「参加型」「ライブ感」投稿サイトが示す新しい小説の形 出身作家に聞く
「小説家になろう」や「カクヨム」など、人気を博す小説投稿サイトは、もはや出版業界において、新たな作家発掘の核になりつつあるのかもしれない。
だからこそ、「小説家になろう」への投稿をきっかけに『火刑戦旗を掲げよ!』でMFブックスからデビューしたライトノベル作家・かすがまるさんの話は興味深かった。
最初から「プロの作家」を志すのではなく、本当に楽しんで書く、最初から読者を楽しませることを念頭におき、それを実践しながら小説を書いていると言うからだ。
かすがまるさんへのインタビュー、最終回では「副業化する作家」についてお話を聞いた。彼自身も「塾の経営者と講師」という本業がある。その中で、「作家」とは春日丸さんの中でどういう位置づけになるのだろうか。
(取材・文/金井元貴)
■兼業作家は体調管理が万全?
――かすがまるさんのお話をうかがっていると、一言に作家と言っても幅広いバックボーンをお持ちなんですね。
かすがまる:そうですね。医師をされている方もいますし、電車の車掌、医学部の学生もいます。工場で働いている人もいますね。私の本業もかなり珍しがられます。
――「塾の経営者・講師」ですからね。
かすがまる:でも、私を含めて、皆さん自分の私生活とは全く関係のないネタで小説を書いています(笑)。自分をベースにして書くということは今のところないですね…。
――これは先入観だと思いますが、作家さんって不摂生な生活をおくっているイメージがあります。かすがまるさんが知る限りのライトノベル作家の体調管理方法についてお聞かせ願えますか?
かすがまる:まず私の話をすると、体調管理は第一です。というか、社会人ですからね(笑)兼業作家で社会人をしながらデビューをしている方はそこに気をつけます。体調を崩したら元も子もないですから。
逆に専業作家さんは体調管理が大変かもしれません。書き始めると夢中になってその世界に埋没してしまうこともありますから、もし作家一本でやっていたら、生活が荒む可能性はあるだろうなと想像することはできます。何も食べなかったり、ストレスを抱えたり。
大きな病気やガンは、どう暮らしていてもなるときはなるという考え方をしていますが、風邪や体調不良レベルであれば、それを管理するのは仕事のうちと考えます。兼業作家さんはだいたいそういう認識だと思います。
■作家は新しい副業の形になるのか?
――ストレスの発散はどのようにしていらっしゃるのでしょうか。
かすがまる:それは書くことですね。書くことが楽しい。その書いた物語を「小説家になろう」に投稿をして、反応があって、そのサイクルが私は好きです。
作家として商業的に売れることは一つの指標ですし、それを目標としてやっている作家さんもいますが、私はその部分のプライオリティは高くありません。
これまでの作家のデビューの仕方は、その賞にもよると思いますが膨大な文字数の一つの作品を書き上げて、賞に出すという形が最も一般的だったわけですよね。
ただ、一つの作品を仕上げるのに、おそらくは2、3ヶ月くらいはかかるでしょうし、溜めの期間が長い。だからその間、テンションを保ったり、書くモードに入っていないといけないという意味で大変なのだと思います。ようはマラソンの状態です。
「小説家になろう」は短距離走のようなところがあって、3000文字から4000文字程度でまとめて1話分としてアップしていく感じで、読者の反応を見ながら少しずつ変化を加えることがあります。
だから、一つの大きなプロットがなくても書いていけるし、ライブ感があるので書いていて楽しいんです。
――なるほど、作家と読者のコミュニケーションのようなものが存在しているわけですね。
かすがまる:そうです。作品は楽しまれてなんぼじゃないですか。反応があることが作家冥利に尽きるわけで、そこは投稿サイトならではの良いサイクルが生まれているのではないかと思います。
――お話をうかがっていて、今後、作家という仕事の副業化がどんどん進んでくるのかなと思いました。今はお金につながるというと、本を出すことがメインになりますが、課金制で自作の小説発表できるサービスもありますし。
かすがまる:そう考えてみれば、確かに新しい副業の形といえるかもしれませんね。
■兼業作家の目標は「お金ではない」
――最後にお聞きします。かすがまるさんの作家としての目標はなんでしょうか。
かすがまる:そうですね…。本音を言うと、又吉直樹さんは羨ましいですよ(笑)あれだけ売れる小説を書いてしまったわけですから。
もちろん、太刀打ちできないところはありますが、可能性がゼロではありません。書店に自分の本が置かれている以上は大ヒットの世界とは無縁ではないわけですから。その中で「これは自分なりに達成できた」というものを作りたいとは思っています。
でも、本業ではないので、金銭的な目標はあまりないです。本として形に残せただけでも充分目標は達成できていますから。
私には娘がいるのですが、その娘が書店で手に取った本が自分の作品であれば素敵だなと思います。そのときまで書き続けていたいですね。
――メディアミックスについてはいかがですか? 自分の作品がアニメ化、映画化されたりという。
かすがまる:面白そうだとは思いますが、作家はあまり関係なかったりするんですよ。メディアミックスは、ノウハウを熟知されているプロフェッショナルの方々が元となるネタを見つけられて、アニメ化、映画化となっていくので。
だから、作家はただ書くのみです。読者に楽んでもらえる作品をどんどん書いていきたいと思っています。
(了)
■取材後記
先日も小説投稿サイト「Arcadia」で投稿していた川原礫さんの作品『ソードアート・オンライン』の、ハリウッドでの実写ドラマ化が発表されるなど、小説投稿サイトから飛び出ていった作家の活躍がめざましい。
では、その中で活躍している人たちは、何を考えて小説を書き続けているのか。それが知りたいと思い、かすがまるさんにロングインタビューを試みた。
そして、かすがまるさんの言葉から通して見えてきたことは、「趣味」だからこそ書きたい小説に純粋に向き合える強みであったり、投稿サイトならでは読者との密なコミュニケーションから生まれる一体感だった。
まさに、小説投稿サイトで生まれる小説は「読者参加型」と言えるものなのだ。そして、こうした動きはライトノベルだけに関わらない。動画の世界も、イラストの世界も、そうだろう。
その場所で生まれ続けている「ライブ感」が、次の時代のヒットを生み出していく。そんな風に思えるインタビューだった。
また、現在、かすがまるさんは新潟市に拠点を置くアニメーション会社、新潟アニメーションが進めるプロジェクトに参加しているそうだ。そちらの展開も楽しみに待っていたい。
(左:新潟アニメーションの後関健一さん 右:かすがまるさん)
■かすがまるさんプロフィール
東京都出身。2014年1月よりネット上で連載開始した『火刑戦旗を掲げよ!』にて、小説家になろう大賞2014、MFブックス部門の優秀賞を受賞する。本職は学習塾の講師で担当は数学と国語。
■新潟アニメーション
新潟市に拠点を置くアニメーション制作会社。「ニイガタからアニメーションの新たな可能性を世界へ発信する」というビジョンを掲げ、2014年2月創立。現在、地元テレビ局の番組内アニメ制作、アニメCM制作、ゲームOPアニメ制作、遊戯機器アニメ制作、TVシリーズのデジタルペイントなどを手がける。近年ではとくに新潟におけるアニメのデジタル制作の体制構築に注力している。
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