「えぇい!東電のステークホルダーは化け物か!」――東京電力関連報道をめぐる謎
あれだけ沢山いたマスコミはどこへ行ったのか?
ニュースバリューがあるけれども、マスコミが積極的に取り扱わないネタがある。例えば、東電改革論者「古賀茂明」さんが経産省からクビ宣告された問題、経産省の東電救済法案「根回し文書」問題、そして原発機構法全般の問題。これら全てに共通するキーワードは「東京電力」だ。そしてその背後に見えるのは東京電力により利益を得ているステークホルダー(利害関係者)の力だ。
ステークホルダー(利害関係者):
東電問題の場合、直接的には「銀行」「株主」がそれに相当する。さらに東電や関連企業から”広告”を得ている「マスコミ」、支持や政治資金を得ている「政治家」「国会議員」「政党」、資金や便宜供与を受けていた「学者」「研究者」、東電及び関連企業より仕事を得ていた「経済界」「取引先企業」、そして天下り等によって恩恵を得ている「経済産業省」をはじめとする各省庁、例えば「原子力委員会」「資源エネルギー庁」「原子力安全委員会」「原子力安全・保安院」等と、天下り先となる関連企業そのものも利害関係者に相当する。実に広範囲にわたり、その実態や利益供与の流れは不透明な部分もある。そしてこれらが不透明なまま巨額の税金がここに投入されようとしている。(関連: Wikipedia「ステークホルダー」 http://bit.ly/oVGqjx [リンク])
例えば、東電救済法の「根回し文書」問題。これは、電力会社が経産省を動かし、水面下で野党に「根回し文書」を配布し「東電救済法案」を利害関係者にとって都合のよいものにしたのではないか、という問題だ。この問題は今メディアを賑わしている九州電力の「やらせメール」問題や、四国電力の「シンポジウム動員」問題と同等、もしくはそれ以上に根深い問題だ。しかしながら大手メディアは、九州電力、四国電力の問題は扱っても、東京電力が関わっている可能性がある問題については扱っていない。この電力会社間の「問題格差」は一体なぜ発生するのだろうか。
言論はお金で買うことができる
電力会社は大手メディアに広告を出すことによって「言論を買っている」と言われている。東京電力は実に多くのニュース番組のスポンサーを担当していると言われている。少し調べてみよう。
「テレビ番組スポンサー表 @ wiki」というサイトがある。このサイトは、どのテレビ番組にどういうスポンサーがお金を出しているのか、検索できるという面白いサイトだ。ここで「東京電力」を検索した結果が以下だ。
■「テレビ番組スポンサー表@wiki」を「東京電力」で検索
スーパーJチャンネル
チバテレビ
テレ玉
テレ朝系昼1200~夕方1700
テレ朝系朝400~昼1200
テレ東系夕方1700~深夜2400
BSフジ
CX系夕方1700~深夜2400
CX系朝400~昼1200(「めざましテレビ」など)
群馬テレビ
開運!なんでも鑑定団
FNNスーパーニュース
news every.
NEWS23
NEWS23X
NNN NEWSリアルタイム
NTV系夕方1700~深夜2400(「真相報道バンキシャ!」など)
NTV系昼1200~夕方1700
NTV系朝400~昼1200
TBS系夕方1700~深夜2400
TBS系朝400~昼1200(「朝ズバッ」など)
報道STATION
※()内は編集部補足
http://bit.ly/pNcMVK [リンク]
どうだろうか。あなたが普段観ている報道番組がないだろうか。実に多くの「報道番組」「情報番組」がヒットするが、あなたがこれらの番組を情報源にしている限り、東京電力、ひいては福島原発の問題について正確なニュースを得ることは不可能だろう。
ひとくちに広告とはいっても、直接東電から出される広告だけではなく、東電の利害関係者、例えば銀行などの広告のゆくえについても注視しなければならない。広告に依存しているのはテレビだけではなく、新聞等他メディアも検証の必要はあるだろう。実際、原発批判をした某新聞の広告が激減した、という話もきく。裏をかえせば新聞は、正義をおこなわないことで広告を守っているということができる。だとすればおおかたの新聞はもはや真実を伝え、正論を述べる場としては機能しておらず、テレビと同様、バランスのとれたニュースは期待できないといえる。
消えたマスコミの謎
東電改革の論文を発表したために経産省から不当なクビ宣告をされた「戦う官僚」古賀茂明氏は、超党派の勉強会で以下のように語っていた。
