ジャニーズから検察まで「タブーなし」 雑誌『噂の眞相』元副編集長が語る「野良犬ジャーナリズム」全文(前編)

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『噂の眞相』を手にする司会の青木理氏(左から2人目)

 政界、検察、皇室、ジャニーズ・・・「何でも叩いた」雑誌、『噂の眞相』。2004年に休刊したこの雑誌の元副編集長・川端幹人氏はニコニコ生放送「青木理のニュース現場主義『雑誌ジャーナリズムのチカラ』」(2011年10月10日放送)に出演。自ら駆けまわってつかんだ情報をもとに記事を書く「野良犬ジャーナリズム」の真髄を語った。

 番組のなかで川端氏は、『噂の眞相』で検察のスキャンダルを追ったことに触れ、検察の「俺たちのことを書けるところなんてねぇ」という傲慢さが、厚生労働省元局長が逮捕・起訴された「村木事件」のような「何をやったっていいんだという捜査を生んだ」と指摘した。

 以下、番組を全文書き起こして紹介する。

・[ニコニコ生放送]全文書き起こし部分から視聴 – 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv66272093?po=news&ref=news#00:00:11

■「北野誠クビ騒動」に見るファクトの二極化

「何でも叩いた」という『噂の眞相』元副編集長・川端氏

杉浦加奈(以下、杉浦): ニコ生放送をご覧の皆さま、こんばんは。アシスタントの杉浦加奈です。

青木理(以下、青木): こんばんは。

杉浦: こんばんは。よろしくお願いいたします。

青木: よろしくお願いいたします。

杉浦: 「青木理のニュース現場主義」第2回目となります今回は、「雑誌ジャーナリズムのチカラ」というテーマでお送りしていきます。新聞やテレビとは大きく異なる報道スタイルを持つ雑誌。スキャンダルやゴシップのイメージも強いですが、数々のスクープを生み出してきました。この番組では、そんな雑誌ジャーナリズムの舞台裏に迫っていきたいと思います。青木さん、私は「雑誌ジャーナリズム」と言うと、週刊誌ということをまず頭に思い浮かべるんですけれども、私は結構気になった記事などがあると、すぐ読みに行ったりします。最近だと「出版不況」という言葉も聞かれるようになっていまして、今後の雑誌ジャーナリズムがどのようになっていくのか、ちょっと聞きたいと思っておりますのでよろしくお願いいたします。

青木: 最近、気になった記事って何なんですか。

杉浦: 最近気になっているのはやっぱり原発問題ですね。いろいろと調べまして。

青木: 原発問題もそうなんですけど、特に最近、今回、川端(幹人)さんなんか詳しいんですけど、原発問題で新聞・テレビが全然だめだったので、そこで今回一番突っ込んでいったのが週刊誌だったんですね。

杉浦: そうでしょうね。

青木: 前回、新聞とかテレビのことをやったんですけど、新聞・テレビというと基本的に記者クラブがあって、記者クラブにいて記事を書くというのが非常に多いんだけど。だからそれが新聞とかテレビというのは記者クラブでエサをもらっている「飼い犬」みたいなものだとしたら、雑誌って一種「野良犬」というか記者クラブには一切属さないし、それからとにかくネタを自動的にくれる人が基本的にいないので、走り回って一からやらなくちゃいけない。

杉浦: 取材しなくてはいけない。

青木: うん。野良犬ジャーナリズム。野良犬だから、ちょっとお行儀の悪いスキャンダルもバンバンやる。それが雑誌のいいところなんですけれども。

杉浦: はい。本日はお2人のゲストに来ていただいております。ご紹介いたします。『噂の眞相』の元副編集長・川端幹人さんです。こんばんは、よろしくお願いいたします。

川端幹人(以下、川端): こんばんは。川端幹人です。

杉浦: 川端さんは今、どのようなお仕事をされているんですか。

川端: 今ご紹介いただいたように『噂の眞相』というスキャンダル雑誌をやっていたんですが、その後はなぜか若干メジャーな雑誌、隣の山口(一臣)さんの雑誌とかからも、コラムとかライターで若干お呼びがかかるようになりまして。そこで細々とライター、ジャーナリスト稼業をやっていたんですが、ここのところ原発事故、今まではわりとのんびりやらせてもらっていたんですけど、ちょっと本格復帰しようかなと思って最近、新書を仕上げたところです。

杉浦: ああ、そうなんですね。

青木: 今見ている人はたぶん、分からないかもしれないけど、『噂の眞相』というのはこういう雑誌で、僕は実を言うと大ファンだったので、実際僕も原稿を書いていたんですけど、こういう雑誌なんですね。休刊したのって2004年ですか?

川端: 2004年ですね。

青木: 2004年に休刊しちゃったんですけれど、本当、タブーなしという意味で言うと、ネットどころではなかったというか。本当にありとあらゆること、後でご紹介しますけど、政界から検察から、ジャニーズからバーニングから、何でも叩いたというか、叩きまくっているというよりも何でも書いて、きちんと情報をくれていたという意味で言うと、本当に貴重な雑誌で。これがなくなった時は、僕ら本当に悲しんだんです。これを編集長は今画面にも出てましたけど、岡留安則さんという人で僕も尊敬するジャーナリストであり編集者なんですけれど、実質的に最後の何年間かは、川端さんがこの雑誌を作っていた。ある意味、血も涙もない編集者というか、非常にすごいやり手の編集者なので、今日いろいろ話を聞けると思います。

杉浦: よろしくお願いします。

川端: よろしくお願いします。

杉浦: はい。そしてもうお一方。『週刊朝日』前編集長の、山口一臣さんです。

山口一臣(以下、山口): どうもこんばんは。

杉浦: よろしくお願いいたします。山口さんは今は販売部長をされているということですけれども。

山口: そうなんです。3月まで『週刊朝日』の編集長をやってまして、4月からは朝日新聞出版の販売部長ということで。それまでは『週刊朝日』のセールスマンと言っていたんですけれども、今は朝日新聞出版の売っている本、ありとあらゆるものを売っています。

青木: 石川知裕さんの本とか。

山口: はいはい、そうですね。おかげ様で9刷になりまして。

青木: 8万?

山口: いや、5万部ちょっとですね。

青木: そうですか。良かったですね。山口さんは、ニコ生ではみんなご存じだと思うんで、(今回は)検察批判とかいろいろ聞ければと思っていますので。

山口: はい、分かりました。

杉浦: よろしくお願いいたします。

山口: ワンパターンですみません(笑)。

杉浦: これから90分にわたって、じっくりお話をうかがっていきたいと思います。本番組では、皆様からのご意見、ご質問を募集しております。プレイヤー下のメールフォームよりお寄せください。沢山のご質問お待ちしております。なお、ツイッターをお使いの方は「#nicoron」をご利用ください。「ニコ論壇」の公式ツイッターアカウント「@nicorondan」もフォローしてくださいね。

 さて、それでは本題に入っていきたいと思います。ひとつ目のテーマです。「雑誌ジャーナリズムってなに?」。青木さん、「雑誌ジャーナリズム」っていう言葉、私はあまりなじみがないんですけれども、そもそも定義というものとかはあるんですか。

青木: 難しいですよね。そもそもジャーナリズムっていうもの自体を定義付けるのが非常に難しいんだけれども。ジャーナリズムっていうのは、基本的には起きている事実を、きちんと正確に幅広く伝えるという意味で言えば、新聞だろうがテレビだろうが、もちろんネットだろうが雑誌だろうが変わらないんだけれども。日本の場合、さっき言ったとおり記者クラブ制度というのがあって、やはり新聞・テレビというのはそれにまず縛られちゃうところがある。

 でも雑誌はまったく違う世界にきているっていうのもあるし、あと雑誌のほうが良くも悪くも「やんちゃ」なので、新聞やテレビがやらないような話をバンバンやるっていう意味で言うと、やっぱり一種独特の、たぶん世界的にもちょっと珍しいようなジャーナリズムの世界っていうのを雑誌が作っているところはあるんです。ただ川端さんが仰ったんですよね? 要するにネットでツイッターなんかをやり始めて、意外と雑誌で書いてあることをちょっと書くだけで、意外とネットではみんな知らなくて、「なんで川端さんそんなことを知っているんですか?」っていうような(ことがある)。だから雑誌ってあまり読まれてないのかなという気もするんだけど、どうなんですかね。

川端: それは実は「東京電力の批判を書こう」と原発事故以来ツイッターを始めたんですけど、過去に雑誌で報道されたこととか直近で雑誌で報道されたことなんかも書き込んだりしてたんですが、意外と驚かれるんですよね。「どこからそんなディープな情報を?」みたいな(感じで)。そのほとんどやっぱり、かなり世代的に断絶があって、たぶんそれが35(歳)なのか40(歳)を分岐点とするのか、あるいは20代後半なのかは分からないんですけども、まったく別の系が存在しているっていう感じがしましたよね。いわゆるネットとかの人たちの系と、いわゆる週刊誌を読んでいる人たち。もうちょっと話してもいいですか?

