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都市と希望を描く作品集〜恩田陸『タマゴマジック』

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 みたらし団子はあまり好きじゃない(あんこか海苔のついたものがいい)。エヴァンゲリオンは最終回を観終わったとたんに「コレジャナイ」感が込み上げてきた。芥川龍之介「藪の中」を読めば「どれが真相なんだ!」と絶叫してしまう(そもそもこの物語はなんで映画になると「羅生門」って題名になるんだ!)。そんな白黒はっきりしないものが苦手な私が好きな作家は、恩田陸。人間とは矛盾のかたまりといえよう(そういえば塩キャラメルも好物)。

 恩田氏の最新刊『タマゴマジック EGG MAGIC』は不思議な構成の作品である。中心に据えられているのは、15年近く前に東北地方の日刊新聞「河北新報」で連載されていた「ブリキの卵」という小説。それにカップリングできるのではないかと著者が思いついたのが、「この世は少し不思議」というエッセイだったのだそうだ。まったく別の時期に書いた連載だったが、「ブリキの卵」と内容がシンクロしているような気がしたとのこと。奇しくも「ブリキの卵」12回・「この世は少し不思議」11回ということで、サンドイッチのように互い違いに配置することができた。さらには「どうせサンドイッチにするなら」と、河北新報社の本社がある仙台をテーマにした小説でこれらを挟んでみようとのひらめきが。以前書いた作品である「魔術師 一九九九」(初出時の「魔術師」から改題)を最初に置き、書き下ろしの「魔術師 二〇一六」で締めてできあがったのが本書。

 東日本大震災が他の大きな災害と一線を画しているように感じられるのは、その規模もさることながら、津波と原発事故が合わせて発生したことが大きいと思う(阪神淡路大震災や最近起きた熊本地震の被害を忘れたわけではないことをご理解いただけるとありがたいです)。天災はひとつで終わるとは限らない、さらに人災まで重ねてやって来る可能性があるという事実に、我々はどれだけショックを受けたことか。仙台は恩田氏ご本人ならびにご両親の出身地だそうだ。「ブリキの卵」で不穏な事件が起きたS市は仙台のことだろうし、「魔術師 一九九六」も1980年代後半から1990年代前半にかけて凄まじい勢いで発展していく仙台という地方都市の姿に抱いた空恐ろしい感じが描かれたものだという。それから17年がたち、あの震災と事故を経験した我々にはまったく違った風景が見えるようになった。恐ろしさの質が違うというか。

 さて、冒頭にちらっと書いたが、恩田氏の作品には結末がはっきりと明かされないものも多い。本書の小説でいうと、「魔術師」2編はわりと理解しやすい感じがあるが、「ブリキの卵」は「え〜、これってどうなるの!?」というところで終わっている。しかし、今回結末で注目したいのはわかりやすさよりも、そこに希望があるかどうかということだ。「魔術師 一九九六」はどちらかというと不安が勝っているように思えるし、「ブリキの卵」に関しては怖いばっかりという気がする。しかし今年の年号が題名に含まれる「魔術師 二〇一六」、これはつらいできごとについて多く語られているが、逆転の目はあると思わせてくれる。苦しんだ記憶にさいなまれ進まない現実に苛立つ、そんな状況であっても明るい材料はあるのだと。

 本書は河北新報出版センターから刊行された。大型書店では平積みになっていたりもするけれど、小さな書店では入荷されていないところもあるようだ。当コーナーで取り上げさせていただいたことによって作品への注目度がアップするとすれば、たいへん喜ばしいことである。

(松井ゆかり)

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