私をテレビに出すということについては、プロデューサーレベルで非常に大きな議論になって(だいたいの場合は)なくなります。ディレクターレベルで色んな局の人たちが、内々で私のところに来てご出演をお願いします。という話があって準備をしていると、ほとんど全部なくなります。( https://getnews.jp/archives/128516 )
「報道機関がそんなことをするなんて、本当か?」とか「国民の知る権利とか言っていつも取材してるのは何なの?」とかいうご意見はあるかと思うが、これが、現在の日本の報道機関の、生々しい現実だ。
ひとつ、わかりやすい事例を。以下の動画を観て欲しい。官僚である古賀茂明さんが、前代未聞の「大臣との直接会談」を行った直後の動画である。経産省内、部屋から出てきた古賀さんをメディアが黙々と追いかけている。最後は古賀さんが乗り込んだエレベーターにマスコミ関係者がどんどん乗り込み、重量オーバーのブザーが鳴っている。庁舎内が非日常的な状態になっている様子がわかるだろうか。
この後、経産省の1階フロアで古賀氏の緊急会見がおこなわれたのだが、取材にきたメディア関係者の数は、ざっと数えて30名ほど。スキャンダル報道と比べれば少ないだろうが、みなさんそれぞれカメラやICレコーダーを手に古賀氏の話にききいっている。ここまでは普通の風景だろう。なにしろこのニュース、東電改革の論文を発表したがために経産省からクビ宣告された官僚という、これだけでも法的根拠が皆無の、想像するだけで恐ろしくなってくるような話なのに、さらにその官僚が現役大臣と直接対決、サシで会談をおこなったという、まさに前代未聞のニュース。現場で取材にあたる記者の人達は、「これはニュースだ」と直感し、これだけの数が集まったのだろう。
現場の記者の判断では「ニュース」でも、なぜか配信されない
しかし翌日、この出来事は殆ど報じられなかった。TBSがこの話題に触れた、という情報と、翌日朝のモーニングバード!に古賀氏が電話出演したという情報。東京新聞の長谷川氏がいくつかこの件について執筆されており、ウェブでは「ゆかしメディア」という富裕層向けニュースサイトが報じた、という情報のみ。あまりにも少ない。
以下は、Googleニュースでの、この件に関する検索結果だ。
http://bit.ly/q5Pm6P [リンク]
……たったこれだけ。
日本のエネルギー政策の将来を占う重要法案の報道がほとんどおこなわれない
「原子力損害賠償支援機構法案」についてもそうだ。この法案は「東電救済法案」とも呼ばれ、「機構」というものを作ることにより、東電の利害関係者(ステークホルダー)を救済し、国民負担を増やすものとして批判されている。また、この法案が成立することにより、将来的な電力自由化や電力改革の道が絶たれ、電気料金は高くなったままで自由競争の可能性もなくなると言われている。このように重要な法案なのだが、この採決が8月2日におこなわれ、3日に成立する、ということをどのだけの人が知っているだろうか。衆院通過から参院まで、スピード採決で進んできたこの法案についての最近の報道は、淡々と事実を述べる短信ばかりで、それがもたらすものについて解説がおこなわれているものはない。実はこの法案について、6月あたりまでは政官財を巻き込んでの熱い議論がおこなわれていたのである。しかし何故か議論は急速にトーンダウンし、遂には水面下で民主党と自民党が手を結び、あまり注目もされない状態で事実上明日決着をする。
ちなみに、この法案の現状に関連するニュースをGoogle ニュースで検索すると、6件ヒットした。
http://bit.ly/onQBsh [リンク]
一般的によく知られているニュースをGoogleニュースで検索すれば、通常は100件近くの関連ニュースがヒットする。それを考えればあまりにも報道が少ない。
ニュースの価値のはかりかたは、媒体によって違うだろうが、現状は偏りがあると言わざるを得ない。現状の報道は、きちんとニュースバリューを評価していると言えるだろうか。
……編集部が停電になってしまっては困るのでこれ以上は書かないが、みなさんも「ニュース」の重み付けがきちんと行われているか、考えながら報道に接してみて欲しい。そしてもし「ニュース」の重み付けに偏りがあるようであれば、そのメディアからは決別して欲しいと思います。
トンチの効いた新製品が大好き。ITベンチャー「デジタルデザイン」創業参画後、メールマガジン発行システム「まぐまぐ」を個人で開発。利用者と共につくるネットメディアとかわいいキャラに興味がある。
ウェブサイト: http://getnews.jp/
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