青木: 全然いいですよ。

川端: 例えばすごく印象的だったのは、原発事故の前に(タレントの)北野誠という人が、いきなり(番組を)クビになっちゃいました。クビというか・・・。

青木: いきなり消されちゃいましたね。

川端: 大阪の朝日放送のラジオ番組がいきなり打ち切りになって、そこでいきなり休養というか自粛になって、その後まったく理由が分からなくて、ネットでものすごく大騒ぎになって。ネットでその時支配していたのが、いわゆる「創価学会が潰した説」なんです。その時に何かよく分からないけど、(北野氏の)パートナーの竹内さんが、要するに最後「そうか、そうか」とかって何かそういうメッセージを発したと言うんで、全然関係ないんですけど。「創価学会の暗号だ」みたいな話になってものすごく盛り上がったんです。

 実際はそのバーニングプロダクションと音事協(日本音楽事業者協会)、要するに番組の中でいわゆるバーニング系のタレントのイニシャルトークをして、それを誰かが録音して、バーニングプロダクションと音事協に送りつけて、それを知ったバーニングプロダクションと音事協が抗議をして、そういう結果になったということなんですけど。要するに『週刊文春』と『週刊新潮』がそれを書くまで、ずっとネットでは「創価学会説」が支配していたわけです。それぐらいにファクトというのが二極化していっている。そういう感じはします。そこにもう交流はまったくなくて・・・。

■原発事故報道では新聞に勝った雑誌、何人が読んでいる?

番組冒頭に行われたアンケートの結果

青木: なんかいきなりものすごいディープな話になってるけど(笑)。雑誌って、例えば『週刊朝日』の読者層っていうのは、山口さんなんか編集長をされていて、大体いくつぐらいだという風に想定していたんですか。実際にデータも取っているんだろうけど。

山口: 基本的に団塊の世代以上の人たちですよね。

青木: ですよね。

山口: 上はもう際限なく70歳、80歳を超えた人達からもお手紙来るし。もちろんその下の方も、若い人たちも全然読んでくれてないわけじゃないんですけれども、やっぱりコアなところはその辺で。僕なんかも例えばいわゆる大学とか行って、マスコミ志望の人たちの前で話をしてくれとか言われて、話す機会が何回かあったんですけれども、ほぼ読んでないですね。この中で200人位いて、今日は『週刊朝日』の編集長が来て話しますって言って「『週刊朝日』を読んだことがある人?」と言うといないですね、基本的に。

青木: なるほど。これアンケートを取れるんですよね。週刊誌にしましょうか。週刊誌だと大体男性、どっちかと言うといわゆるここの後ろに並んでいるような週刊誌ってことになるんだろうけれども、それ以外にも例えば『女性セブン』だったり、いわゆる女性誌なんていうのもあるんだけれども、それは構わないんだけれども「週刊誌を読んでいるか? 読んでないか?」というアンケートをちょっと取ってみたいんですけど。すぐ取れるんだよね、大丈夫?

山口: いて、ぎりぎり『AERA』がね。

青木: まあ『AERA』は。

山口: 3、4人。

杉浦: 『AERA』は私も読みますもん。

山口: いるっていう感じ。

青木: 『AERA』はだから女性に狙いを絞っているんですよ、どっちかと言うと。だからほとんどもう女性誌に近くなっていますけどね『AERA』は。

山口: だから特に何か若い男性は読まないですよね、雑誌は。

青木: これ、すぐ出るんですね。

スタッフ: 集計中です。

青木: 集計して。これを見ている人たちのどれくらいの人たち、どれくらいというのは年齢層にたぶんリンクするんでしょう、きっと。

杉浦: 先ほど冒頭で、「あまり読みません」みたいな(コメントが)。

青木: 出てた?

杉浦: コメントもありましたね。

山口: ああ、こんなにすぐ出る。

青木: だから「時々読む」が26(%)でしょ。

山口: でも時々読む人はそれなりにいるんですね。

青木: 半数はもう読まない。

山口: 読まないですね。

杉浦: 気になった記事とかがあると、手に取るという方も結構多いかもしれませんね。

山口: たぶんほとんど買ってないと思います。

杉浦: そうかもしれない。立ち読み(笑)。

山口: コンビニでね、気になる記事だけを読むという・・・。

青木: 画面上でコメントで書いてもらえるといいんだけれど、読んでいるって書いた方、どんな雑誌を読んでいるのかっていうの、なんかちょっと書いてもらってもいいですか?

杉浦: 気になりますね。

青木: 気になる。「毎週、『(週刊)朝日』は定期購読」というのも出ていますよ。『(週刊)ポスト』、『(週刊)新潮』、『(週刊)文春』、『(週刊)朝日』。

杉浦: 『週刊現代』、『AERA』、『プレイボーイ』。

山口: コンビニ、正解。

青木: ああ、そうか。週刊誌だと『(週刊少年)ジャンプ』とかも入っちゃうんだね。なるほどな。

杉浦: 『(週刊少年)サンデー』、『FRIDAY』。

青木: でも結構読まれているとはいえ、でもさっき言った半分くらいは「読んでない」ということなんですよね。僕はこれ、すごく残念だなと思うわけですよ。

 要するにネットだろうが新聞だろうが、雑誌だろうがいいんだろうけど。たぶん、今回の原発の話なんて新聞・テレビは、元々僕は新聞業界出身なので、あまりそういうことを言いたくないんだけど、新聞はほぼ敗北したわけですよ。完全に東京電力だったり政府だったりとかの発表を右から左に垂れ流すだけっていうことだったわけでしょ。

 だけど例えば僕は『FRIDAY』がすごかったなと思うんだけど、『FRIDAY』がいち早くカメラを持って原発の周辺まで入っていった。ああいうことをやるパワーって、やっぱり週刊誌なわけじゃないですか。それを団塊の世代の人たちが支えていて、ファクトというのは結局、週刊誌は相当出している部分があるわけでしょ。それをどんどん衰えさせていっちゃうとまずいんじゃないかなと思うんだけど、どうですか、山口さん。このまま週刊誌っていうのは。『週刊朝日』だって、やっぱり正直言えば右肩下がり、緩やかな右肩下がりっていうのは脱せられないというところ、あるわけでしょう?

山口: もちろんそうですね。だから原発報道を見ると、逆に本当になんで新聞やテレビがあそこまで自粛して、腰が引けているのかというのが、まったく理解できないわけですね。

 例えばよく言われるのが、やっぱり膨大な広告費によって、飼い慣らされているというような論があるんですけど、そんな簡単な話なのかなという気がする。要するにものすごく分かりやすく言うと、じゃあ今後東電からそういう広告が貰えるかと言ったら、もうもらえないわけですよ。もうもらえなくなった相手に何を遠慮しているんだという気持ちもあるし、だから何で別のパワーが働いてしまっているのかというのは一つ気になるところであるんですけど、今仰ったように、その分やっぱり今回原発報道を見ると雑誌が残っていて良かったなと。いわゆる雑誌ジャーナリズムがあったからこそ、ある種の真実みたいなことが、かなりの部分早い段階から伝えられてきたと思う。

