東浩紀×川上量生 ハイコンテクスト文化となったニコ動はどう変わるべきか

川上会長(左)と東浩紀氏(右)

 ニコニコ動画は2回くらい死んでいる――2011年9月10日放送の「ニコ生思想地図」では、「『おもしろい』をセカイに広めるには」というテーマで、批評家・作家の東浩紀氏とニコニコ動画を運営するドワンゴ代表取締役会長の川上量生氏が対談。コンテンツについて、歴史を参考にしながら分析を加えた。この対談はニコニコ動画の今後を考える上でも示唆的なものとなった。

・[ニコニコ生放送]ニコ生思想地図 東浩​紀×川上量生 – 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv62772560?po=news&ref=news

 ニコニコ動画の立ち上げ当初、川上氏はその意義について何度も考えたといい、当時を振り返って、

「1日に7~8時間つないでいるユーザーって結構いるんですよ。それって日本のGDPにはまったく貢献していないんですよね。ということは、日本にとっては最悪のサイトなんじゃないかなと思って、凄い悩んでいた時代があった」

と冗談めかして話す。

 しかし、今ではそうしたコアなユーザーが生み出した初音ミクに代表される「ボーカロイド」楽曲など、ニコニコ動画発の文化が商品化されたり、世界中に日本文化のファンを作るきっかけになったりしている。つまり「最悪」どころか、日本文化の発信に貢献するサイトへと成長しているのだ。

 だが――。インターネット上のコミュニティは、一定の人数を超えたところで凋落が始まると言われている。はたして、ニコニコ動画はこの「宿命」から逃れることはできるのだろうか。

■内輪のハイコンテクスト文化は廃れる

 ここでキーワードになるのが「ハイコンテクスト文化」という言葉だ。ハイコンテクストとは、コンテクスト(背景)の共有性が高く、詳しい説明がなくても「察して」理解できるというようなことを指す。同世代や同じ趣味を持った人たちとのコミュニケーションが楽しいのは、コンテクストが共有されているからこそ。しかし、それが「内輪」になってしまうと、排他的になったり、敷居が高くなったりして、文化の規模自体が小さくなり最後は廃れてしまう。

 ハイコンテクスト文化の弱みはそれだけではない。東氏は、

「文化は残る必要があるのか、同時代の人だけで楽しめば良いのではないかという議論はあるが、仮に何かの作品が残らなくてはならないとなると、結局、コンテクストを剥奪されてどうするのかというのを考えなくてはいけないんですよね。つまり、『これは色んな知識を前提とすれば凄く良くできている』という作品は、ちょっとでもコンテクストがなくなると凄く弱いわけですよ」

と語る。今では浮世絵というと写楽が有名だが、当時はもっと人気のある絵師がいたという。江戸時代の人たちは浮世絵に描かれた、役者・作品・絵師といった要素の組み合わせ(コンテクスト)も楽しんでいたのだ。しかし、後世、そうしたコンテクストがなくなった時代に残ったのは、芸術的だと西洋人に人気のあった写楽の浮世絵だった。

 東氏はこうした歴史を振り返り、「長期的に見たら、オタク文化は滅びる。これだけハイコンテクストになって、市場も縮小していたら、それは滅びるだろうと思っている」と述べた。

 ニコニコ動画に黄昏が訪れ、「面白い人」がいなくなったとしても、その人たちの作品はアーカイブで見ることができる。しかし、過去に流行ったその作品の多くは、コンテクストの失われた、「ワケが分からない」ものとして埋もれ、残ったいくつかの作品も当時とは別のコンテクストで観賞されることになるというわけだ。

■「もう1回動画を盛り上げたいんですよ」

「物事は新陳代謝を繰り返し、残っていく」

 東氏はさらに指摘する。「この国はいつのまにかかなり内向きになっていて、それを支えるように攘夷、いわゆる『外国人出て行け』みたいな感情が出てきている」。文化だけでなく、国全体が「内向きになっている」と言うのだ。ゆえに東氏はさらなる「開国」を訴え、長期的には国家の役割を減らすべきだと主張する。

 だが、この点について川上氏は意見を異にし、まず「鎖国のほうにどうやって持っていくかが大事」だと語る。AmazonやGoogleといった多国籍企業が、インターネット上での公共のルールを決める可能性があるからだ。「ネットが『世界中をフラットにつなげる』という(のは)、一見理想なんだけども、世界の大多数の人にとっては不幸せにしかならない」。

 では、ニコニコ動画はどうなるのか。必要となるのは「新陳代謝」だ。

「ニコニコはどんどん変わって行ってるんですよ。最初のニコニコはYouTubeに切断されたときに1回死んでいる。MAD文化もMADを削除したときに1回死んでいるし、生放送が始まったときも、そこで生まれ変わっていると思うんですよ。そういう新陳代謝を繰り返して行く形で物事って残って行くものだと思うんですよ」(川上氏)

 コミュニティの新陳代謝がなければ寿命を待つばかりだが、コミュニティそのものが変化すれば、「面白い人」はまた面白いことができるし、「凡人」から「面白い人」が生まれてくる可能性がある。

 川上氏は続けて、

「常に新しいことをやり続けているのはしんどいんで、いつかループにしたいなと思っているんです。最初のニコニコ動画に戻したい。ループしながら進化していくような螺旋を作れないかと思っているんで、早く、もう1回動画を盛り上げたいんですよ。最初のニコ動を再現したい」

と今後の目標を語った。

◇関連サイト
・[ニコニコ生放送]「もう1回動画を盛り上げたい」部分から視聴 – 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv62772560?po=news&ref=news#1:39:54

(野吟りん)

【関連記事】
「神回だああああああああ」 宮崎駿&鈴木敏夫がニコ生にサプライズ出演
「終わりなき日常」の終焉 東浩紀、再び大災害が起きたら「みんなパニックになる」
ニコニコ動画の曲がり角? 「ニコニコ大惨事」から見えてきたもの
ニコ動で見るのは「グロ動画」 北海道長万部のゆるキャラ・まんべくんインタビュー
初音ミク、海外初ライブ開催間近 クリプトン社長「世界をつなげる『ノリ』に」

  1. HOME
  2. 生活・趣味
  3. 東浩紀×川上量生 ハイコンテクスト文化となったニコ動はどう変わるべきか
  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。