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山の上で書店開業、とある女性の“移住・田舎暮らし”

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高知県香美市香北町の書店「うずまき舎」を切り盛りする村上千世さんは、かつて大阪で会社員生活を送っていた。しかし30代半ばにその生活にピリオドを打ち、たった一人で高知へ移住した。好きなことを生業にして田舎暮らしをする彼女に、今に至った経緯を聞いてみた。
人との出会いと交流から「ここに暮らす」という覚悟が生まれた

「うずまき舎」がある中谷集落はわずか8世帯が暮らす山間の小さな里。周辺は棚田が広がり、連なる山並みの先からは、かすかに太平洋が見える。ここから香北町の中心地・美良布までは車で約15分。遥か下界に見えるその市街地は、まるでミニチュアのようだ。もちろん店のまわりには、車はおろか人通りもほぼない。
 
まさに「辺鄙(へんぴ)」と言っても差し支えない場所に、村上さんが自宅の一部を改装して書店をオープンしたのが2014年3月。ここに住み始めて3年経ったころだった。

もともとは、神戸に住み大阪で会社員をしていた村上さん。島根県の田舎出身の父親の影響もあり、昔から自然の多い田舎の生活に憧れていた。そんな時、高知県在住の布作家・早川ユミさんの著書『種まきノート』を読み、出版記念のワークショップに参加した。早川さんは田舎に住みながら、ものづくりや執筆を仕事にして、畑で家族の食べる野菜や果物を栽培していた。その暮らしは村上さんが夢に思い描いていた生活そのものだった。

そこで軽い気持ちでそのことを早川さんに告げた村上さん。すると早川さんは「すぐに行動に移すべき!」と思いのほか強く移住を勧めた。早川さんからすれば、当時30代の村上さんが思い切った行動を起こすには、その時が最後のチャンスと捉えていたのかもしれない。

会社を辞める決意をした村上さんは休暇を利用して、遊びで高知へ何度か足を運ぶことになる。そのうちに友人もできた。「最初は高知で住むとは思っていなかった」と言うものの、友人のあたたかいもてなしや交流が「ここで暮らしていけるかも」という確信に繫がっていく。それまで一人暮らしをしていたため、移住に際して両親から強い反対はなかった。なにより早川さんが近くに住んでいることが大きな決め手となった。

【画像1】一人でお店を切り盛りする村上さん(写真撮影:藤川満)家主さんと地域との「風通しのいい関係」が田舎暮らしのポイント

まずは高知市内に暮らし始めた村上さん。早川さんの仕事を手伝いながら、その職場近くで住まいを探した。そこでも地元で知人が多い早川さんの存在は大きな力となった。後に「うずまき舎」を開くことになるこの家も、彼女が一緒になって家主さんと交渉してくれた。

賃貸交渉の際に「夜は真っ暗になって怖いよ。試しに一晩泊まってみたら?」と家主さんに課題を与えられた村上さん。とはいうものの、それは最初から覚悟の上のこと。その課題も難なくこなし、思いのほかスムーズに交渉は成立した。

建物は母屋と離れ、そして別棟の風呂とトイレ。そのうち貸してもらったのは2階建ての離れ(1階土間・店舗スペースの6畳・台所、2階5畳・8畳)。風呂とトイレは、畑作業のため週1回程度やってくる家主さんと共同利用だ。「毎週家主さんと顔を合わすから、意思の疎通もしやすい」。仲介を通さない賃貸の場合、家主と何でも言い合えることが大切なのかもしれない。

家賃は都会の住宅事情からすれば破格の2万円。しかし最低でも月1回は草刈りや掃除など、集落の行事に参加しないといけない。ゆえに「労働力の提供が家賃に含まれるとすれば、額面だけで安いと思って欲しくない」と言う村上さん。田舎暮らしに憧れる人たちにとって、これは考えさせられる一言だろう。

【画像2】店舗スペースにはもともとは農具などが置かれていた(写真撮影:藤川満)標高約400mの山の頂で本に囲まれ暮らすこと

早川さんの手伝いをしながら、今後の人生設計に悩んでいた村上さん。ある時、飲食店を経営する友人のお店の一部を、二日限定で自由に使わせてもらえることになった。何をしようかと考えた結果、本好きだった自分が集めた蔵書を販売してみた。自分の好きな本を他人が買ってくれたことの喜び。これが「うずまき舎」開店へと繫がっていく。

当初は香北町の中心地・美良布に店舗を賃貸することを考えたが、適当な物件はなかった。考えた末に、住居の1階部分を店舗にすることを思いつく。家主さんに相談を持ちかけたところ、意外にも二つ返事で許可が出た。家主さんがかつて図書館司書で本への理解が深かったというのも、書店開業への追い風となった。

2014年3月オープン。6畳ほどの店舗には古本、新品あわせて1000冊ほどが並ぶ。店舗内のテーブルはカフェスペースとして、コーヒーなどの提供も行う。高知市内から約1時間かかる山の上にあるため、平日のお客さんは多いとは言えない。しかし噂を聞きつけた本好きが徐々に足を運びつつある。

通常の営業に加え、第一土曜日と都合のつく土曜日の1、2回は高知市内で開かれる青空市「オーガニックマーケット」に出店。また不定期で各地のイベントやブックフェアにも出店することで売上げを確保する。その一方で生活は、近所の農家に野菜を分けてもらったりするなど、田舎ならではの恩恵にあずかり、支出はそれほど多くない。

【画像3】九十九(つづら)折りの山道の各所に看板が立つ。見失わないよう慎重に進みたい(写真撮影:藤川満)経済的な豊かさを取るか精神的な豊かさを取るか

「会社員時代ははるかに贅沢をしていたが、今の生活のほうが心は満たされている」という村上さん。先に述べたように食材は分けてもらうことが多く、食費は月に1万円もかからない。買い物は極力控え、ガソリン代も節約する。それにより食生活も自然と野菜中心になった。

旬の野菜は飽きがこないように、あらゆる調理法を試みて、料理のレパートリーも増えたという。店舗の本棚を眺めてみれば、料理や物づくりのジャンルが多いことも自然とうなずける。さらに小さなスケールで考える経済学の本もあり、村上さんの世界観を見事に反映している。

「ご飯をちゃんと三食つくって家で食べて、足りなければ畑から採ってくる。そんな生活がしたかった」。現在、小さな畑も借りて、農作業にもチャレンジしている村上さん。自然豊かな環境で好きなものに囲まれ、のんびり過ごす姿は、充実感にあふれていた。

【画像4】取り扱うジャンルはすべて村上さんが読みたい本(写真撮影:藤川満)

【画像5】うずまき舎から見える棚田と山並み(写真撮影:藤川満)

憧れの田舎暮らしをしながら、自分の好きなことを生業にした村上さん。理想の生活が実現できたのも、早川さんをはじめとする高知の友人たちの存在が大きい。女性一人で見知らぬ土地で生活を始めるには、移住前から心の支えとなり得る人間関係を築き上げることが大切なのかもしれない。●取材協力
うずまき舎
元記事URL http://suumo.jp/journal/2016/01/08/103526/

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