 新聞はどうしてあそこまで大本営発表しかできなかったのかとつくづく思ったのと、やっぱり似ている、同じような例で言うと、たまたま直近であった話題で、先々週、陸山会事件の3人の秘書の有罪判決があって、それから先週、小沢一郎さんの初公判があった。あまりの偏り具合に、すごい驚くとしか言いようがなくて。特に秘書の判決について言うと、やっぱり「疑わしきは被告人の利益に」っていう原則が、賛否はあると思うんですけれども、どうなのかっていう両方の議論があってもいいはずだったのに、新聞やテレビを見る限りでは「ほら見たことか、やっぱりやっているんじゃないか、こいつら怪しい」みたいなこと一色だったわけです。でもちょっとだけ安心したのは、その翌週の『週刊朝日』もそうですし、『週刊ポスト』も・・・。

青木: 『ポスト』は今あれでしたね。

山口: 「小沢一郎の抹殺裁判」というのをやっていたし、ここにある『週刊朝日』が「小沢秘書判決は裁判所の暴走」(という記事)で、『サンデー毎日』も、これもやっぱり毎日新聞は相当検察よりの報道をしていたんだけれども、『サンデー毎日』はきちんと「判決はとんちきな推理小説だ」みたいな特集を組んでいて、やっぱりそこに何かちょっと健全さが残っていたということにちょっと安心しましたけどね。

青木: 川端さん、一番お詳しいんですけど。週刊誌ジャーナリズム、雑誌ジャーナリズムって逆張りするっていう時があるじゃないですか。

川端: はいはい。

青木: 逆張りっていうのはどういうことかと言うと、世の中がこっちに行くと、「逆を張ろう」という。新聞とかテレビはみんながこっちに行っている時には俺もこっち行こうって、みんなそっちに行っちゃうんだけれども。週刊誌の健全なところって、ある意味、逆の意味で売らんかなもあると思うんですよ。世の中がこっちに行っている時に、そっちになったって売れないことが多いわけですよね、売れることもあるんだけれども。

 でも逆に張って売るという楽しみみたいなものもあったりして。世の中がこっちに行っている時にはこっちに行く。だから今、山口さんが仰ったみたいに『ポスト』は今回、「小沢一郎抹殺裁判である」。『週刊現代』なんかは今回やっぱり「小沢一郎は消えゆくべき人間だ」っていうことで、こっちに振るってことが結構あるでしょう。雑誌の多様性みたいな、その雑誌の個性なんだろうけどありますよね。

川端: ありますね。あとは逆に言うと、批判される対象の人間のメディア対策というのがすごく絡んでくると思うんですけど、たぶん小沢一郎というのは昔からそうで、本当に「友敵理論」を実践しているような人で、とにかく敵味方をすごく峻別する人なんですよね。要するに山口さんが編集になってから、たぶん『週刊朝日』も擁護系のメディアになったんだと思うんだけど、それまでは『ポスト』と『夕刊フジ』、『週刊新潮』が親小沢メディアで。

青木: 『ポスト』なんかもう完全にずっとそうでしたもんね。

川端: そうですね。

山口: 『日刊ゲンダイ』じゃないの? 『(夕刊)フジ』じゃなくて。

川端: 元々は『夕刊フジ』がそうだったんだけど、今は『日刊ゲンダイ』がそうなっていて。それは自民党時代でしたけどね。たぶん、『週刊朝日』は、僕は山口さんのことを割とよく知っているので、『週刊朝日』は純粋な逆張りだと思います(笑)。

山口: 違う、違う。話がちょっと雑誌のことからそれちゃうけど。今川端さんが言ったロジックは、僕はやっぱりちょっと間違っているなと思っていて、つまり「小沢擁護」じゃないのよ。単純にそれはやっぱり「捜査批判」なんですよ。だからこのことがやっぱり世の中で取り違えられているんで、要するに検察を批判したり、判決を批判したりする人間は、要するに「小沢のシンパだ」、「小沢擁護でやっているんじゃないか」って言われるところが、なかなかそのなんて言うか、この今回の一連の陸山会捜査および今回の判決の危うさというのが、世の中に伝わっていかないんだと思う。

 それで言うと、あえてアリバイ的に言えば『週刊朝日』は別に小沢、今回の捜査ばかり批判しているわけじゃなくて、村木さんの裁判だって一番最初から、新聞は「墜ちたエリート女性官僚」とかってやっていたんだけれども、『週刊朝日』というか私はやっぱりこの捜査おかしいじゃないかと。裁判の中でどんどん証言が覆されていくんで、じゃあ本当に証言した人にじか当たりしてみろって記者に言ってあたりに行くと、やっぱり検察に「こん畜生、この野郎」って言われて調書をとられたって、みんなゲロるわけです。やっぱりそういうのが実は『週刊朝日』は一貫してやっているんだけれども、なかなかそのことも世の中に伝わっていかないですよね。

川端: 僕もそれは思っていて、『週刊朝日』っていうのはたぶん、朝日新聞・・・裏金、三井環(元検察幹部)問題からずっと、要するに新聞社系週刊誌だから、なかなかそのいわゆる新聞社の圧力、記者クラブの圧力があるんで、なかなかやれないところを山口さんが編集長になって、ずっとそこを突破してきた。山口さんは社内的にいろんなことをクリアするために、例えば反検察、検察と割と距離のある編集委員を名前を立てたりとかしながら。

青木: 落合さん? 落合さんでしょう(笑)。

川端: 社内対策もしながら、そのギリギリのところをたぶんやってきている。そこはすごいなと思うんですけど、小沢に関して言うと、全然週刊誌ジャーナリズムと話が違っちゃうんですけど。何かどうしても・・・たぶん小沢一郎っていう人の体質だと思うんですけど。なんかこう、一行でも悪口を書くと一切出なくなるので、やっぱり異常にメディアが小沢側についたというか、とりあえず今回小沢に乗ってみようと思った。メディアもそこにすごい気を遣い始めて、なんかちょっと気持ち悪い感じのことになっちゃうところがもったいないかなと。

■名誉毀損で損害賠償請求 その金額が一気に跳ね上がった理由

青木: だから、こういうのが大切だと思うんです。要するに、今回の陸山会の件に関して言えば、僕は実は言うと小沢一郎という政治家は全然好きじゃない。山口さんと一緒なのかどうか分からないですけど、好きじゃないわけですよ。だってあの人、1999年に盗聴法だったり、それから国旗国歌法だったりとか、あの時の与党の、あの時その前後に国民福祉税構想というのを財務官僚と一緒にぶち上げた人ですよ。僕はあの人が官僚をコントロールできると思えないんだけれど。

 それはともかくとして、でも『週朝』は検察をバンバン叩く。あるいは今回『ポスト』が「小沢一郎を抹殺」とやってる。あるいは『週刊現代』では(ジャーナリストの)松田賢弥さんなんかがね、小沢一郎をずっと追っかけていて、小沢一郎の問題点をやるという意味で言うと、やっぱり一個のところを読んで「小沢は正義、検察間違ってる、記者クラブ間違ってる」みたいにすべてパッケージにするんじゃなくて、一個一個きちんと切り出して、読むほうもあるいは見るほうもリテラシーがだいぶ必要なんだろうなというところがあるでしょうね。

「検察批判をやっているときは雑誌が売れた」と『週刊朝日』の元編集長・山口一臣氏

山口: そうですね、まったくその通りですね。そこがある程度のテーマに沿って言うと、やっぱり僕が編集部でずっと言っていたのは、確かに川端さんのように逆張りをしていたという事実があって、それはものすごく分かりやすくて、世論調査をやると「小沢は辞めるべきだ」みたいな人が8割いるわけですよ。要するに残りは2割なんですよ。だけどやっぱり週刊誌みたいなところがそこに突っ込んで行けるのは、新聞みたいに何百万部という部数を取らなくていいからというのが一つあると思うんですね。やっぱり何十万部というところで勝負できるということは、その2割の読者の心をきっちり捉えれば、そこで一応成立するビジネスなので。まあその代わり、その2割の人たちって実はカロリーがむちゃくちゃ高いわけですよ、残りの8割の人たちに比べると。なのでお陰様で検察批判をやっている時は(雑誌が)結構売れてました。

青木: 分かりました。では次に行きましょう。

杉浦: はい。続いてのテーマに移ろうと思います。「雑誌の記事って、いい加減?」。週刊誌と言えば、政治家のスキャンダルや芸能人のゴシップ、嘘か本当か分からないような煽りの記事が多い気がするんですけど、青木さんはジャーナリストとしてどうお考えですか?

