マラルディの角度

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有機化学美術館・分館

今回は佐藤健太郎さんのブログ『有機化学美術館・分館』からご寄稿いただきました。

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マラルディの角度

“マラルディの角度”という言葉をご存知でしょうか。イタリア生まれの天文学者であるジャコモ・フィリッポ・マラルディは、六角形を成す蜂の巣の底面に、ひし形が見えることに気づきました。彼がこのひし形の角度を算出したところ、鈍角のほうが109°28’になったことから、この角度を“マラルディの角度”と呼ぶようになったのです(蜂の巣の図は前川淳氏 *1 のブログにあります)。

*1:「蜂の巣の末端」 2011/09/17 『前川淳 折り紙&かたち散歩』
http://origami.asablo.jp/blog/2011/09/17/6105645

この角度にわざわざ名前がついているのは、自然界のいろいろなところに顔を出す数値であるからです。たとえばぶくぶくと出てくるあぶくにも、この角度が出てくることがあるそうです。これは、膜の表面積が最少になるような構造に、この角度が現れるからです。

ちょっと違うところでは、辺の比が1対ルート2の長方形(白銀長方形というそうです)の、辺の中点を結んで得られるひし形の鈍角が、まさにこのマラルディの角度になります。白銀長方形は、いわゆるA4やB5のコピー用紙、雑誌などによく用いられるものですから、極めて身近にもマラルディの角度が潜んでいることになります。

マラルディの角度

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ちなみに、戦国時代の甲斐武田氏の家紋である、“武田菱(たけだびし)”も、測ってみるとほぼこの形のひし形であるといいます。偶然なのかどうなのか、ともかく家紋というものは、数学の目で見ても非常に面白い対象であるようです。

マラルディの角度

武田菱(たけだびし)
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このひし形が12枚集まってできるのが“ひし形十二面体” *2 と呼ばれる多面体で、実はこれもなかなか個性的で面白い立体です。この立体を積み上げると、隙間なく空間を埋め尽くすことができるという、珍しい“特技”を持っているのです。

*2:ひし形十二面体 『Wikipedia』
http://ja.wikipedia.org/wiki/菱形十二面体

そしてこの形は結晶にもしばしば現れ、たとえばガーネットの結晶はこのひし形十二面体構造です。有機分子でも、ヘキサメチレンテトラミンは見事なひし形十二面体の結晶を作ることが知られています。

マラルディの角度

ガーネットの結晶『Wikipedia』より
http://ja.wikipedia.org/wiki/ガーネット
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マラルディの角度

ヘキサメチレンテトラミン。ひし形十二面体に似た構造。
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実のところこの角度は、有機化学者にとっても大変に重要な角度です。いうまでもなく炭素原子の結合角が、まさにこの109°28’であるからです。下図に示すとおり、メタンの水素-炭素-水素の角度は、ぴったりマラルディの角度になっています。

マラルディの角度

メタンの結合角
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https://px1img.getnews.jp/img/archives/551.jpg

なぜメタンはこの形になるか? きっちり説明しようとすると量子力学計算などが出てきて大変なことになるのですが、実は原理は単純です。炭素についた4個の水素原子は互いに反発してはじき合い、できるだけお互い遠ざかろうとします。そして最も遠い位置に落ち着いたのが正4面体構造であり、マラルディの角度であるわけです。

蜂の巣、シャボンの膜、そしてメタンの構造は、いずれもある一定の制約の中で最適な形は何か、という問題の解として現れます。マラルディの角度はいわば“自然の摂理”から導き出されるものであり、筆者のような素人にも数学の美しさを垣間見せてくれるように思えます。

マラルディの角度

白銀長方形のメモ用紙から、簡単な折り方でメタンの原子模型(正4面体スケルトン)が作れる。
(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)
https://px1img.getnews.jp/img/archives/662.jpg

ひし形十二面体など、このあたりはいろいろ語りたいことがあるのですが、まあこの辺にしておきましょう。もし興味のある方は、前川淳氏の『本格折り紙√2』 *3 などをお勧めしておきます。知的好奇心を満たしてくれる、楽しい本です。

*3:『本格折り紙√2』前川淳著 日貿出版社
http://nichibou.shop-pro.jp/?pid=16520600

執筆: この記事は佐藤健太郎さんのブログ『有機化学美術館・分館』からご寄稿いただきました。

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