病院から看護師が消えていく・・・崩壊寸前の医療現場

access_time create folder政治・経済・社会
匿名で出演し、現場の状況を語った現役看護師

 今、全国の病院で看護師不足が深刻化している。厚生労働省によると、全国で約5万6000人の看護師が不足しているという。看護師不足は彼女・彼らの過重労働につながり、医療ミスや医療過誤を誘発、結果的に国民の健康を脅かすことになりかねない。2011年7月25日に放送されたニコ生トークセッション「看護崩壊~病院から看護師が消えていく~」では、ゲストに日本医労連副委員長の山田真巳子さんと、現役看護師を招き、看護師が医療現場から消えていく原因を検証。崩壊寸前の医療現場での過酷な労働環境の実態が浮き彫りとなった。

■看護師の23人に1人は過労死危険レベル

 日本の医療水準は長年世界1位の座を維持してきた。しかしそのポジションは、看護師をはじめ医師など現場で働く者たちの犠牲によって、何とか維持されてきたという現実がある。日本看護協会の推計によると、全国で約2万人の看護師が過労死危険レベルとされる月60時間以上の時間外勤務をしており、看護師の23人に1人はこうした勤務状態に。その結果、全業種の平均勤続年数は約9年にも関わらず、看護師は約7年と短く、毎年およそ10万人もの看護師が過酷な労働環境を理由に離職しているという。

 匿名で出演した現役看護師によると、看護師が離職する主な理由は、

「アンケート結果によると、仕事の(肉体的・精神的な負担が重い)わりに給料が低い。人員が少ないのでなかなか休みが取れない。勤務者が少ないので、受け持ち患者数が夜勤で十数名、日勤だと6~7名になり、責任ある仕事なので(医療)事故を起こすことがあるのではないかと不安を抱いている(ことなどが理由)」

 人員が少ないため、「8-16時」「16-24時」「0-8時」の3交代制と言いつつも、16時から0時過ぎまで働いてから引継ぎし、帰ったその日の朝8時から勤務するという「準夜日勤」と呼ばれるものもある。生理休暇はほとんど取れず、丸1日休めることは少ないという。

 そもそも看護師不足の背景には、「増大する医療費が国を滅ぼす」と、1980年代から政府が推し進めてきた「医療費抑制政策」が発端にある。医療費が抑制されたことによって病院は不採算経営に陥ってしまい、必要とするだけの看護師を雇えなくなった。その結果、少人数で患者に対応しなくてはならなくなり、一人当たりの負担が増大、厳しい労働環境が離職を促進、さらに労働環境が悪化と、悪循環に陥ってしまっているのだ。

■看護師の数は80年代から2倍近くに。なぜ不足?

日本医労連副委員長の山田真巳子さん

 しかし山田さんによると、1980年代と比べて看護師数は2倍近くも増加しているという。では、なぜ看護師はいまだに不足しているのだろうか。山田さんは看護師が不足している要因をこう分析する。

「医療が高度化し、入院日数が本当に短くなり、年齢の高い方が入院されるようになった。それから事務的な書類の手続きがすごい増え、業務が増えたので、(結果的に)看護師の労働状況は改善されていないのが実態」

 仕事が増加・複雑化・高度化したので、他の職種との業務分担を積極的に行っていくべきだとした。また、全国で60万人いる看護師免許を持っていながら従事していない看護師(=潜在看護師)の存在も、看護師不足の一因だと指摘。

「60万人いる潜在看護師が働けば、働き続けていれば、もっと(看護師の労働環境は)改善するのに、どんどん辞めていってしまうからなかなか改善しない」

 この潜在看護師を現場に呼び戻すためには働きやすい環境を作ることが必要で、そのためにはやはり看護師数を増やすことが必要だと、山田さんは話す。

「働き続けるためには、最終的には人手(の充足)しかない。人手を確保するためには、病院は経営をしていかなければならないので(看護師を必要数雇えるだけの額に)診療報酬を見直していただかないと。そして8時間勤務が本当に8時間勤務で終わるように。それから、夜ちゃんと寝られるだけの時間間隔があるとか、そして例えば子供を持っても結婚しても、習い事に行きたくても研修に行きたくても、それが計画できるような勤務体制(を確立してほしい)」

 看護師の養成数は増やしているが、結局労働環境が厳しいため長く働くことが出来ず、大量採用・大量離職の悪循環に陥っている看護師不足問題。養成数を単純に増やすだけではなく、今看護師免許を持っている人たちの利用、つまり離職率をいかに減らし大量の潜在看護師を活用出来るかが、この悪循環を断ち切るための鍵となってくるだろう。看護師の労働環境を守ることは、質の高い医療・看護提供体制が整えられ、私たち患者の健康と安全を守ることにもつながる。

(中村真里江)

◇関連サイト
・[ニコニコ生放送]「なぜ看護師が離職するのか」から視聴 – 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv57469245?po=news&ref=news#0:03:19

【関連記事】
動かない日本社会――宮台真司×飯田哲也、エネルギー政策と日本人を語る
中国当局は何に怯えているのか? 中国社会の矛盾と不満を分析
池田信夫氏、地デジ化は「テレビ業界の古いビジネスモデルを守るため」
京都大学助教・中野氏「東北を復興させる為にはTPPに参加するな」
作家・東浩紀氏、震災前の著書は「黒歴史みたいなもの」

  1. HOME
  2. 政治・経済・社会
  3. 病院から看護師が消えていく・・・崩壊寸前の医療現場
access_time create folder政治・経済・社会
  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。