青木: 僕はこれ二重の意味があると思うんですよ。山口さんなんか苦笑されてましたけど、僕は半分褒め言葉だというところもあるわけです。僕は通信社の記者をしていて、それから今フリーランスになって主に雑誌で書くでしょう。そうすると、はっきり言えば、いい加減って言えばいい加減なんですよ。「ちょっと甘いな取材が。大丈夫?」とも言えるんだけど。一方で、だからこそ書けることというのはあるわけですよ。例えば『噂の眞相』ってこれすごい雑誌なんだけど、ここに必ずこう一行情報というのがある。映りますか? 

川端: すごかったね、今考えると。

青木: ここに一行情報というのが必ず載っていて、ここのところに必ず最後に「何とかの噂」と書いてあるんですよね。「何とかの噂」と書いてあるってどういうことかというと、「本当かどうか知らないけど、噂が流れているのは本当だよ」というスタンスなわけですよ。これによって「あくまでも噂だけれども、そういう噂があるのは事実で、なかなか裏は取れないけれども、やっぱり伝えたほうがいいんじゃないの?」というのが伝わっていたところもあるわけですよ。だからやっぱり新聞・テレビとは違う、雑誌ジャーナリズムの良さというのは、今言ったいい加減なところというのもあるんじゃないかなと思うんだけれど。

山口: いやいや、その通りですよ。僕がスタッフに言っていたのは、やっぱり「多様な視点が大事だ」ということと、それからあえて言葉を作るの好きだって言ってたんですけど、「事実に基づく仮説の提示」という言い方をしていたんですね。だからそれは仮説のレベルであっても、でもある程度のファクトの積み重ねによって、それこそ今回の裁判の判決みたいに推認できる範囲まで少なくとも持っていって、それでどうだという風なことを世に問うていくということが、半歩先行くとか一歩先行くみたいな、やっぱり雑誌ジャーナリズムの真骨頂だと思うので。そこはやっぱりいつもどこまでがギリギリなのかなということを考えながらボールを投げていたのは事実ですよね。

青木: どうですか、川端さん。雑誌っていい加減、まあ『噂の眞相』だっていい加減に書かれてたんですけど。

川端: 僕はたぶん「いい加減」、「デマ」とか、そういう風に批判を受ける雑誌の編集をやってた代表だと思うんですけどね。僕は逆に・・・。

山口: だいたい川端さんに一言言うと次の月、記事になってましたから。「噂、こんな話あったんだよね」とかって言うと「ちょっと面白いじゃん。何々?」って聞いて、ばっちり記事になっていますからね。本当に。

川端: だから山口さんも奇特な人で、『朝日』の編集部の中から「面白い話があるんだよ!」って電話をかけてくるという、すごい変わった人だったんですけど。それは置いておいて、僕は今の話を聞いた後でしゃべりにくいんですけど、実はネットの人たちが思っているほどいい加減ではないという考え方で。

 ツイッターやっていても「ものすごくガセだよね」とかいうものがどんどん出て来るんですけど、実はやっぱりそうは言っても責任主体があるので、やっぱり名誉毀損裁判というのを起こされちゃうんですよね、嘘を書くと。そこはやっぱりかなり各社ともすごく・・・山口さんはたぶんその編集長をやられてたから分かると思うんですけど、後半は『噂の眞相』ですら、だから前半のイメージでそう語られているんですけど、要するに名誉毀損裁判というのが、いわゆる損害賠償金額というのが2000年前後を境に一気に跳ね上がるんですよ。それまで高くて100万か200万だったところが、1千万とかという判決が出始めるわけです。そうすると100万200万の頃だったら、部数で言ったら『週刊新潮』で3万部ぐらい上乗せして売れれば十分元が取れる。「だったらもう書き飛ばしたっていいや」というような発想があったのですけど、1千万円とかになるともうその会社の経営の根幹に関わって来るので、やっぱり当然上層部からもきつく言われるし、逆に今までは名誉毀損で訴えられたら、それはなんか「名誉の向こう傷」みたいなイメージがあったのですけど、むしろ失点になっていく。それが週刊誌ジャーナリズムをダメにした一つの原因でもあるんですけど。

 でもそういう意味で言うと、かなりやっぱり裏は取ってますし、確かに『噂(の眞相)』の場合も「一行情報」はかなりいい加減なんですけど、その他については本当にある程度の物的な証拠というのを押さえないと、とか。少なくともその「この人は証言台に立ってくれるだろう」という人を押さえておかないと怖くてやっぱり裁判を戦えない。

青木: 画面上(のコメント)で「なんで高騰したのか?」という話が出たんですけど、これ映りますかね? これ『噂の眞相』の大スクープですね。今でも忘れられないんですけど、森喜朗(元内閣総理大臣)。酷い見出しがついてますよね。「『サメの脳ミソ』と『ノミの心臓』を持つ森喜朗”総理失格”の人間性」というので、これで要するに森喜朗が大学生の頃に買春ですね、女の子を買春して警視庁に捕まったというのを書いて、この頃に公明党なんかもものすごい苛立ったんですよね。要するに公明党と自民党が与党だった時に苛立って、日本の名誉毀損裁判というのは安すぎるとものすごく国会で騒いだことを受けて、最高裁がポイント制を作ったんですよね。そのポイント制というのは、これは酷い噴飯物のポイント制で1番ポイントが高いのはタレントだったかな。2番目が政治家と弁護士だったのかな。要するに・・・。

川端: 逸失利益みたいな。

青木: そうなんですよ。だから本来であれば、逆でなくちゃいけないでしょう。公人であればポイントを低くして、名誉毀損のハードルを低めなくちゃいけないんだけれども。一般人ほど高くして、損害賠償を多くするというなら話は分かるんだけど、まったく逆のやつを作ったんですよね。あれ以降、確かに損害賠償が増えたし、それから以降、だって『噂の眞相』がなくなった、やめる一つの原因というのは損害賠償の高額化というのがあったでしょう。

川端: もちろん、そうですね。それはそうですね。

青木: だから非常にそういう問題もあるんだけれども。ただ僕は雑誌の飛び越え方って、例えば原発事故でいうとあの時メルトダウン、だってあれ・・・

山口: まあ2週目で書きましたね、『週刊朝日』がね。

青木: そうそう。結論から言うと、あんなもの専門家に聞けば水が干上がっちゃって、何時間か経てばメルトダウンするというのは、これはもう常識なんだけれども、でも新聞・テレビ、それはいわゆる正確に書かなくちゃいけないと、僕らもそうだったんだけれども。そうすると推測で書けないわけですよ。

 要するに「政府がどう言ってる」「東電がどう言ってる」というようなのを、なかなか超えられない。例えばせいぜい識者コメントみたいなので「何時間経ってればメルトダウンしてるんじゃないでしょうか」みたいなのをつけることはできるんだけど、それを一面トップの見出しにはできないわけです、しにくいでしょう。ところが雑誌は、編集長が「これ(メルトダウン)してんだろ。そうじゃないのか?」って言えば、『週刊朝日』なんかは2週間目に書けるわけじゃないですか。だから、その飛び越え方ができるという雑誌ジャーナリズムのすごさというのはあるんだろうなと思うんですけども。

川端: あれは確か『週刊朝日』は(原子力安全・)保安院のメモか何かをすっぱ抜いてたよね。

山口: いえいえ、保安院のメモじゃなくて。こう言っちゃかっこ悪いんですけど、「海外でもこういう風に報じてるから、そうではないんだろうか」という、やっぱりそれは推論なんですけどね。ほぼメルトダウンは間違いないという風には書いてるんですけどね。保安院のメモをすっぱ抜いたのどこだっけな。

川端: 『週刊朝日』だと思う。

杉浦: ありましたよね。

山口: それは最近かもしれない。ただ今『週刊朝日』でやっていて、編集長交代した後なんですけど、やっぱりすごいのはやっぱり福島第1原発の最高責任者の独占公開というのを、毎週じゃなくて不定期ですけど掲載してるんですけども、まあ一応匿名なんですけどね。一応「福島第1原発の最高責任者」ということになってますから。

