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『iPhone/iPad』で使える3700円の放射線センサー『ポケガ』はいかにして生まれたか?

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半導体ガイガーカウンター『ポケットガイガーKIT』は、『iPhone/iPad/iPod touch』のイヤホンジャックに接続して放射線を計測できる放射線センサーだ。ふだんの生活で使うセロテープやアルミホイルを使ってかんたんなDIYで作れて、計測データは無料アプリ@『Pocket Geiger Lite』で表示・管理する。驚くべきことに、値段はたったの3700円(!)だ。原発事故以降、高額なガイガーカウンターや海外製の粗悪品が市場を出回るなか、リーズナブルで正確な線量計の開発に挑戦した非営利プロジェクト『Radiation-watch.org』のYang Stone氏にその思いを聴いた。

『ポケットガイガーKIT』は、ガイガーミュラー管の代わりにPINフォトダイオード8個を使用した、小型で軽量な放射線センサー。『FRISK』ケースを加工したものに、アルミホイルなどを使ったシールドでセンサーをβ線から遮蔽して収めて組み立てれば完成する。「え、こんな簡単に放射線が測れるの?」と意外に思われるかもしれない。しかし、オランダ国立計量局(Dutch Metrology Institute)による第三者認証を受けるなど、ていねいな校正も行われていて一般的な使用に充分耐えうる品質を保っているという。

『Radiation-watch.org』のコアメンバーは3名。今回の取材には、コアメンバーのYang Stone氏(ハンドルネーム)が応えてくれた。
 

人々の安心・安全を守る安価な線量計を作ろう


――『radiation-watch.org』にはどんな方が参加されているのですか?
半導体、センサ、宇宙線、土壌物理学などのエンジニアや科学者、デザイナーなど各分野の専門性を持つ人たちです。海外からの参加もあり、オランダ国防省やアメリカの専門機関の方なども動作テストなどに協力してくださっています。

また、『Facebook』グループでは、主婦など一般の方たちと専門家たちが入り交じって、『ポケットガイガー』の使い方から放射線の知識まで、様々な議論が行われています。

――プロジェクトを始めたきっかけについて教えてください。
福島で原発事故が起きてから、ガイガーカウンターは異常に値上がりしていました。また、人々の混乱に乗じて海外製の粗悪品が流通するなど悪徳商売が行われていて、人々の安心・安全が脅かされる状況が続いていて。

そこで、何人かの技術者が集まって「自分たちにできることは何か?」を考えた結果、短期間で安価に作れる線量計を出そうということになったのです。開発をスタートしたのは2011年5月10日、3か月後の同年8月10日には公式配布を開始しました。改良を重ねつつ、現在(2012年1月)までに1万個を販売しました。 

――開発費用はどうやって調達されたのですか?
当初は、自分たちでも持ち出したりとかなり苦労しました。クラウドファンディング『Kickstarter』による資金調達でやっと開発の目途がつきました。『Kickstarter』では現在までに167人の支援を受けて1万5000ドル(約115万円/2012年現在のレート)が集まっています。

――量産はどのような体制で行われているのでしょう。
いざ量産となると、私たちのようなボランティア団体には限界があります。幸いにも良い出会いがあり、デザイン・設計・試作・金型・成形といった一連のプロセスは株式会社日本高分子工業研究所(http://www.koubunshi-gr.com/)※にて実施いただくことが出来ました。また製造拠点は、震災復興の意味を込めて、宮城県 石巻市にあるヤグチ電子工業株式会社(http://www.yaguchidenshi.jp/)にお願いしています。また、設備提供は株式会社サン工芸(www.sun-craft.jp/company/index.html)から受けることができました。どの企業様も今回のプロジェクト理念に共感いただき、びっくりするようなスピードと技術力で製品を仕上げて下さいました。改めて日本の技術力の高さと底力を感じています。
※ 株式会社テクノアソシエ(http://www.technoassocie.co.jp/)100%子会社

 

精度が高く安価で愛着の持てる線量計


――測定の正確性を期するうえではどのような校正を行われたのでしょうか。
安全にかかわる製品ですから、いくら安くても精度だけは良くしなければいけません。設計時には、キャリブレーション(抜き取り検査)には相当な気を使いました。Cs-137標準線限を使った性能試験、福島第一原発から30kmエリアでのフィールドテストのほか、最終的にはオランダ国立計量局など海外の専門検査機関の協力で性能試験をしてもらえて、本当に助かりました。『Facebook』グループに投稿されるユーザーレポートをご覧いただければ、おおむね正しく動作していることを確認していただけるかと思います。

