惨事に便乗する資本主義「ショック・ドクトリン」 日本のTPP議論も一例か

ナオミ・クライン氏

 カナダ人の作家、活動家にしてジャーナリストのナオミ・クライン氏の著書『ショック・ドクトリン』の邦訳書が今年9月に出版され話題を呼んでいる。「ショック・ドクトリン」とは、大惨事につけこんで実施される過激な市場原理主義改革のこと。「惨事便乗型資本主義」とも言われる。2011年11月8日のニコニコ生放送では、ナオミ氏の出演した「デモクラシー・ナウ!」の日本語字幕付き番組が公開された。

 ショック・ドクトリンの源は、「危機のみが真の変化をもたらす」と唱えたノーベル賞経済学者のミルトン・フリードマンだ。彼は1970年頃のアメリカで主流だった、政府が需要を作る必要があるとするケインズ主義的な経済介入政策に反対し、「大企業の自由」を掲げて規制撤廃や民営化などの自由放任政策を推進した。このようなフリードマンの徹底的な市場至上主義の主張について、ナオミ氏は「危険な思想」であると批判。2005年8月末にアメリカがハリケーン・カトリーナに襲われた際、ニューオーリンズにおいて、本来なら被災者救済に当てられるべき資金が公教育制度の解体と民間への移行に転用されたことを挙げ、「ショック・ドクトリンの典型例」であると語った。ナオミ氏は、

「市場至上主義を推進する最適の時は大きなショックの直後です。経済の破綻でも、天災でも、テロでも、戦争でもいい。人々が混乱して自分を見失った一瞬の隙をついて、極端な国家改造を一気に全部やるのです」

と警鐘を鳴らした。

■日本のTPP加盟は「ショック・ドクトリン」か

 スタジオでゲスト出演した経済学者で東京外語大学教授の中山智香子氏は、2004年12月のスマトラ沖地震によるスリランカの津波被害の際に起きたことを、ショック・ドクトリンの事例の一つとして紹介。もともとは立ち退きに抵抗していた住民が居た沿岸地域が津波によって壊滅した機会に乗じて、「復興」の名のもとに、大規模事業者がリゾート開発などに着手したという。

 中山氏は、現在日本でさかんに議論がなされているTPP(環太平洋連携協定)についても、仮に現段階で同協定を締結することになれば、力の弱い事業者はダメージを受けると指摘。

「津波や原発事故もあって完全にショック状態にあるところで、ある限られた地域の中とはいえ、自由な資本主義にさらされることになる。そういう意味では(TPP反対派の)中野剛志さん(京都大学大学院准教授)たちがTPPを『ショック・ドクトリン』と言っているのは基本的にはそうだなと思う」

と、野田佳彦首相がTPP交渉参加を推し進めようとしている中、震災後の日本にとってTPP加盟は「ショック・ドクトリン」の例に当てはまるとした。

◇関連サイト
・[ニコニコ生放送]「デモクラシー・ナウ!」の日本語字幕付き番組から視聴 – 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv68771811?po=news&ref=news#0:06:44

丸山紀一朗

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