川端: それ吉田(所長)さんなんですけど(笑)。

山口: 僕はそれは誰かは言えませんけれども、やっぱりすごい内容で今のメルトダウンの話で言うと、吉田さん・・・じゃないや、「最高責任者」は本社のほうにも当然そのメルトダウンの可能性については報告したんですよ。この手記で面白かったのは、そうすると何て言われたかというと、本社から「お前はそれを確認したのか」と。「目視したのか」と。

青木: できるわけない。

山口: できるわけないですよ。「確認できないことは発表できない」という風に本社に言われて、それが結局、新聞や報道に追随していくという形になるわけですよね。

川端: そう。僕さっき言いたくて言えなかったんですけど、今、(ジャーナリストの)今西さん。

山口: はい。今西憲之さん。

川端: 今西さんが要するに今、その最高責任者のコーディネーションで福島原発の内部にまで入ってるわけですよ。それを『週刊朝日』がやって、その後最高責任者が定期的にインタビューに応じて「東電本社が言ってることは嘘だ」というのをずっと言ってるのに、実は全然話題になってない、それ自体が。たぶんあんまり売れ行きにも影響してないらしくて。

青木: いや、今コメントにあったのだけど「誰も読まなかったら意味がない」って出たんで、それは確かにそうなんだけど。だから読んでほしいわけです。僕は雑誌って本当に読むべきだし、雑誌を読まないと今、たぶん時代を語れないし、逆に言うとこのまま雑誌が弱っちゃうと、皆が批判している記者クラブメディア、新聞・テレビのほうはたぶん恐らく少し残るでしょう。その新聞・テレビすら将来はおかしくなっていくんだけれども。やっぱり雑誌を何とか支えてほしいなという話は後でするんだけど・・・そろそろ次のテーマにします。

■圧力に「言論の自由だ」と抵抗する論理、「読売にはない」

スクープでは「実を言うと『噂の眞相』がすごかった」と青木理氏

杉浦: 次のテーマに行きます。「スクープ連発! 雑誌報道の功績」。これまでの目立った雑誌報道の功績について語っていきましょう。

青木: これ山ほどあるんですけれども。ちょっと先ほど出ちゃいましたけど、検察です。検察というのは、実を言うと『週朝』、山口さんにこんなこと言ったら怒られるけど、『週朝』がものすごく注目されたけれども、実を言うと、『噂の眞相』がすごかった。

山口: そうです。もちろんそうです。

青木: 要するに『噂の眞相』が、例えば最近何というかな、例の大阪地検特捜部の証拠改竄問題。その前の三井環の「検察庁で裏金を作っている」という告発をするという時もあったんだけれども、その前の段階から、あと(前衆議院議員)鈴木宗男さんなんかが検察批判し始めてから、さっきの山口さんの話で言えば、9割は検察に疑問なんか持ってないんだけど、メディア界の一部くらいではそういうのが出始めていた頃だったんですね。

 そんなのカケラもない頃から、『噂の眞相』って一貫して検察批判をやっていて、これも見てる人たちは知らないかもしれないですけど、これですよね。これが僕はもう本当に、震撼したスクープだったんですね、これ。「次期検事総長が確実視される則定衛高検検事長のスキャンダル」というね。これ実際、嘘偽りでも煽りでも何でもなくて、則定衛氏はこの記事がなければ検事総長になっていたわけです。ところが、則定さんの愛人だった、銀座のホステスさんなんですかね? その則定さんとの付き合いについて赤裸々に告白して、その中には公務に実際に連れて行ったりとか、それから妊娠しちゃって中絶させて30万円の費用しか払わずに、その30万円も何か変なところから出していたんでしょう?

川端: そうですね。いわゆるパチンコ業者が肩代わりしてたんですね。

青木: これを書いて、実は珍しく朝日新聞が次の日の朝刊で一面トップで大々的に追いかけた。ただその追いかけ方というのも、「この記事によって更迭が必至になった」みたいな、そんな追いかけ方だったんだけど。

山口: 「『噂の眞相』によると」というこうね。

青木: そうそうそう。入ってたんだよね。

山口: あれは画期的だったんです。

青木: どうですか。世の中がもう検察バンザイ一色だった時に、はっきり言えば単独飛行ですよね。誰もついて来ない。メディアの中の良心的な人たちって、こういうことを言っちゃいけないんだろうけど『噂の眞相』を陰ながら応援して情報もきっと流していたんだろうけど。一貫して検察批判をやっていたというのは、どんな気分だったんですか。実際、全部川端さんが記事取材やっていたんでしょう?

川端: 正直やっぱりすごく孤独でしたよね。だから実は則定衛の事件というのは、朝日新聞が翌日書いてくれたのでかなり大きな話題になったし、しかも則定衛を辞任に追い込めたんですけど、その前に今すごくテレビで偉そうなコメントをしている・・・。

山口: リクルート。

川端: Mr.リクルート。捜査の主任を務めていた・・・。

青木: 「宗像」という名前言っていいんですよね?

山口: いやあ別にいいですよ。

川端: これから言おうと思ったんです。(元東京地検特捜部長の)宗像紀夫さんという人がいて、その人のスキャンダル。いわゆるパチンコ業者と一緒にベトナム旅行に行っていた時に、しかも写真付きで載っけた。もうその発売の3日前ぐらいでしたかね。もうとにかく、ありとあらゆる新聞社テレビ局の記者が『噂の眞相』にやって来て、編集部にやってきて「ゲラを見せてくれ」と。こっちも嬉しいからゲラを見せて説明をして、「なるほど。これはもうそろってますね」みたいに皆、帰っていくわけです。もう何10人、何10社も来たんですけど、見事に1社も書いてないんですね、ふたを開けると。

青木: その代わりに、そのゲラを検察庁に持って行って「こんなゲラですよ」と言ってご注進するわけでしょう。

川端: ああ、そうですそうです(笑)。そういう状況だったので、それはやっぱり何かすごく徒手空拳というか、やってもやっても誰もついて来てくれないという。ただ、だからこそやり続けなきゃいけないというのがあって、やっぱり検察の、村木事件で明らかになったと思うんですけど、検察のその傲慢さみたいなものは、そういう状況が作り出したんだと思うんです。

 要するに「俺たちは何をやったって絶対に批判されない」と。「日本で最高の権力なんだ」と。どんな不正を働こうが、スキャンダルだろうが「俺たちのことを書けるところなんてねぇ」というようなものが、たぶん村木事件みたいな、何をやったっていいんだというような捜査を生んだんだと思うんですよね。

青木: だから原発とちょっと似ているところがあって、誰も批判しなければ、批判されない権力なんて絶対に腐るわけで、それは批判しなくちゃいけない。だけど、山口さんはどうだったんですか。

 さっき川端さんが仰ったんですけど、朝日新聞って例えば今回の大阪地検特捜部の証拠改竄問題をスクープした板橋(洋佳)君というのはすごく優秀な記者で、でもあれ以前は朝日新聞というのはある意味、検察と一番歩調を合わせているメディアだったわけですよね。今は別会社になっているけど、そこが一応発行するというかですね、週刊誌の中で検察批判をやるというのはどうだったんですか? あまり話せないことも何か・・・。

山口: それは言えませんよ(笑)。誌面を見てください。できた誌面がすべてです。

川端: ただ、ちょっと一言解説すると、あの三井環事件を山口さんと、新聞も多少そこに引きずられてきた形でやったんですけど、それ以降やっぱり朝日は特捜部ネタはもう「特落ち」がずっと続くわけですよ。特にその後に出た鈴木宗男事件とかでは、もう全部読売が抜くわけですよね。だからやっぱり山口さんはある種、朝日の特捜部報道を潰したという(笑)。

山口: まああの・・・。

青木: それに反論したほうがいいですよ。

山口: 申しわけありませんでした。確かに迷惑というのか分からないですけど、ゼネコン汚職というのは1993年ぐらいでしたっけ。

青木: ゼネコンは93、4年くらいですね。

山口: たぶん最初やり始めたのはその頃で。やっぱりそのゼネコン汚職・・・僕もどっちかと言うと、例えば特捜ネタというのは検察の立場に立って物を書いていたし、当時はやっぱりできればできるだけ検事さんと知り合いになって仲良くなって、ネタをもらたいというスタンスで取材をしていたと思うんですけれども。

