ポップ・ミュージック史を、アウトサイダーたちの魂の連鎖として掬い上げる。アヴァランチーズ『ワイルドフラワー』(Album Review)

ポップ・ミュージック史を、アウトサイダーたちの魂の連鎖として掬い上げる。アヴァランチーズ『ワイルドフラワー』(Album Review)

 残念ながら、メンバーの体調問題によりFUJI ROCK FESTIVAL ‘16への出演はキャンセルとなったものの、アヴァランチーズのニュー・アルバム『ワイルドフラワー』は素晴らしい作品だった。前作『シンス・アイ・レフト・ユー』(2000年)でポップ・ミュージック・ファンを魅了したサンプリング・アートの極致。そこから実に16年もの歳月を経て、彼らがやるべきことは何だったのか。そのことを、音像によって完璧に伝えてしまうアルバムだ。

 3500以上とも言われるマニアックなサンプリング音源の数々をコラージュし、甘く切ないラヴ・ストーリーを紡ぎ上げてみせた『シンス・アイ・レフト・ユー』は、もともと高い評価を得ていたが、いつしか伝説的な名盤として語られるようになった。ポップ史再考の時代と言える1990年代の最後に、最高のタイミングでリリースされたという幸運もあるだろう。何より、膨大な情報量や歴史の重さから解き放たれ、陶酔感溢れる作品に仕立て上げたアヴァランチーズの狂気スレスレのポップ・ミュージック愛こそが、称賛の的となっていたわけだ。

 新作『ワイルドフラワー』の驚くべき点は、あれから16年を経て時代のムードやポップ・ミュージックのトレンドが大きく移り変わったにも関わらず、アヴァランチーズの思想や創作マナーが何ひとつとして変わっていない、ということに尽きる。もちろん、時流に乗っていた前作と、今の時代にこの音を鳴らした新作とでは、モチベーションの在り方はまったく異なっている。『ワイルドフラワー』は、アナログで温もりのあるサウンド構築や、偏執狂的なレコード愛が、今日のポップ・ミュージック・ファンにも届くという確信に至って初めて、産み落とされたのである。

 そんな中でアヴァランチーズがこの2016年との接点を保っているのは、ゲスト・ミュージシャンの起用による力が大きい。リード曲「Frankie Sinatra」に招かれたダニー・ブラウンとMFドゥーム、「The Noisy Eater」のビズ・マーキー、「Live a Lifetime Love」のA.Dd+といったラッパーたちや、「If I Was A Folkstar」の遠慮がちな美声で夢想の彼方へと飛翔するトロ・イ・モワといったオルタナ・ヒーローたちの活躍が、しなやかな野花として現代に咲くアルバムを支えているのだ。

 極め付けは、現RTX/ブラック・バナナズのジェニファー・ヘレマや、ニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズ/グラインダーマンのメンバーでもあるフォーク・ミュージシャン=ウォーレン・エリスらが参加した「Stepkids」だろう。ポップ・ミュージック史を、生き難いアウトサイダーたちの魂の連鎖として掬い上げた『ワイルドフラワー』の美しさは、どこまでも深く、尊い。(小池宏和)

◎リリース情報
『ワイルドフラワー』
2016/07/20 RELEASE
UICO-1288 2,700円(tax in.)

関連記事リンク(外部サイト)

プリンスのトリビュートコンサート開催、プリンス・ファミリー集結か
アンダーワールド サマソニでの圧巻パフォーマンスのライブ音源DLスタート、あの名曲のライブ映像が解禁
今夏来日したアーティストたちが選ぶ“究極の夏の1曲”~マックスウェル、アレッソ、R5、トロイ・シヴァン

  1. HOME
  2. エンタメ
  3. ポップ・ミュージック史を、アウトサイダーたちの魂の連鎖として掬い上げる。アヴァランチーズ『ワイルドフラワー』(Album Review)

Billboard JAPAN

国内唯一の総合シングルチャート“JAPAN HOT100”を発表。国内外のオリジナルエンタメニュースやアーティストインタビューをお届け中!

ウェブサイト: http://www.billboard-japan.com/

  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。

記事ランキング