反原発派はマイカー全廃に賛成を

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フリーライター宮島理のプチ論壇 since1997

今回は宮島理さんのブログ『フリーライター宮島理のプチ論壇 since1997』からご寄稿いただきました。

反原発派はマイカー全廃に賛成を

反原発派がよく言う「こどものいのちを守れ」というスローガンに違和感を覚える。都市部住民を扇動するために原発事故を政治利用しているだけではないのだろうか。

原発事故で対応が急がれるのは、まず、現場で復旧作業にあたっている作業員の環境改善である。彼らは、急性放射線障害という危険と隣り合わせで働いている。今のところ、原発事故による死者はゼロだが(過労と思われる原因で亡くなった作業員はいた)、現場の環境が改善されなければ、急性放射線障害による死亡という最悪の結果も招きかねない。現場に“特攻”を強いることなく、最大限、作業員の安全を確保しながら、長期戦で復旧を進めていくのが政治の責任である(その点で、目算もなく場当たり的に安全性度外視で現場に“特攻”を強いた菅政権は指揮官失格)。

次に対応すべきなのは、原発周辺の土壌汚染と海洋汚染である。これは、農業や漁業に大きな影響を与えるので、金銭的な補償をしながら、除染を進めていく必要がある。こちらも、おそらく長い戦いになるだろうが、じっくりやっていくしかない(その点で、東電というか東電労組を守るために賠償スキームを作った菅政権は最悪)。

続いて、現在避難されている人々が自宅に戻れるようにしなければならない。こちらは、土壌汚染や海洋汚染への対応よりは短期間で終わるだろうが、それでも今日明日というわけにはいかない。同じく、金銭的な補償をしながら、放射線量を注視し、必要に応じて除染を進めていく必要がある(その点で、避難の初動を誤り、逆に住民の被曝量を増やした菅政権は論外)。

以上が、原発事故による本質的な被害である。現場作業員の急性放射線障害の危険、原発周辺の土壌汚染と海洋汚染、避難している住民の生活と日常復帰、の3点に(政治的資源を含む)資源を集中させるべきだ(その点で、政治的資源を浜岡原発停止“要請”というパフォーマンスや“自然エネルギー”という夢物語に浪費させている菅政権を即刻退陣させなければ、原発対応は前に進まない)。

しかし、同じ福島県だからというだけで、風向き的に問題ないところで、反原発派が「こどものいのちを守れ」と煽っている。さらには、原発から遠く離れた都市部でも、「こどものいのちを守れ」コールが鳴り響いている。急性放射線障害が起こるわけでもない微量の放射性物質でそこまで騒ぐのは、都市部住民を扇動して、政治勢力を拡大したいからだとしか考えられない(「父祖の地を守れ」なら理解できるが、それでは原発周辺に限られてしまうので、むしろ都市部に拠点を置くべく「こどものいのちを守れ」という煽り方をしているのだろう)。

発癌性についても、因果関係が証明できない程度の微量な放射性物質でしかない。もちろん、リスクがゼロというわけではなく、リスクが多少は上がるだろうが、それでも他の要因を押しのけて、微量の放射性物質が主因になるかどうかは証明が難しいだろう。もし、「こどものいのちを守れ」という政治スローガンがまかり通るなら、将来、まったく別の要因で癌になったケースまで、原発事故が原因だと難癖をつけて(因果関係は証明できないのだから感情論でわめき散らすだろう)、治療費を全額税金で補うということにもなりかねないのである。

「こどものいのちを守れ」と叫ぶ人が、原発事故を政治利用しているのではなく、本当に子どもたちの生命を心配しているのだというなら、そういう人は漏れなくマイカーを保有していないと信じる。そして、「マイカー全廃」という私の主張に賛同してくれるはずだ(マイカー全廃は半分皮肉だが、半分本気で考えている)。

マイカーから出る排気ガスには発癌性*1 がある。ディーゼルエンジンなら紫外線と同程度、ガソリンエンジンならコーヒーと同程度の発癌性だ。仮に、マイカーの中でタバコを吸っていたとしたら、放射性ヨウ素と同程度の発癌性を持つ受動喫煙も行われていることになる。喫煙者でマイカーを運転しながら、「こどものいのちを守れ」と反原発を訴えている奇特な人はまさかこの世に存在しないだろう。