 やっぱりゼネコン汚職の時に、あまりにその捜査のやり方がずさんで、今問題になっているほとんど原形が出てるわけですよ。要するにやってもいないことを言わせて作り上げた調書に署名をさせるなんて当たり前のようにやっていたという実態を、内部告発の形で記事にしたことがあるんですよ。当時、新聞の方は社説で「特捜頑張れ」みたいな社説を掲げた時だったので、その時はさすがに僕もまだペーペーだったので、いろんな人に口を聞いてもらえなくなりましたよ。

 でもだいぶ空気が変わりました、本当に。三井環の時でさえ、あれだけの事実があって本人が言ってるんだから、ほぼ間違いない。間違いない話なので、これで空気が変わるかなと思ったんですけども、やっぱり7、8年前ぐらいだと思いますけども、本当に川端さんのところと、あの時は『週刊文春』もやっていたのかな。『文春』と『噂の眞相』と『週刊朝日』と、あとは『日刊ゲンダイ』みたいな感じで。本当に川端さんほどじゃないけど、味方が全然いないという孤独な戦いをやってるんだなという感じがしましたけどね。

川端: ある意味、山口さんのほうが僕よりきついと思うんですよね。たぶん僕らは、岡留(安則編集長)がいてそういう方針だし、僕がそれによって『噂の眞相』をクビになる恐れはないわけじゃないですか。「どんどん行け」とは言われても。山口さんはとにかく常に会社員生命の危機と背中合わせでやりながら、ギリギリのところでああいうことをできるというのは、やっぱり当時からすごいなぁと思ってましたね。

山口: いや僕は別に新聞を批判するつもりはなくて、ただそうやって検事から検察が何を考えてるのかという情報を取ってきて、紙面を作ってということは大事だなと思っているので、その活動の邪魔になった部分は申しわけないんだけれども。ただこっちが書いていることも本当だから、黙る必要はないじゃないかとは思ってました。

青木: ただ逆に山口さんの代わりに僕が朝日新聞を褒めれば、朝日新聞というのはやっぱり偉いんですよ。要するに『週刊朝日』にそういうのがいても、さすがに山口さんが今仰った通り、あってるんだったら、なに文句言って来るんだということが言われれば、組織としては一応クビにまではしないわけじゃないですか。例えば朝日ニュースターという、僕は出させてもらっていろいろ言っているけれども、別に文句を言って来ない。これが読売新聞で・・・具体名を言っちゃってまずいけど、読売新聞だったらあり得ないですよ。あっという間にクビですよ。だからそういう意味で言うと、やっぱり朝日新聞という組織の懐の深さということもやっぱりきちんと評価してあげないといけないのかなと。

川端: でも僕はそれはすごく大事だと思っていて、例えば言論の自由と言う時に、すべてのメディアは企業体なので、しょせん建前なのだと思うんですよ。でもその建前があるか無いかというのはすごく大きくて、やっぱり朝日というのはあるんですよね。だからその言論の自由という建前があると、上から圧力をかけた時に「言論の自由じゃないですか」とか「事実、ファクトを報道して何が悪いんですか」と一応抵抗する論理みたいなのがあるんですけど、たぶん読売にはないですよね。

青木: ないでしょうね。

川端: それはだからたぶん「ナベツネ(渡邉恒雄)」というようなもので、ないんだと思いますね。

■「大手出版社では、ジャニーズものをやりにくい」

『週刊朝日』はジャニーズと「仲良し」

山口: よく実名か匿名かで、例えば容疑者を実名報道か匿名報道かで、ある少年事件で少年が亡くなっちゃったんで、『週刊朝日』はいろいろ考えて議論して、最終的に実名で報じたんですよね。それに対して朝日新聞は匿名で報じてたんです。そしたら読売新聞から取材の電話が入って、「なんで朝日新聞は匿名で書いているのに『週刊朝日』は実名で書いているだ」と言うから、「読売新聞はどうなんですか」と聞いたら「うちは実名だ」と言うわけ。「なんで実名なんですか」と聞いたら、まあ実名にした理由をずっと述べるから「ほぼ同じ考えです」と(答えた)。

青木: あとね、いろいろ「スクープ連発! 雑誌報道の功績」ということで挙げたらきりがないんだけど、例えば最近の(相撲の)八百長。僕つくづく思うんだけど、今年の新聞協会賞、毎日新聞だったんですよね。八百長のメールをスクープして。僕、あれはスクープだと思いますよ、文句ないスクープなんだけど、でも実を言うと情報源って警察でしょう。

 その前から『ポスト』『現代』なんかがずっとやって来たわけじゃないですか。その時に新聞・テレビ・その他のメディアは一切追随しなかった。もちろん決定的証拠なんか取れるわけがないんだけれども。だからやっぱり警察から情報が取れるということは、ある意味は「お上ご公認」になるわけじゃないですか。そうした途端にはしゃいだように「やっ」とやるんだけれども。やっぱり相撲の八百長問題にしてもそうだしね。雑誌がすごく果たしている役割って大きい。僕これちょっと踏み込んで今日言いたいなと思ったんだけれど、芸能スキャンダル、ジャニーズって確か、山口さんのところでやりましたよね。

山口: やってない。

青木: ジャニーズやってなかったでしたっけ?

山口: うん。仲良し。

青木: あのね、これもすごかったんですよね。こんなもの書いているのは、『週刊』・・・違う違う『噂の眞相』だけだったんだけど。これ見せたらまずいのかな。ニコ生でも何かまずいのかも知れないけど、隠さないで出しちゃうけど。「今度はジャニーズ事務所が仕込んだ、全日空ホテル乱交パーティーが発覚」と、こういう記事が出たんですね。これ事実だったから言っていいんだよね。

川端: でもたぶんその続報だから、前の記事だね。

青木: この前の記事なんだ。要するに例えば、某・・・今のジャニーズの人気タレントなんて、女性を妊娠させちゃって中絶させたりとかねというようなのって、これって新聞・テレビでは一切やらないわけでしょう。ここでたぶん出て来るんだろうけど、週刊誌の中でもやっぱりいろんな色があるわけじゃないですか。

 例えば、ジャニーズだったり芸能ものというのは、やっぱり大手出版社系はやりにくい。けれども、新聞社系なんかだとやれる。だから『サンデー毎日』の北村肇さんが編集長だった時にバーニングの問題とかやってましたね。やっぱりそういう週刊誌の中でも、いろんな色分けがあるんだよ、特に芸能ネタなんていうのはやれないところとやるところがあるんだよというのを、ちょっと川端さん解説してもらっていいですか?

川端: まずその芸能以前に、ちょっとさっきの建前の話と関係して来るんですけど。実は芸能報道で言うと『FRIDAY』と『週刊現代』って意外とできるんですよね。でも片方にファッション誌とかコミック雑誌とかいっぱい持っているわけじゃないですか。講談社はできるんですよ。ところが『週刊ポスト』は(同じ社内に)『女性セブン』もあります、すごいやれないんですよね。

 それはなぜかと言うと、会社の体質の差があって、講談社というのは一応建前上、編集部独立主義というのがあるんですよ。要するに「編集部は編集長の物だ。雑誌は編集長の物だ」というのがあって、あくまでも建前なんですよ、建前なんですけどあるんですよね。小学館というのは非常にトップダウンの組織なんで、非常に圧力をかけやすい。ところが例えば、何ですかね『ViVi』の編集局が『FRIDAY』の不穏な動きを察知をして、『ViVi』の編集部が『ViVi』に圧力をかけるのは無理なんですよ。一回上に上げて圧力をかけてもらわなければいけないので。一回社長のところとか副社長ぐらいのところまで、上げなきゃいけないんですね。そうするとやっぱり中々上げられない。

 ところが小学館の場合はいきなりどーんと圧力をかけられるので、もう『ポスト』と『女性セブン』は、意外と最初から「うちはこれは(記事化することが)できない」みたいな感じでやらないんですよ。『週現』はそういういろいろ・・・朝日の山口さんもそういうところがあるんですけど、やろうと頑張るわけですよ、ぎりぎりまで。ぎりぎりまでやった結果、潰れることもあるんじゃないですか。だから『噂の眞相』にわりと漏れてくる(笑)。

