおぼろに見えはじめたとき、やり残していることだらけであるのに気づいたからです。しかしそれらのことは五十歳からはじめても、とてもすべてはやり遂げられないとわかりました。そこで、死ぬまでに見ておかねばならない場所、街、風景のことを思いました。それならできるかもしれないと思い、旅発(たびたつ)ことにしたのです。」(本書より)

 伊集院氏にとって旅が人生の重要な位置を占める背景には、”20世紀の最も重要な作家のひとり”とも称されるアイルランド出身の作家、ジェイムズ・ジョイスへの想いがありました。『ユリシーズ』『タブリンの市民』などの作品で知られ、今なお多くの人に愛されるジョイスを、伊集院氏も若い時から愛読していたといいます。

 「ジョイスが立っていた橋の上、黒い海を眺めていた浜辺、競馬のブックメーカーの店でためらっていた街頭……そこに自分も立ってみたいという衝動にかられたから、私は旅に出たのです。そうして、ジョイスが作り出したアルコール依存症の主人公がさまよった路地を歩いてみたかったのです。」(本書より)

 実際、本書でもアイルランドを訪れています。伊集院氏はジョイスの短編集『ダブリンの市民』の中の『counterparts(対応)』という作品がお気に入り。給与の前借りが叶わず質店に時計を入れて現金を得て、金がないにもかかわらず酒場で友人にふるまってしまう男。そして、酔いに物足りなさを感じて帰路に就く話です。伊集院氏は部屋の窓辺の椅子に腰を下ろし、ダブリンの街に思い馳せながらボトルを飲み干したといいます。

 そのようにして各章で作家の足跡をたどりながら自身との接点、そして人生を見つめ直す伊集院氏は、旅の流儀についてこう語ります。

 「その土地に足を踏み入れたら、目で見たもの、見えたもの、歩きながら身体に伝わってきたもの、酒でも食事でも口に流しこんだもの、耳から入ってきたもの、酒でも食事でも口に流しこんだもの、耳から入ってきた音色、犬のように鼻を鳴らして嗅いだ匂い、肌で感じたもの……それらすべてを実感だけで捉えるのが、私のやり方です。」(本書より)

 日常の忙しさに流されがちで自分を見失いそうになっているなら、本書を参考にして、この夏、旅に出かけることで本当の自分に会い行ってみてはいかがでしょう。

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