*1:「IARC発がん性リスク一覧」『フリー百科事典 ウィキペディア』
http://ja.wikipedia.org/wiki/IARC発がん性リスク一覧

もっとも、発癌性はたいした問題ではない。マイカーから出る排気ガスは、ぜんそくを引き起こす。因果関係の証明できていない発癌性と違い、排気ガスとぜんそくについては、先月、環境省が「関連性がある」*2 と認めたばかりだ。
さらにここからがきわめて重要な点だ。というのも、マイカーは史上最強の“殺人兵器”なのである。

*2:「車の排ガスで小学生のぜんそく増加 国、関連性認める」2011年05月25日『asahi.com(朝日新聞社)』
http://www.asahi.com/national/update/0524/TKY201105240589.html

子どもの死亡原因*3 を見てみると、“不慮の事故”が最も多い(1~9才)。さらに“不慮の事故”の中では、“交通事故”がダントツで多くなっている。原発事故によって死亡した子どもはゼロ(おそらく今後も因果関係の証明できる死亡はゼロの可能性が高い)だが、マイカーは日常的に多くの子どもを殺している。自分自身はマイカーを保有していなくても、外に出れば他人のマイカーが走っているので、否応なしに交通事故に巻き込まれる。「こどものいのち」を守るためには、マイカーを全廃するしかない。

*3:「第Ⅸ章 【 小児の事故 】」『独立行政法人 国立成育医療研究センター研究所 成育政策科学研究部』
http://www.nch.go.jp/policy/syoseki/jiko.htm

リスクがあっても商用車には社会的メリットがあるので存続してもらった方がいいけれども、単なる個人の趣味でしかないマイカーは純然たる“殺人兵器”であり、全廃するのが最善の道だ。地方でマイカーが足になっているところもあるだろうが、そういうところはバスやタクシーを増やせばいい。プロの運転手が運転する方が、安全性は増す。マイカーのように、シロウトが運転する“殺人兵器”をまず全廃することが急がれる。

もし、マイカーは自分も使っているのでマイカー全廃には賛成できないというのであれば、原発だってその電力をすべての人が使っているのだから反原発を訴えることもできないはずだ。まして、マイカーの場合は、マイカーを使っていない人がマイカー全廃を訴えたとしても、おそらく多数派に反対されて全廃はかなわないのである。こんな理不尽な話があっていいのだろうか。

仮にマイカー全廃を実現すれば、脱原発にもつながる。マイカー全廃によって、おそらく日本の自動車産業は壊滅的打撃を受けるだろう。それにより、消費電力が減るので、原発の数を大きく減らすことができる。うまくいけば、原発を全廃しても、火力発電を少しだけ増やせば、(マイカーが全廃されたということを除いて)これまでと同じ生活が続けられるかもしれない。パチンコや自販機で人は死なないが(パチンコにハマって生活が乱れる人はいるようだが)、マイカーは多くの人を殺す。節電という意味でも、まず制限すべきはマイカー(の生産)だ。

自動車産業が壊滅的打撃を受ければ、周辺産業も含めて日本経済にも大きなマイナス要因となる。ただ、マイカーのような古い産業は、むしろ速やかに新興国に移転してもらって、日本ではコンパクトシティー化など、新たなインフラを整備していく方がいいのではないだろうか。人材や資本も、より収益性の高い新しい産業へと移ることで、長期的には日本の生産性向上と健全な経済成長につながることが期待される。

このように、いいことずくめのマイカー全廃だが、問題は短期的に自動車産業から大量の失業者が出るということだ。そして、自動車労組は民主党政権の巨大な支持母体でもある。大手マスメディアも自動車産業の広告費で支えられている。“御用学者”の数は原発産業の比ではない。マイカー全廃は、反原発と同じか、それ以上に実現は難しいだろう。それでも、原発事故をきっかけに「こどものいのち」というものが改めて注目されている今、マイカー全廃は真剣に考えてみてもいい課題だと思う。少なくとも私にとっては、原発から遠く離れた都市部での放射性物質よりもずっと切実な“今そこにある危機”である。

追記:なお、本エントリの続きとして「反原発は反普天間と同じ結末招く」*4 も是非ご覧いただきたい。原発問題に関する私のスタンスや、反原発派と原発推進派が同根であるという実態、反原発運動のすり替え(マイカー全廃と言わない理由)、反原発がかえって“脱原発”をつぶす可能性についても、改めて整理してある。

*4:「反原発は反普天間と同じ結末招く」2011年06月24日『フリーライター宮島理のプチ論壇 since1997』
http://miyajima.ne.jp/index.php?UID=1308893699

執筆: この記事は宮島理さんのブログ『フリーライター宮島理のプチ論壇 since1997』からご寄稿いただきました。

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