――DIYで制作するにあたって「難しい」という声はありせんか?
特にありません。主婦から年配の方まで、みなさん平均的に上手に仕上げられているようです。ご家庭やコンビニにあるもの(セロテープ、アルミホイルなど)だけで作れるよう工夫されているのが功を奏していると思います。

線量計というとデザイン性を排した物々しいものを想像しがちですが、みなさんデコレーションをしたり、オリジナルのカバーを手作りしたりと、DIYならではのカスタマイズをされている方も多いようです。もはや生活と放射線が切っても切れない世の中になってしまった以上、時計や文房具のように「信頼でき、愛着のもてる線量計」があっても良いのでは? という風に、逆に我々が勉強させられました。
 

パブリック/プライベート/シェアで線量情報を補いあう


――『ポケットガイガー』を通じて蓄積された全国の放射線データは、一般公開されていますか?
『iPhone』はGPSでかなり正確な位置情報がわかるので、風評被害防止や個人情報保護の観点から一般公開は行っていません。『ポケットガイガー』のユーザーだけがアプリ上で見ることができるようになっています。

――国が発表するデータと比較して、『ポケットガイガー』のデータの特徴は?
国や自治体の公表するパブリックなデータは、精度は高いものの密度が非常に疎らです。実際にモニタリングポスト周辺の放射線を測ってみると、1m離れただけで線量が大きく違うこともあります。たとえば、公園の中で測った時、入り口と奥の植え込み、あるいは遊具の付近などでは、値が全く違ったものになることも珍しくありません。

私たちは、こうしたパブリックなデータは、市町村レベルの全体的な傾向をつかむためには有用ではあるものの、児童公園の砂場や自宅の庭先といった生活に密着した線量を知るためには、もっともっと密な情報が必要だと考えています。

そこで私たちは、たくさんの人が持つ線量計によって得られるプライベートなデータを、さらにネットワークでシェアし合うことを進めています。パブリック/プライベート/シェアという3種類のデータそれぞれの特徴を生かしながら、線量情報をうまくコミュニケーションできるようにすることが目標です。
 

放射線に対する知識レベルを引き上げた


写真提供:株式会社日本高分子工業研究所(http://www.koubunshi-gr.com/)

――ユーザーの利用方法を見て、これまでの成果をどう捉えておられますか。
目に見えない放射線が見えるとだけあって、皆さんさまざまな場所を測定され、その情報をシェアしています。ほとんどの方は自宅を測って、その結果に「安心」される場合が多いです(福島や一部のホットスポットを除きます)。また、除染をしたときの効果を知る目安として使われている場合もあります。

また、たとえば関西圏には地質学的に放射線量が高めの都市があり、そういった場所では関東よりも高い線量が検出されたりしています。ユーザー同士が測って、共有することで、『ポケットガイガー』をきっかけとして放射線のことをどんどん勉強されているようです。変わったところでは、飛行中の航空機に持ち込んで、空の上の宇宙線を測っている方もいらっしゃいました。海外旅行先で測定している方もいらっしゃいます。技術的知識のある方はポケットガイガーを改造して、食品の測定にトライしています。

これは最初から意図していたわけではないのですが、このプロジェクトの成果は線量計たくさん配ることではなく、結果として市民全体の「放射線に対する知識レベル」を上げるという、教育的な成果があったのではないかと思っています。

――今後、Androidスマートフォンへの対応は予定されていますか?
とてもご要望が多いので、対応を進めているところです。3月までには何らかの発表が出来ると思います。

時計や文房具のように愛着のある線量計を身につけて暮らし、天気予報を見るように放射線量を確認して外出する――そんな暮らしが良いことかどうかはひとまず置く。しかし、起きてしまったことに対して「臭いモノにフタをする」よりも、事実を明らかにして理解して判断できるツールがあることは心強い。

『ポケットガイガーKIT』は『Radiation-watch.org』のウェブサイトにて販売している。対応機種は『iPhone 3G / 3GS / 4 / 4S』『iPad / iPad 2』『iPod touch (第2~4世代)』(いずれもiOS4.3以上)。

  
RADIATION WATCHプロジェクト
http://www.Radiation-watch.org/
 

 

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記者:

京都在住の編集・ライター。ガジェット通信では、GoogleとSNS、新製品などを担当していましたが、今は「書店・ブックカフェが選ぶ一冊」京都編を取材執筆中。

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