 でも『ポスト』と逆に、それは『新潮』と『文春』もそうなんですよね。やっぱり『文春』は編集部独立主義なので、意外と編集部の自由が保たれていてやれる、行けるところまで行ける。ところが『新潮』はやっぱりトップダウンなので、もう最初からやれないものはやれないという形なので、むしろその潰れた話が出て来ないんですよ。でも潰れないんですよね、最初からやろうとしないから。

青木: 山口さんに教えてもらいたいんですけど、たぶん皆さんあんまり知らないと思うんですけど、「雑誌は編集長のものだ」というのは、これは雑誌のどこでも一応建前ってあるでしょう? これって一般の人はあまり知らないと思うんだけど、その辺の説明をしてもらってもいいですか。雑誌は編集長のもの、要するに編集長がこうだと。編集長が変われば要するに編集長の意向が基本的にはすべてに透徹されるわけですよね。

山口: そうですね。それはあえて言えば編集権という問題で。それはさっきの朝日新聞の話をした時も皆さん仰ってましたけど、やっぱり編集権が独立しているという言い方をするんです。

 さっきその匿名、実名でその報道が分かれた時も、こちらの説明というのは「それは独立した編集権がありますから」と。「判断は私がしてます」という形になるんですね。雑誌は分かりやすく、編集長が私が判断してるという風に言えると思うんですね。実は僕、新聞の仕事したことはないのでよく分からないんですけど、新聞のほうは編集局長みたいなポストの人はいるんですけれども、たぶん一つ一つ話し合う、ある程度合議しながら議論の中でたぶん決めていると思うんですけれども。雑誌は、他の雑誌も大体そうだと思いますけども、ほとんど編集長の独断的に決めているんです。だからちょっと鋭角的な切り口ができるし、さっき言ったみたいに、捜査批判をしようというスタンスに立てば、そのスタンスから記事を作ろうという話になって、その代わり引き受けるのは編集長であるという風な形になってますよね。具体的に言うと部数が落ちたらクビになるという話ですね。

青木: そうですね。だから責任もあれば権利もあるというか、権限もあるということですよね。なるほどね。

杉浦: ちょうど、トークテーマ4の「訴えられるが勝ち! 編集部の闘い」

青木: 「勝ち!」じゃないんだよ。これね「!」じゃなくて「?」もつけなきゃいけなかったんですよ。

杉浦: 「勝ち?」って。

青木: 「勝ち?」とちょっと可愛らしく言ってきてもらえます?

杉浦: 「訴えられるが勝ち?」

青木: そうそうそう。「勝ち?」って。よく分からないんだけど、これ誰に聞いて・・・川端さんに聞くか、山口さんに聞いたほうがいいのかね。何度も言います、僕元々新聞業界だったので、基本的に抗議を受けるというのは社内で何かこう、あまり・・・。

山口: ネガティブな評価になる。

青木: よく思われない。ましてや訴訟を起こされたら完全にマイナスですよね。良く言えば、新聞はそれだけ正確に報道しようとしてるんだとも言えるんだけれども。僕はだから辞めてフリーになった時に、まあこれはちょっと極端だけど、『週刊現代』なんかで仕事して、前の前のK編集長ですか・・・。

山口: はい。加藤晴之さん。

青木: なんで名前を言うんですか(笑)。加藤晴之さんは結局、損害賠償の請求総額だけで30億? 20億とか30億円くらい訴えられているわけ。でも別に平気な、加藤さんのパーソナリティーもあったのだけど、平気な顔をしているわけ。僕自身実際に名誉毀損訴訟というのをやられたんですよね。刑事告訴もやられて特捜部で調べられたんだけど。それが別にマイナスのネガティブのイメージには雑誌ってあまりならないじゃないですか。この違いってものすごく大きいと思うんだけど、山口さんどうですか。

山口: 『週朝』でもやっぱり、基本はうちも新聞社系なので一応ネガティブな評価にはなると思いますけど、だから逆に言うと僕は自分が編集長になった時は、よく誤解されてるんですけどね、「山口一臣、訴訟上等だ」っていう風に言ってるって。そうじゃなくて訴えるというのは権利なんで、特にその民事的な話になると、当然正しいことが書いてあっても、それは理屈をつけて訴えてこられるわけであって、それをこっちが証明できるかどうかというところが正に裁判所の勝負になってくる話なので。だから「訴えられることは気にするな」ということはやっぱり記者にはずっと言ってきて、「その代わり勝てる材料を持っていろ」ということを、ちょっと理想的なんですけど、一応そういう風には言ってました。それはかなり記者にとっては自由にできる、一つの安心感にはなったと思いますけどね。

青木: さっきの訴訟の話になっちゃうけど、日本の名誉毀損訴訟裁判って、要するに訴えたほうじゃなくて、訴えられたマスコミの方に立証責任が負わされるでしょう?

山口: これは本当に見てる人にぜひ理解してもらいたいんですけれども、要するに、こちらとしては「これが正しい記事だ」ということで出した。要するに真実性の証明というんですけれども。訴えた人は「その記事が嘘だ」と言って、間違っていると言って訴えて来るんですけども。じゃあどこが間違っているのかというのは、向こうが証明するんじゃなくて、こちらが「この記事が正しい」ということを証明しきれないと負けちゃうんですよ。

青木: 特に問題なのは、これは当たり前だけれども。厳しい記事であればあるほど、情報源の人というのはなかなか法廷に呼んでしゃべってくださいとは言えないわけですよね。

山口: そうです、はい。

青木: 例えばさっきの話で言えば、Yさんですか。その人を法廷に来て「これは間違いないんです」という風に言ってもらってくださいと言ったら、向こうだって組織人だし不可能なわけですね。

山口: ええ、不可能です。はい。

青木: そうすると、もう基本的にはその真実性の証明はないんだということで負けちゃうということが多いわけでしょう。

山口: そうなんです。

青木: 裁判のあり方というのは、非常に問題。アメリカなんかは逆でしょう。

山口: そうです。アメリカなんかでは虚証責任は訴えた側なんですね。それともう1つアメリカの特徴、さっきの名誉毀損訴訟の額の話で言うと、アメリカは基本的には法人は事実上勝てないことになっているんですね。名誉毀損で訴えても負けてしまう。なぜかというと、訴えた側が相手が悪意を持って嘘の情報を記事にしたということを証明しなければいけないんです。これは事実上不可能な証明なので、アメリカでは公人に対する名誉毀損は成り立たないという風に言われているんですね。

 ところが日本の場合は、もう政治家だろうが何だろうが、いわゆる公人が平気で訴えてくるという、そういうちょっと歪んだ社会になっているんで。

■すぐ訴訟を起こす政治家の「三羽ガラス」

「半分冗談だけど、いま最大のタブーはAKB48」と川端氏(写真・中央)

川端: だからそういう意味で言うと、政治家でも結局、すぐ訴訟してくる政治家と絶対訴訟してこない政治家っているでしょう。すぐ訴訟してくる政治家というのはタブー化している。

山口: そうなんですよね。

青木: そうなんだよ。

川端: 例えば、某・・・。

青木: 安倍晋三(元首相)ね。

川端: 安倍晋三はまあ・・・。

山口: そうでも。

青木: 野中(広務)。

川端: 一番あれはやっぱり・・・。

青木: 亀井。

川端: そうです。野中広務、(国民新党代表の)亀井静香、平沢勝栄でしょう。これは三羽ガラスですね。沢山の訴訟を起こす、内容証明をすぐ出してくる。例えば小沢一郎というのは、たぶん訴訟を起こさないし・・・。

山口: でも『週刊現代』では起こしている。

川端: ああ、そうなんだ。

山口: でもあまり、少ないよね。

青木: ほとんど。でもそういう意味で言えるのは・・・。

山口: 基本的に田中派というか、経世会系列の人はあまり起こさないんですよね。

川端: やっぱり清和会系はすごい。

山口: あと時代というか、25年くらいこの商売をやってましたけど、要するに駆け出しの頃っていうのは、やっぱり記事に文句があると怒鳴り込んでくるんですよ。あるいはいきなり電話をかけてきたりやってきたり、「とにかくこの記事書いたやつをよこせ」と言って、呼びつけたりして、そこで何か談判するというのが、ずっとあったんですよ。

 それがいつの間にかそういうことがなくなってきて、いきなり内容証明が来るというのはまだ交渉の余地があるんですけれども、いきなり訴状は来るというのが最近の傾向なのと、向こうの要求してくる額が1億円とか何億円という。もう明らかにこれは名誉回復するという目的ではなくて・・・。

