【寄稿連載】第八話 ホームレスのプライド
今回は松田良一さんのブログ『ホームレスのおっちゃんの溜め息』からご寄稿いただきました。
第八話 ホームレスのプライド
その日の会合は物別れに終わった。今までにも立ち退き命令は何度もあったが、それでも何年間も住んできたところである。急に出ていってくださいと言われても、おっちゃんたちが戸惑うのも無理はないだろう。
都との話し合いを、ホームレスのおっちゃんたちの代表としてしてくれている支援団体も何組かいるのだが、その人たちもきちんと要望を書面にし、都に出して話し合うべきという団体と、都庁までデモ行進をして、徹底的に都と戦うべきだという団体に分かれている。
特に昔から何年もこの公園に住み着いている人たちの多くは、後者の団体の意見に賛同している。
なかには公園をバリケードで囲んでしまって戦うという者まで、でてきていた。
そのため第一回目の会合は、互いの意見を言い合うだけでなんの解決策も出ないままであった。
とりあえず、その日は次の都との話し合いの日までに、もう一度会合をする日を決めてお開きとなった。
神さんたち三人も、自分のテントに戻っていった。そして神さんは、テントへ着くと二人にどうするつもりなのか聞いてみた。最初に口を開いたのは黒さんだった。
黒さんはこの三人の中では一番年上だし、このテント生活も一番長い。そのためか黒さんは、徹底的に都とやりあうべきだという。やはりプライドがあるために、生活保護などの支援をもらうのにも抵抗があるようだった。ある年齢に達したホームレスのおっちゃんたちの中には、こういった国だけには世話になりたくない、という想いはいまだに根強く残っているのである。
もう一人の前さんは、どっちでもいいといった。酒が飲めるならどっちでもいいと。前さんみたいに、ホームレスのおっちゃんたちの中にはなかなか酒から抜け出せない人も多い。それにお酒が原因で人間関係がうまくいかなくなり、ホームレスになった人たちも多いのである。まあお酒が全部悪いとは言えないが。原因の一つではあるだろうと思える。
神さんはこの三人のなかでは一番若いのである。
それゆえに神さんは、この機会をホームレスから脱出するいいチャンスだと思っていた。だが、できれば今いるこの三人でホームレスから脱出したいと思っている。
そこで神さんは自分の想いを二人に打ち明けようと決心した。それはなかなかに難しいのであった。
続く
執筆: この記事は松田良一さんのブログ『ホームレスのおっちゃんの溜め息』からご寄稿いただきました。
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