青木: 恫喝ですよね。

山口: 恫喝で「書くな」というようなことを目的にした訴訟が増えているというのは問題だないうのが1点と、それからこれも声を大にして言いたいんですけれども、結構訴訟多かったんですけれども、ほとんど勝ちだったわけです。

 ここで言いたいのは、要するに訴えられ損で、勝っても何も得なことはないわけですよ。要するに1億円をお前ら謝罪で払えと言われたのが「払わなくていい」っていうだけでなって、つまり裁判で訴えたら負けたということは、これ言葉悪いですけど言いがかりをツケてきたわけじゃないですか。言いがかりをつけたことにはペナルティないんですよ。「1億円よこせ」と訴えてきて負けたんだったら5,000万円ぐらい払えよ、この野郎と(笑)。

青木: ああそう。

山口: このことを前、雑協(日本雑誌協会)でね。いわゆる人権派の弁護士というか、よくマスコミ相手に訴訟を訴える弁護士さんたちを集めて意見交換しましょうという時に言ったら、もう大笑いで、爆笑されましたけど。だけどやっぱりその位のペナルティがないと、いい加減な訴訟が多いわけですよ。

青木: なるほどね。

山口: 結局今、さっき川端さんが挙げたような政治家の人たちというのは、訴えたということを記事に書かせることが目的なんですよ。要するに「亀井静香氏『週刊朝日』を訴える」とかいうのが、一応ベタ記事になったりするわけですよ。それで要するに、彼らとしては目的を達して、こっそり取り下げたりするというケースもありますからね。

青木: 『噂の眞相』も相当訴えられていたでしょう。

川端: そうですね、すごい訴えられましたね。

青木: 毎号毎号、ほぼ内容証明でしょう。

川端: そうそう。だからね、ちょっと『噂の眞相』のことじゃなくて、思い出したんだけど。(小泉純一郎元首相の政務秘書官だった)飯島勲がね・・・。

青木: 小泉の秘書官ね。

川端: 小泉の秘書官だった飯島さんがこのあいだ雑誌で(元外務官僚)佐藤優と対談をしていて、そこで話してたんですけど、とにかく刑事訴訟を起こして、しかも「社長をいわゆる被告にするのがポイントなんだ」と。

青木: コツ?

川端: うん。そうすると社長はだいたい叙勲が迫ってたりするので、何か嘘かもしれないですよ。書いてたのはその叙勲ができないんですって。ストップ、ぺンディングにされちゃうらしいんです。だからものすごく嫌がるからそこがポイントなんだって。すごく自慢げに飯島勲が語ったんです。

青木: 実際あれは新潮社でしたか、社長が個人名で訴えられたようなこともあったし。

山口: そうです。

青木: 最近、今そこに「SLAPP」ってコメントで出ていたけど、『噂の眞相』にいた西岡(研介)君とか、あるいは烏賀陽(弘道)さんなんかもそうですよね。要するに雑誌社を訴えたり、出版社を訴えるんじゃなくて、個人を・・・。

山口: (記事内で)コメントしている人間とかね。

青木: 個人を訴えるという。僕らみたいなのは、何千万円なんていうことをやられたら、雑誌が守ってくれればいいけれども、守ってくれなかったらあっと言う間にご飯食べられなくなっちゃうという状況になっちゃうんですかね。

山口: これ本当は経済的に、編集部でさえやっぱり守れないという状況が生まれつつあるのは事実です、本当に。

青木: というようなことを言っている中で、こんなこと言っちゃいけないんだけど。今、雑誌業業界の中で最大のタブーというのは何ですかね、川端さん。

杉浦: 気になりますね。

川端: 僕は雑誌のタブーというのは、新聞とかテレビの類に比べると意外とかわいいものだと思っていて、ほぼ経済要因なんですよね。しかも雑誌というのは、わりと手の平をすぐ返せる。機動力があるので。意外と東電みたいなものでも、今でも『新潮』とか『ポスト』は、まだかなり東電に腰が引けている部分もあると思うんですけど・・・。

山口: あれ、腰が引けてるの?

川端: いや、明らかに引けてるでしょう。だって『週刊新潮』なんて、最近は御用学者座談会みたいのもあったし。

青木: 逆張りしているというところも、若干・・・。

川端: まあまあ、若干あるかもしれない。

青木: という気がします。世の中が反原発行っているから、こちら振っとくかみたいなところもあるんですね。

川端: まあそうですね。そうそう、そういう意味で言うと、これは半分冗談なんですけど、最大のタブーはAKB(48)でしょう。これは、やっぱりAKBのメディア対策っていうのはものすごく周到で、今までの芸能プロダクションとはやり方がまったく違うんですよね。AKBというのはご存知のようにAKSという運営会社がやっているんですけど、そこのスタッフなのかどうか分からないですけど、活字メディアは秋元(康)さんの弟さんがやってらっしゃるんですって。

青木: 僕よく存じ上げています。

川端: ああ、そうですか。

青木: 存じ上げてますよ、はい。

川端: とにかく普通今までだったら、要するに芸能プロっていわゆる三流週刊誌とか実話誌とかと付き合わないじゃないですか。なるべくだったら、せいぜいいわゆるファッション誌とか、アイドル誌とか、あるいは『週刊朝日』とか『文春』とかみたいな感じだと思うんですけど。それこそ『日刊ゲンダイ』から『アサヒ芸能』、『FRIDAY』に集中的に出ているわけですよね、AKBというのは。一番抑えなければいけない『FRIDAY』を徹底的に集中して利権をまいている。それで『週刊朝日』もずっと連載をしていますし、あるいは・・・。

山口: うちは表紙もやってました。

川端: そうそう、やってました。

青木: 販売部長、あんまり過激なこと言わないで。

川端: その中で、今言われているのは『文春』だけだろうと。

山口: 面白いから買ってください。

杉浦: 宣伝が入りました。

川端: でもあと、そうそう。(視聴者からの)コメントにも出てましたけど、電通も絡んでるので。

青木: そうですよね。

山口: いや、だから。

青木: 難しいのはね、僕ずっとつくづく本当思うんだけど、できるところとできないところっていろいろじゃないですか。 AKBが今できるところって言ったらどこなんだろう・・・『文春』、『新潮』なんかが若干やってるくらいですかね。

川端: そうですね。

青木: 他のところできないでしょう。だからなかなか・・・先のコメント見てたら「そんなに全部読めない」と言ってたんだけど、確かその通りなんだけど。ただこのネタだったら、検察だったら『朝日』はやれるだろうと。ただどうもちょっと最近、朝日は『週朝』はAKBはちょっと難しいのかなとかね。

 要するに、読み手の側がその雑誌の特性みたいな特質みたいな、この『噂の眞相』みたいに本当にあきれ返る、何でもかんでもばさばさ切るような雑誌というのはもう残念ながら今はあまりないので。読み手の側もある程度選ばなくちゃいけないというか、その雑誌の特性みたいなのを見切るというか、そうすると相当幅広く、ほぼタブーがないくらいにいろいろな情報を得られるんじゃないかなという気がしたんです。

川端: そうですね。

山口: でもタブーというよりも、やっぱりちょっと取材力の劣化のほうが心配かなと思いますよね。やっぱり何て言うかな、これがファクトだ、どーんというスクープが昔に比べて、自分がやっていた頃ももちろんそうなんですけども、先輩たちがやっていた時代に比べると、やっぱりだいぶ少なくなっているというか。

 結構、「論」で勝負する特集みたいな。具体的に言ったら、『週刊現代』とかかなり出たりするんですよ。見てみると、結構鋭角的な論を張っているんだけれども、じゃあそこに何か驚くようなファクトとか、表に出てなかったような暴きがあるとかというのがちょっと少なくなっているのが、この業界全体のちょっと心配なところかなと思うんですけどね。

・「僕自身も含め公人にプライバシーはない」 元副編集長が語る雑誌『噂の眞相』の”野良犬”ジャーナリズム 全文(後編)
http://news.nicovideo.jp/watch/nw133843

◇関連サイト
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http://live.nicovideo.jp/watch/lv66272093?po=news&ref=news#00:00:11

(協力・書き起こし.com

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